MONTHLY WEB MAGAZINE Nov.2010
■■■ 心の洗濯 「金山」の一日 瀧山幸伸
この町の人々の心の豊かさはありえないほど深い。
山形県の北端にある人口6千人ほどの小さな町。
新庄ほか近隣とも合併せず、しっかりと杉の木の時間で「百年計画」を実践する林業で栄えた町、金山。
そこには樹齢三百年の深い森がある。
ドッグイヤーの都会であくせく働く都会人の知りえぬ世界で、人々が楽しく人生を過ごす。
イザベラ・バードが虜になったこの町の魅力は、映画アバターも顔負けの森の精が育む水と木と田畑、そしてそれで生きていく人々の豊かな人間性だ。
今回が3回目の訪問。朝から夕暮れまで一日過ごしたが、この町のホスピタリティの遺伝子は本物だと確信した。
出会う人全員が「こんにちは」と声をかける。
あるおば様は「うちでお茶飲んでいらっしゃい」。
山奥の集落で出会った幸せそうに瞑想中の車椅子のおじいさんは、「かぼちゃ1個持って帰れ」。
旧分校で日没と月の出を見て、一日が終わった。
「幸せって何だろう。できることならこのままそっとしておきたいな、団体観光客には絶対に来て欲しくないな。ここでしか食べられないお餅がマスコミに陵辱されるのは困るな」と思う私は、とても心の狭い人間なのかもしれない。
「 ウェブマガジンにも紹介したくないな、万人受けする奥入瀬にしようかな」とか、「 小谷村の鎌池にしようかな、鏡のような水面に映える紅葉は美しいし、大画面に拡大しても葉の一枚ごとの素晴らしい解像度がわかってもらえるかな」と思っていた、恥ずかしいくらい心の狭い人間なのだ。
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