MONTHLY WEB MAGAZINE May.2011
ゴールデンウィークの始まり頃に生駒市の長弓寺に行った。
長弓寺は富雄川沿いののんびりした農村のはずれにあり、国宝の本堂がある。
交通機関は1時間に1本のバスだけ。
長弓寺(ちょうきゅうじ)に行くには、蛇喰(じゃはみ)という恐ろしい名前のバス停を過ぎて、次の長弓橋(ながゆみばし)で降りると直ぐに参道である。
地名辞典を見ると、蛇喰は蛇を喰(は)むという意味ではなく、「砂崩」(じゃぐえ)という地形名がジャグイ(蛇喰)の音に変わり、ジャハミに転じたと考えられるとのこと。
1週間くらい前から左ひざが痛く、水がたまるかなと心配していたが、その気配もなく、軽度に使えば使うほど(仕事の鞄を持って歩きまわる程度)良くなるようだ。
この日は頑張って、一眼レフ2台、レンズ3本、三脚(軟弱にもカーボンファイバー)、パソコンを登山用中型ザックに入れて出かけた。
膝に応えるが、適度のトレーニングになると信じていた。
プロスキーヤーにして登山家の三浦雄一郎氏は、中年にさしかかり、膝に痛みを覚えた時、毎日、ザックに石を積み込んで走ったら治ったという。そのエピソードが頭をよぎる。
730年前に建てられた檜皮葺の本堂を撮影して、隣の太子堂の石段に腰掛け、登山靴を脱ぎ、そこらに三脚とカメラを散らかして休んだ。
観光客らしき人は見かけない。
脳梗塞の後遺症の残る老人(私も老人だが)が奥さんとお参りに来た。
突然、鐘の音がしたので、見ると二人で鐘をついていた。 ついてもいいらしい。
そして、帰りかけながら、奥さんの方が「鐘をついて早く帰り過ぎると鐘の音で出てきた(あの世の)人が寂しがるそうよ。」と云っていた。
他に誰もいない境内だからよく聞こえる。
「出てきたら、私が相手しておきますから、大丈夫ですよ。」と声をかけると「やー、聞こえてたん。」と笑っていた。
近くの人のウォーキングのコースらしく、時折、ジャージ姿の中高年の人がお参りに来る。
そのひとり、65歳くらいの男性が声をかけてきた。
天気が良いですね、とか、境内のシャクナゲの花がきれいですね、とか、世間話をして親しくなった。
普通は一眼レフを見て「ええカメラでんな。カメラが趣味ですか。」といわれることが多いが、この人は「ええ登山靴でんな」ときた。
膝が気になる話をすると、彼は10年位前に自分の会社の床にワックスを塗っていて転倒して頭を強打した。
一命をとりとめたものの脳に障害が残った。
その後、リハリビで毎日歩いていて、かなり回復したが、未だに事故時の記憶は全くなく、匂いの感覚がなくなり、味の感覚がうすれてしまったそうだ。
同じ頃に親しい人に裏切られて嫌な経験が重なった。
「でも、あの後は貰った人生や思ってます。」とつぶやいていた。
いろいろな出会いがあるものだ。幸い、我が膝は無理した方が回復が早いようで、今のところ、快調である。
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