持続可能都市(サステイナブルシティ)に関する研究 (モデルタウン「J-town2010」の研究)
Study of Sustainable City
サステイナブルシティの開発運営コスト
Infrastructure of Sustainable City
瀧山幸伸 初稿 2010 改訂 2011
インフラコスト 1/4、住宅コスト 1/10、食糧費 1/5 で都市全体のライフサイクルコストを 1/5 以下に
1. マスダールシティか従来型都市開発か J-town2010 か
都市はシステムであり、都市間競争は都市のライフサイクルコストと都市が生み出す付加価値の競争である。戦後急拡大した都市のインフラが次々と寿命を迎え、更新コストが大問題となっているが、東日本大震災を受け、インフラや都市そのもののあり方が見直されようとしている。
そもそも、都市を開発し運営するにはどれほどのコストがかかるのだろうか。
縄文のような原始コミュニティの時代にはコミュニティが自力で村や町を創っていたのでコストと言う概念は無い。時代が下ると洋の東西を問わず為政者が都市開発を行うようになるので、コスト把握は明瞭である。例えば城下町は権力者が単独で開発する都市なのでコストの把握は可能であった。
だが、現代の都市開発は、公共団体、インフラ事業者、デベロッパーなどが分業でその役割を担っているので、それぞれ、税金と公共会計、インフラ利用料、不動産価格と管理費などという形でしか見えず、都市を開発し運営するライフサイクルコストが一体いくらなのか、その指標も定まらず非常に把握しづらくなっている。都市経営学、都市工学など、都市全体を扱う学問分野でも統合的なライフサイクルコストの議論はあまり深くなされていない。
例えば、アブダビのサステイナブルシティ「マスダールシティ」は、開発コスト 2 兆円で居住人口 5 万人の町を創り、域外からの就労者人口 7
万人を収容するという計画だが、基本的には石油の潤沢な資金を持つ為政者が開発する産業都市である。居住者と就労者を合わせた 12
万人へのサービスを行う都市の開発に、一人あたり 1700 万円の初期コストが必要だ。60
年の運用コストも考慮すると、ライフサイクルコストはその倍程度になるだろう。このコストと他のサステイナブルシティのライフサイクルコストを比較すれば、マスダールシティがはたして投資に見合う都市開発なのかどうかという論点が明確となる。筆者は、初期に想定したマスタープランのうちコストパフォーマンスが悪いエネルギーシステムや交通システムは必ず見直しが行われるだろうと予測していたが、やはり
PRT(Personal Rapid Transit)と呼ばれる地下式無人走行自動車システムや大規模太陽光発電プラントなどは採用されなくなった。
多摩ニュータウンの例を出すまでもなく、従来型の都市開発手法はサステイナビリティの点で課題が山積みである。一方、J-town2010 は、モデルの単位として
5000 人 1500 世帯の、近隣住区より少し大きい程度の町を想定する。
例えば日本の地方にある辺鄙な土地、山紫水明で風光明媚だがリゾートにもならないような、他に良い土地利用案が見つからない土地でニュータウンを開発することを想定してみよう。その土地において、J-town2010
方式の、木造平屋、水耕栽培施設付きのサステイナブルハウス(「サステイナブルシティの住宅」の章参照)と、従来型の開発方式の主流である中高層集合住宅、集中インフラ方式とで都市のライフサイクルコストを比較するのだ。
もし J-town2010 が世界に乱立するサステイナブルシティを圧倒するコストパフォーマンスと付加価値創造性能を持っていれば、日本発サステイナブルシティのグローバルモデルとして自動車や電気製品と同様に世界展開できるのではなかろうか。これが普及すれば、開発途上国が安定的に発展することができる。逆に、現在の開発手法のまま中国のような大都市化が進めば、域内で調達できないエネルギーや食糧資源を求めて、戦前の日本が歩んだような覇権主義による武力紛争が頻発するだろうし、環境破壊も進むだろう。J-town2010 の実現可能性について検討してみたい。
マスダールシティ
とマスダールシティに関する考察
多摩ニュータウン (wikipedia)
J-town2010 の住宅イメージ例 北海道富良野市
風のガーデン
都市開発の仕様
マスダールシティは詳細が不明なのでさておいて、J-town2010 と従来型都市開発手法のライフサイクルコストとサステイナブル度を比較する前提となる仕様を以下に示す。
2. J-town2010 と従来型都市開発との比較
以下の図表のとおり、J-town2010 を 60 年運営した場合の世帯あたりライフサイクルコストは、インフラと公共建築部分では従来型の都市開発の 1/4
程度、住宅部分では従来型の 1/10 程度、それらを合算したライフサイクルコストは従来型の 1/5
以下と、圧倒的に安くなるとともに、「サステイナブルシティの理念」の章に沿った生活と職が確保される。もちろん CO2
排出も大幅に削減され、ライフサイクルカーボンマイナスが達成される。
コスト削減のカギを握っているのは圧倒的に住宅コストであり、住宅コストは非常に重要なテーマなのだが、住宅コストさえ解決すればサステイナブルシティになるのかと言えばそうではない。
住宅は別途詳述するとして、本稿では主にインフラと公共建築部分に注目して、サステイナブルシティ J-town2010
のシステムと従来型都市開発手法とでライフサイクルコストの比較を行った。
なお、前提条件と試算数値は問題提起を兼ねた非常に大雑把なものであり、その妥当性や公平性を議論したり保証することを目的としていないので、各自納得する数値に入れ替えるなどして検証する必要がある。
図1 世帯あたりライフサイクルコスト (筆者作成)
表2 世帯あたりライフサイクルコスト(初期費と運営費の合算表) (筆者作成)
表3 世帯あたりライフサイクルコスト(詳細表) (筆者作成)
3.J-town2010 の都市戦略
ライフサイクルコスト試算の前提
ライフサイクルコストの比較を行うにあたり、J-town2010 と従来型都市の仕様など、前提条件
を明確にしておかなければならない。
J-town2010と従来型都市の開発コストと60年運営コストを合わせたライフサイクルコストを比較
する。J-town2010 は、「水と食糧のサステイナビリティ」の章で述べたサステ
ナブルハウス(木造平屋・水耕栽培ユニット付き)で構成される。従来型都市開発は鉄筋コンクリート造中層住宅を想定している。
都市開発の立地、規模
コスト比較の前提として、日本の地方都市からかなり離れ、地方都市の経済圏(通勤通学圏な
ど)に従属しない全くの過疎地でのニュータウン開発を想定する。縄文の村のような水はけが良く防災を考慮した土地で、農業にもリゾート開発にも適さない原野などが例としてあげられる。
従来型都市は市街地用途の開発であるので農地転用が必須だが、J-town2010 は水耕栽培農業の自
作農農場であるから、耕作放棄地や牧場などの利用も可能である。
中心市街地の開発面積は半径 800m程度の円を想定し、200ha、素地 5000
円/坪と仮定する。ここに 5000 人 1500 世帯の町を創るので、1世帯あたり 3.3 人とする。
宅地割り
J-town2010 の宅地には水耕栽培施設が付属するので 240 坪/戸と、欧米の住宅地(1/4 エーカー300 坪が標準)や日本の別荘地のように広大である。宅地の有効率は 60%となる。 従来型は中高層集合住宅のスーパーロットで、同じく 60%の有効率を仮定するが、敷地は駐車場や緑地に利用される。
道路・交通
J-town2010 の域内交通システムは、以下の点で従来型都市と異なる。
・クリーンエネルギー交通を原則とし、域内交通は電動か人力を標準とする。スイスのツェルマット(資料)や住宅付きゴルフリゾートのような電気自動車のみの町が参考となろう。既存の化石燃料自動車は運行許可を得て低速走行可能とすればよい。
ツェルマット
(wikipedia)
・域内は人が歩く速さと同程度の低速に制限して人の安全を確保する。中心部では 5Km/h 以下、周辺部では 10km/h 以下が好ましい。このような低速でも小さな町なので 5 分もあれば域内を移動できる。
・低速であるがゆえにコストダウンの効果が得られる。J-town2010 の道路は 6m 幅の簡易舗装道路 で良く、歩道も必要ない。舗装は環境と保水性に配慮した雤水浸透型とする。一方、従来型都市開発では、60Km/h で走行する自動車に対応するため、域内主要道路は 18m 幅、歩車分離の頑丈な構造となるため、道路面積も建設費用もメンテナンス費用も多く必要となる。
・電気自動車は障害物を探知して停止する装置を備える。ゴルフカートと同等のイメージだが、低速走行の電気自動車であれば実装は容易である。
・電気自動車は各建物でプラグイン充放電を行う。バッテリーは戸別太陽光発電の蓄電機能も兼 ねる。移動型電源としても利用する。「サステイナブルシティのエネルギー」の章参照。
・電気自動車はカーシェアに利用したり、タクシー代わりの相乗りに利用する。本稿はグローバ ルスタンダードへの戦略を議論することが目的なので、日本の各種法規制をクリアする方策については議論しない。
・ハンディキャッパーには「サステイナブルシティの医療介護と健康」の章で考察したユニバーサルクレードルを提供する。
・自転車とランナーは上記自動車よりも高速で走行するので、危険回避のため専用道とする。
このような全く新しい概念で交通システムを設計運営している都市は一部のテーマパークやゴルフリゾート以外には無く、その点でも J-town2010
は革新的である。
既存都市の改造例で、サステイナブルシティの参考例として取り上げられている都市は、例えば米国カリフォルニアのサンルイスオビスポ(資料)であるが、街路景観や河川の修復で快適性を高めているにとどまる。コロンビアのボゴタ(資料)では、駐車禁止の徹底、公園整備、バス路線
の拡大、自転車道・歩道の新設、10 万本の植樹など、改善はあるものの、既存の自動車交通システムとの決別はできていない。ブラジルのクリチーバ(資料)も、バス、自転車、徒歩交通システムの改善が高く評価されているが、同様である。
J-town2010 の概念が全く新しいと言ったが、 本来、人が優先ということは、人よりも早く走ってはいけないということで、人の往来がある街 路を自動車が高速で走ること自体おかしいことなのである。我々は、洋の東西を問わず有史以来 ずっと、映画ベンハーのように馬車が街路を疾走することが当然という野蛮な交通文明に慣らさ れてしまったため、現代都市生活者の悲劇が続いている。本来、ベネチアのように車は街中に入ってはならないのである。
サンルイスオビスポ (wikipedia)
ボゴタ (wikipedia)
クリチーバ (wikipedia)
環境保全と公園計画
J-town2010 では、サステイナブルシティの理念に従い、環境と有用資源の確保、教育、精神的健康の保全などを考慮し、動植物園や水族館兼景勝池や鎮守の森などとバッファゾーンの農林地、 さらに外周部の自然保全ゾーンの総合的な土地利用を行うことが既存のニュータウン開発と異なる。
景観
環境の重要な要素である景観を例にとり、J-town2010 が導入するサステイナブルシティのシステムを述べてみたい。
・地場で得られる自然素材を基調としたナチュラルカラー
町の基調トーンに地域産の資材を利用することにより、町のアイデンティティを確保する。特色
のある石や土や陶磁器、草や木や花を産する土地ではそれらを利用するのは当然であり、しかもメンテナンスを含めコストが安い。
長崎出津の石壁の家 石を積んで間にアマカワ(砂、しっくい、赤土)を埋めている。 (筆者撮影)
・地域に象徴的なランドマーク景観を得る
例えば、中国と日本でその価値を共有している「八景」の展開である。自分たちの町の独特の名 勝景観は人々のアイデンティティであり、知的創造の源泉ともなる大きな付加価値である。
・シンボルツリーの保護育成
鎮守の森や学校内で千年単位の巨木を育て、ランドマークとして活用する。映画アバターでも見 られるように、クス、スギ、ケヤキ、ヤマザクラ等の巨木は住民の精神的なよりどころとなる。
鹿児島県蒲生八幡神社のクス 日本最大のクスノキで、想定樹齢 1500 年 (筆者撮影)
・山並と街並、主要景観ポイントからの景観を確保する
例えば建造物のスカイライン景観が自然と調和していること。バリ島など南国のリゾートで、ヤ シの木よりも高い建造物が禁止されているのと同様、人工物がスカイラインを乱すことは景観計画としては最低である。J-town2010 は全て低層の建築であるので、この点は保全されている。
・嫌悪景観の徹底排除
自然の造形を尊重し、人工的なデザインにしない。J-town2010 では、全ての土木建築に関する構造物や素材の形状が人工的なものを排する。道路の法面、電柱や街灯、建物の屋根形状など、全 て自然に近いデザインガイドラインが採用される必要がある。この点は今日の欧米都市でも非常 に厳しい。日本の伝統的な街並では配慮されていたが、近代の産業都市では全く考慮されてこなかった。
水門、音、光、大気、動植物
これらも環境の重要な要素である。J-town2010 を一つの自治体として考えると、200ha の市街地部、いわゆる DID(Densely
Inhabited District)のみでサステイナビリティが成り立つのではなく、半径数キ
ロ程度の周辺部バッファゾーンと一体で考えなければ本来のセルフコンテインドは達成できない。
それらを合わせた行政区域は、経済地理学的にも生態学的にも一つの河川の流域圏を基本単位とすることが好ましい。J-town2010
のサステイナブルシティの理念はその区域内で例えば下記のように達成される。
・泉のある町
流域圏を基本単位とすることにより、地下水の適切な管理が可能となり、湧き水が飲める町となる。
・騒音、光害の無い町
音や光への配慮は当然として、自然の音と光、それらの朝昼晩と四季との変化を尊重する都市計画と施設計画がなされる。
・生態系と生物多様性の確保
・貴重種の保全
J-town2010 の全域が自然公園、植物園、動物園、水族館、野生保護区であるという発想である。 貴重種を積極的に保全するコアゾーンとバッファゾーンを設け、バッファゾーンは人と自然との触れ合いの場とする。 動植物園や水族館兼景勝池、は既存都市の施設のように外来種や珍獣など生息環境が異なり管理コストが高い生物を対象とする施設ではなく、地域の希少種を後背地のバ ッファゾーンとともに保全する程度であり、それほどのインフラコストではない。
・潜在植生の回復
潜在林を回復することにより、生態学的に陸上及び沿海の生物多様性を促進することができる。
・ウェットランドの保全
ウェットランドは生態学的に非常に重要な保全対象である。ワイルドライフサンクチュアリー、ビオトープ、生態護岸などを整備して保全する。
・動植物との共生
一年中花や果樹が見られハーブの香り立つ植栽計画、例えばグラースのような花の町、米国東海岸の郊外住宅地のようなシカやリスが家の庭に来る生活が達成される。
・食料生産の場
食料の基本部分は各家庭の水耕栽培施設で賄うが、足りない部分は規模の大きい牧場や農場を産 業公園を兼ねる形で運営することにより理念を達成する。
・用材生産の場
周辺バッファゾーンの管理容易な場所で用材林としてスギ・ヒノキ等を植林する。 地域産の森林間伐材は平屋の住宅用に十分利用可能である。未だ研究室で成功している段階ではあるが、将来 の展望として、森林廃材等をセルロース分解して食糧や飼料とする研究や、用材に含まれるリグ ニンを生成してプラスチックの代わりとする研究が注目されている。これが実現すればJ-town2010 のサステイナビリティはさらに高まるであろう。(資料)
上水・下水
「J-town2010
型サステイナブルハウス」は「水と食糧のサステイナビリティ」の章で述べたとおり雨水を貯水して利用するため、雨水排水管、洪水調節池等が不要となり、コ
ストが削減される。各戸の処理水は水耕栽培に再利用されるので、公共下水は不要となり、そのコストも削減される。
上水に関しては、J-town2010
では雤水貯留設備と浄水設備が必要となる。従来型では上水道負担金と水道料金(全国平均 147 円/m3、7m3/人/月として 3400
円/戸)が発生する。
下水に関しては、J-town2010 は合併型戸別浄化槽が必要となる。従来型は下水道負担金と下水道料金(全国平均 122
円/m3 として 2800 円/戸)が発生する。
食料生産
食料生産機能を持ったセルフコンテインドのコミュニティ
J-town2010 は、サステイナブルシティの理念に従い、最小の施設単位である住宅毎に水・食料・ エネルギーのセルフコンテインド(自給自足)を目指す。不足分は地域内で融通する。それでも 不足する部分を外部調達する。そのようなコミュニティの具体例は、世界各地に数千年続く農村 であり、新しい概念ではない。日本では、散村や荘園が好例である。それらは、水・食料・エネ ルギーのセルフコンテインドシステムであり、寺社の庇護を受けた荘園や朝廷の庇護を受けた三 宅や御飼の一部は治外法権的な独立コミュニティとして千年以上サステイナブルであり続け、現在まで続いている。
散村 富山県砺波地方 (筆者撮影)
荘園 岩手県一関市骨寺荘園 中尊寺の庇護を受けた荘園 (筆者撮影)
大分県豊後高田市田染荘 宇佐八幡宮の庇護を受けた荘園 (筆者撮影)
「J-town2010 型サステイナブルハウス」は自宅敷地内に水耕栽培施設を持っているので、食料も自
給できるほぼ完全なセルフコンテインドシステムである。災害や戦争やパンデミックなどで水食料など物資やエネルギーの供給が断たれてもサステイナブルであり続けられるのは J-town2010
のみであり、この点が他の多くのサステイナブ
ルシティの概念と決定的に異なる。これにより、就労スタイルの選択肢も増える。サステイナブルシティの理念で「職住一体」を提唱しているが、農業はまさしく職住一体であり、さらに知的労
働や軽工業であれば、晴耕雨読のライフスタイルのように自宅で食料生産を行いつつ知的生産に
携わる就労が可能となる。具体的なイメージを例示すると、サステイナブルな農林水産業、すなわ
ち循環型農林漁業を目指して、栽培技術の開発と実用化を行う場合、いわゆる産学連携ではなく
産学一体となってオンサイトで行うほうが効率が良く、知的生産と食料生産が一体となっている
メリットが活かせる。広義のライフサイエンスに携わる研究者と事業者の協業あるいは兼業であり、専
業プロとアマチュア趣味人との境界をなくし、各自の職業と農林水産業との融合を推進するシステムであるとも言える。
エネルギー
「サステイナブルシティのエネルギー」の章で述べたとおり、J-town2010 では各戸が
再生可能エネルギーを自給するスタンドアロンシステムを原則とする。電気も給湯も設計標準と
して太陽光を利用するが、地域の特性に応じ他の再生可能エネルギーに代替される。電力会社に
よる大規模な電力網は不要である。もちろん、逆潮流の問題も発生しない。
ライフサイクルコストの試算において、発電設備に関しては、J-town2010
では太陽光発電 6KW/戸,蓄電池 10Kwh/戸を想定している。発電設備運営費は、従来型の都市開発では電気料金 10000円/月/戸を想定している。
給湯に関し、従来型都市開発では太陽熱温水器の設置スペースが不足し配管コストも発生するので難しく、給湯エネルギーコスト
6000 円/月/戸が発生する。冷暖房に関しては、断熱性能で EUの 2020 年規制値、10Kwh/年/m2
を採用するので、両方式ともそれほど多くのエネルギーを消費しない。便宜上、本稿では電力コストは都市インフラのコストに分類し、給湯・冷暖房コストは住
宅コストに分類している。
一般廃棄物
現存する都市とは異なり、今後開発される環境対応型都市においては再利用できないものはほ
とんど発生しないので、J-town2010 であっても従来型都市開発であっても大型の焼却炉は不要で
ある。生ごみは飼料、肥料などに再利用されるので焼却されることは無い。少量発生する可燃廃
棄物は焼却炉で温水生成し温浴施設等で利用することとなる。廃棄物処理コストは J-town2010 で
あっても従来型都市開発であっても同様なので、コストの比較対象から除外している。
通信設備
設備費用として、J-town2010
はコミュニティ自営の光回線網に加え地域内携帯通信サービスと地域サーバ等ネットワーク設備を、従来型は NTT の光回線と携帯電話一家分を想定している。
運営費用として、J-town2010 は光回線 1000 円/月/世帯、域内携帯通信費 200 円/月/人、従来型は光回線 6000
円/月、域内携帯通信費 500 円/月/人を想定している。
公共施設
J-town2010
の公共施設はサステイナブルシティの理念に従い、多目的共用である。建築物は原則として木造平屋である。一方、従来型の都市開発では RC 造を想定している。
学校及び社会教育施設は、J-town2010 では保・幼・小・中・高・カレッジ・社会産業教育・公共サービスの一体利用を想定している。2000
坪で、建築コストは 30 万円/坪、従来型は 4000 坪で、建築コストは 60 万円/坪を想定している。
行政施設の単独設置は無駄なので、J-town2010 には存在せず、上記学校及び社会教育施設の一部
に同居する。そもそも行政サービスのほとんどはコミュニティ自営の通信設備を利用して電子化するのでスペースはほとんど必要ない。従来型は 1000 坪で 60
万円/坪を想定する。
医療健康施設は、J-town2010 ではクリニックと重度介護施設と温浴施設がセットとなっている。500 坪で、30
万円/坪、従来型は 1000 坪で 80 万円/坪を想定する。
スピリチャル・冠婚葬祭施設は、J-town2010
では多目的公共施設としてコミュニティが建設する。300 坪で、30 万円/坪を想定する。
住宅
住宅コストは膨大かつ重要な項目なので「サステイナブルシティの住宅」の章で詳しく述べるが、住宅の初期費用として、J-town2010 は 30
坪/戸の平屋ユニット購入または資材キットを購入し DIY 施工、従来型は 12 階建て RC 造の集合住宅 30 坪を 100
万円/坪で購入すると想定した。
住宅メンテナンス費用として、J-town2010 は DIY メンテナンスで初期費の半額を、従来型は修繕積立金
1000 円/月坪と管理費 600 円/月坪と駐車場 3000 円/月と解体費用 10 万円/坪を想定した。従来型はエレベータのコストが必須である。
食料生産について、J-town2010 では水耕栽培施設費用と生産雑費とメンテナンス代を想定した。
従来型都市開発での食料購入費は、主食分として、一家が消費するカロリー(2000Cal/人日)と等価のでんぷん価格を想定し、小麦粉価格(4000
円/25Kg、366Cal/100g)とコメ価格(12000 円/30Kg、356Cal/100g
)の中間を採用した。水耕栽培の野菜相当分として、300 円/世帯/日を想定した。
税金、社会負担等
J-town2010 は自営自治が行われるので地方税は極小化する。さらに国全体、世界全体がJ-town2020型となる日には、国レベルの税金も世界レベルの国連負担金も、無駄な社会保障費、教育費、防衛費まで含めて長期的には極限まで減少する。この点は当研究の大きな目的であるが、今回はこれらのコストは本稿の検討対象外とした。
4. 22 世紀に向けて ~孫に責任を持つ世界を
22 世紀はとんでもない先の話のようではあるが、我々の孫が寿命を全うするころであり、彼ら
に対する責任は我々にある。現在の大都市ニューヨークの超高層ビルでも 80 年以上経っており、
都市開発に携わる者は百年後に責任を持たなければならない。2100 年の日本の姿は、おぼろげな
がら見えてきた。国が大幅な人口減を予測しているとおり、最低シナリオでは江戸時代の人
口水準まで下がる。そのような状態に戻った時、江戸時代の農村の高度発展系とも言える J-town2010は、少なくともサステイナビリティを維持できていると考えられるが、大都市はどうなるのだろうか。
逆に、22
世紀の世界はどうなっているのだろうか。予測では人口が100億人を超えるという。
そのような状態になった時、限られた資源、特にエネルギーや食糧を求めて、世界は相変わらず
戦争を繰り返しているのだろうか。そのような未来を見据え、将来に備えた都市計画を行うべきである。
参考資料
ツェルマット
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%84%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%9E%E3%83%83%E3%83%88
サンルイスオビスポ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%AB%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%82%AA%E3%83%93%E3%82%B9%E3%83%9D_(%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AB%E3%83%8B%E3%82%A2%E5%B7%9E)
ボゴタ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%82%B4%E3%82%BF
クリチーバ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%81%E3%83%90
三重大学 苅田研究室
http://www.bio.mie-u.ac.jp/~karita/sub3.html
(財)地球環境産業 技術研究機構
http://www.rite.or.jp/Japanese/kenki/gijyutu/20gijutu-kekka/20gijutu-03.pdf