Japan Geographic

看板考 柚原君子


 

 

■  「塵芥票」

  

所在地:埼玉県蕨市

2021年7月、熱海市伊豆山に産業廃棄物が不法投棄されていた可能性が高い山の部分がくずれて、土石流を引き起こして人命が奪われたニュースは未だ耳新しいです。産業廃棄物は廃棄費用が高いので不法投棄をする業者が後を絶たないらしいとのこと。


廃棄物処理法をひもといてみると半世紀の歴史が有り、それ以前には汚物掃除法というものがやはり同じ半世紀くらいの歴史を持つ、とあります。


汚物掃除法にはコレラやペストの流行を恐れてネズミの買い上げなどもあったといいます。


この汚物掃除法は、目的・規定もない全文11カ条の小さな法律で、しかも対象とする「汚物」に関する定義規定もありません。この法律の第1条の中に 「塵芥汚泥汚水及屎尿」があり、「塵芥」という文字が出ています。


その処理責任は「土地ノ所有者ハ汚物ヲ掃除シ清潔ヲ保持スルノ義務ヲ負フ」または「市ハ…汚物ヲ處分スルノ義務ヲ負フ」と明記してあるり、これらは現在の産業廃棄物処理法にも引き継がれているはずです。


当該の錆びたホーローの「塵芥票」は蕨市のとても大きな民家の戸口上にありました。
蕨町とあるので(蕨町になったのが1889年。蕨市になったのが1959年)、汚物掃除法施行されたのは1900年なので50年から100年くらい前の「塵芥票」と見て取れます。

当時はおそらくトラックを持つことも少なかったでしょうから、遠くの山に捨てに行くことなど出来なかったでしょうが、なによりもきちんとしたことをきちんとするという人間性がしっかりとしていたような気がします。
こうやって戸口にしっかりと示し、町やあるいは県にお金を払って捨てていたのでしょうね。

古い家の戸口上には「NHK」や「Gで示すガス」、「日赤の会員」や「固定資産税の家屋調査済証」などが貼られたりもします。自治体によっては「健康家族の家」などというのもみたことがあります。明示するものをきちんと明示して暮らすことが少なくなった今、人災による災害も増えています。熱海市伊豆山土石流の被害者の方々のご冥福をお祈りします。

 


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