秋田県八峰町 「白神の夢」ロケ地と出演者を訪ねる
Happo,Akita "Shirakami no yume" location site visit
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愛知万博国連館でも上映された、白神の自然と生活の課外授業、白神こだま酵母を使ったパン作り、子供たちを暖かく見守る人々が登場する秀逸ドキュメンタリー映画のロケ地訪問で知る教育とまちおこしの理想形。水清き地に心清き人々が生きる。
プロデューサー山下さんのメッセージ
「世界遺産」と獲れなくなった「ハタハタ」
私がはじめて秋田県の最北端にある八森町(現「八峰町」−2006年3月27日峰浜村と合併)を訪れたのはもう10数年も前のことです。秋田音頭で「秋田名物、八森ハタハタ・・・」と唄われるほど、ハタハタ漁が有名な所でしたが、近年ハタハタの漁獲量が減少し、もうほとんど獲れなくなってしまった。そんな時でした。裏山の「白神山地」が「世界自然遺産」に指定されたのとは、対照的に、町全体の雰囲気も非常に疲弊していました。
そんな所に、「よそ者」の私が行って、「町の再生」について、今までとはまったく違う方法でいろいろな提案をしたものですから、反発されることもありましたが、心ある人たちの協力もあって、調査を始めることになったわけです。
私はまず町の歴史を調べることから始めました。この地域では室町時代に銀山が発見され、銀の製錬をするためにブナ林を切って燃料にしていたのですが、明治以降、大資本が投入され、大規模になり、ブナ林はすぐにハゲ山になってしまった。その頃、秋田油田が発見されたこともあって、石油や石炭を精錬の燃料として使うようになったため、砂浜の砂が黒くなってしまった。
さらに、1983年(昭和58年)の日本海中部大地震で大津波の被害に合い、津波対策として、岩場だった所を削り、コンクリートで固めて、テトラポットを置いて防波堤を作った。そのため、水がしみ出していた岩場が無くなり、「白神山地」を源流とする、きれいな川の水が海に行き難くなってしまった。
それから、ブナ林を切りつくしたハゲ山に、お金になるだろうということで植えた杉やヒノキが、安価な外材との競争に負けたため、森の手入れが行き届かなくなってしまった。そこに大雨が降ると水や土が流れ出すようになっtzので、土石流対策として、あちこちに砂防ダムを作ったため、川が分断され、砂さえも海に流れなくなってしまったことなどがわかってきました。
「白神山地」として「世界自然遺産」に指定された範囲は、隆起した所だけですが、実は海の底も含めた全体が「白神山地」なんです。山の恩恵と山のきれいな水が海に流れて藻場ができ、そこがハタハタなどの豊かな漁場になっていたわけです。その中で、漁業をやって、農業をやって、林業をやって生きてきた農山漁村の生産基盤がすべてが壊れていた。漁業は漁業、林業は林業、農業は農業というようにみんなバラバラになってしまったこともあって、数千年やってきたことが、現代になって継承者がいなくなり、農業もいない、林業もいない、漁業もわずか。高齢化も進行していて、「これから、どうやって生きていくのか」という局面を迎えていたわけです。
「よそ者」だからできること
その調査結果で、少し、町の人の中にも、動きが起こり始めたのですが、その時、私は、町の人同士が、ほとんどコミュニケーションをとっていないことに気が付きました。表層的な対立があったためです。それで、町のことに意見を持っている人を22名集めてもらったのですが、「集めてもいい話なんか出ませんよ」と言われたので、私が22人の委員に、個別に話を聞きに行きました。男性とは酒を酌み交わしながら、女性はひとつの場所に集まってもらって話を聞きました。
私のような全くの「よそ者」は、対立している人たちの両方に接触することできます。「何も知らないので教えてください」と謙虚に話を聞きに行くと、懇切丁寧にいろいろ教えてくれます。しばらく話していると本音も出てきます。未来のこと、子供のこと、ご先祖の話になると非常に謙虚に、いいことをいう人が多い。しかも、対立している人と、同じことを言っている場合もあるんです。ある人が言ったことを、少し変えて伝えると、対立している人にも伝えられる。「よそ者」である私を介してつながっていく。これは初めて味わったいい経験でした。
そして、聞いた話のいい所だけをつなげて構成し、話に出てきた「昔の記憶」の場所をハイエイトで撮影し、編集して、みんなに見てもらいました。みんな、自分の言っていることを対立していた人が膨らませているのを聞いて感動した。これは「よそ者」のマジックなんです。私が勝手にやったことですが、いい価値をつないで提示したら「なんだお前もいいこと言っているじゃないか」、「俺もお前ももっと話さなきゃいけないな」といって話し合いの土俵ができたんです。この委員会を1年間で10回開き、その中で、昔の人たちが何をやってきたのかという『過去の記憶』と、どう駄目になってきたのかを知ることによって、今までの閉塞状況に陥っていたことを打破するという夢を持ち始めたんです。それをまとめたものが、「『八森町百年構想』〜太古の記憶−白神の森と海に生きる〜」なんです。そして、「自分たちの住んでいるところをちゃんと見る」ということがいかに大事かということがわかって、「自分たちの故郷の記録を撮ろうよ」という話が誰ともなく持ち上がってきたんです。
パンと子供たちと『白神自然文化賞』
その頃、新聞に秋田県の総合食品研究所が「白神山地」で発見された、低温でも活性力のある「白神こだま酵母」という酵母菌を使って、味噌や醤油やパンを作る研究をしているという記事が出ました。その記事を、八王子で天然酵母のパンを焼いている大塚節子さんが見て、「この酵母菌を分けてもえないか」と相談を受けました。最初は断られたんですけれど、研究所も大塚さんの作るパンがおいしいということがわかって、少しだけ分けてもらうことができたんです。それで、作り始めたんですが、なかなか腐葉土の臭いが抜けない。半年ぐらいかかって、ようやく、手で練る感覚はどれくらいがいいかというのを探り当てることができた。そこで、大塚さんは、「白神の酵母なんだから、白神の水で練らないとだめでしょう」ということで、私は、白神ネイチャー協会の工藤英美会長に相談したところ、「じゃあ私が汲んできてあげますよ」と言って、水を空輸してくれたんです。そうしたら、素晴らしいものができた。大塚さんはお礼の意味も込めて、工藤さんにパンを送りました。工藤さんはというのは地質学者で、白神の地質や石のことを、八森小学校の「総合学習」で教えている方で、授業の時に子供たちに少しだけそのパンを分けてあげたんです。そうしたら、子どもたちは素晴らしい感性で、これを受け止めて、涙が出るような作文を書いてくれた。それを読んだ大塚さんとパン屋のスタッフもみんなで涙したそうです。そして、大塚さんが八森小学校を訪ねたことから、パン作りやお菓子作りを通した子どもたちとの交流が始まりました。
工藤さん「白神山地」の地形や地質のことを、大塚さんからパン作りを学んだ子供たちは、それを作文にしました。そして、それが「白神自然文化賞」の小中学生の部門で大賞を受賞することになったのです。
これに一番驚いたのは、子どもたちの家族です。子供たちが賞をもらった「白神山地」のことを、親たちは何も知らない。家族の中で会話が生れたんです。白神の森の中で育まれる生物にはいろんな種があって、その一つ一つの小さな命が、雨が降って、水と共に流れ込んで、溶かし込んで、川を通じて海に行く。そして真水と海水が混じりあうところに藻場ができて、そこにハタハタが産卵をしに来る。まさに、山と海がつながっているということを家族も理解したんです。それがやがて熱気となり、地域へと広がっていきました。
授業風景を映画に
そこで、私は、この「総合学習」の模様を映画に取り入れることを考えました。最初は、町の人たちの昔の記憶を元にして、自分たちの「まちづくり」の映画を自分たちの手で作ろうと考えていたのですが、いろいろないいことが起こりすぎて、これでは、間に合わなくなってしまう。ということで、プロの人たちに相談に行きました。そこで小池正人監督を紹介され、話をしたら「それは10年かかってもやりましょうよ」と言ってくれたんです。
それから、白神ネイチャー協会の工藤さんや八王子のパン屋さんの大塚節子さん以外にも、サックスプレイヤーの坂田明さんや自然生態写真家の江川正幸さんや微生物の研究者やいろいろな人たちを、町の人たちに紹介しながら説得をしていきました。そして映画を撮り始めると、八森町は全部で1000世帯ぐらいの町なんですが、その内の七百数十軒の人たちが、寄付をしてくれたんです。町のほとんどの人たちが私たちのやろうとしていることを理解してくれていたんですね。
撮影中は、子どもたちに付き添って、白神の森を歩いたり、十二湖にミジンコを取りに行ったりしたわけですけれど、「これだけ小さなミジンコの命から白神山地を考え始めた、初めての人たちです」と紹介されたりもしました。
記録を作るための段取りに10年。撮影に3年かけて、「白神の夢〜海と森に生きる〜」という映画を作ったわけですが、ちょうどその年は、「白神山地」が「世界自然遺産」に登録されて10周年で、翌年には「愛・地球博」が控えていた年だったんです。その時に万博協会の人たちに映画を見ていただく機会があり、「これこそ、万博のテーマ『自然の叡智』を伝える最適の作品だ」との評価をいただき、「万博委員会として『愛・機中博』に出展したい。ただ、3時間20分の全編ではなく、ダイジェスト版を作ってもらえないだろうか」ということで、万博会場での『白神の夢』の上映が実現されたわけです。
大切な「遺伝子の秩序」
その土地にはその土地の気象条件なり、地形条件や地質条件によって育まれた食物連鎖を通じた生き物の関係があるということです。それは「種の秩序」であり、それはまた「遺伝子の秩序」でもある。この「遺伝子の秩序」を攪乱しないことが非常に大切なことなんです。
八森町では、5年に1回あるブナの実の豊作期に、ブナの実を採ってきて、大事にビニールハウスで5年間ぐらいかけて苗木に育て、それを山に返していくということをしています。植林事業を業者に頼むと、コストの関係で外国の安い苗を持ってきてしまう。そうすると「遺伝子の秩序」が攪乱されて、微生物の環境がまるで変わってしまう。顕微鏡で見てみると落葉広葉樹と針葉樹の微生物の密度というのはかなり違う。落葉広葉樹の森で生き物が死ぬと、微生物が多く分解力が強い殻から、すぐに白骨化して臭いも残らないのですが、針葉樹の森では、微生物が少なく分解力も弱いので、いつまでも臭いが残るんです。
「白神こだま酵母」は、白神の気象条件の中で発生してきた種ですから、その寒さに耐える生命力をもっている。その土地にはその土地の気象条件があり、その土地固有の種があるということです。見かけは同じでも違うということなんです。
八森町でいえば、今まで、ハタハタという魚は目で見えていたわけですけれど、「白神こだま酵母」のような見えない資源があるということです。それを活用するには、数千兆いる微生物の一個を借りてきて、光と熱と水を与えることによって、分裂して増殖するんですね。1個借りてきたものを増殖させて、培養して、人間が活用していくことができる。最終的には、焼き殺すわけですけれど、1個焼き殺すだけなので、自然の生態系には全く影響がないんです。
Apr.2009 source movie
留山
Sep.2008
奈良さん、伊勢さん
奈良さん
伊勢さん
白神ふれあい館
水がおいしいとコーヒーもおいしい
工藤さん source movie
青森県境の須郷岬
須郷岬 工藤さんが野外授業を行った場所
海辺の風景
工藤さんの自宅
工藤さん自宅裏に打ち上げられたクジラの等身大の絵
映画に関する資料とお話
映画のシナリオ
梨木さんの取材
子供たちが受賞した白神自然文化賞
白神こだま酵母を使ったパンの試食感想
白滝神社、斎藤さん
白滝神社
神社の社叢に自生するブナの巨木とここでの授業の思い出
斎藤さんの茅葺民家
居間から見る夕日 居ながらにして楽しむ絶景
朝の風景
Audio 24bit 96KHz No.13 No.14 No.15
かつて油田の櫓があった東八森駅付近
ハタハタ館
斎藤さん
夕映の館
釜と蕎麦打ち施設
71才にして将来の村おこしを熱く語る斎藤さん
斎藤さんの手打ち蕎麦
天塩
映画撮影スタッフが宿泊した家
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