MONTHLY WEB MAGAZINE Aug.2011
■ 「マムシ話」 野崎順次
基本的にマムシは、変温動物、夜行性、臆病で、体長約60㎝程度、毒牙は短い。
従って、咬まれるのは、しっぽを踏みつけた時とか、(山菜取りなどで)目前に手を出した時位である。
毒性は高いが毒液の量が少ないので、死亡率は低い。
日本では年間3000人が被害を受け、死者は5〜10人だそうだ。
ちなみに全世界では年間50万人が毒蛇に咬まれ4万人が死亡している。
マムシ生息地帯を歩くだけなら、長靴か登山用スパッツを着用すれば充分だろうが、けつまずいたりすることを考えると、長ズボン、長袖シャツ、革手袋も必要となろう。
とにかく、咬まれたら「激しい疼痛」に苦しむ。
まずは自分が実際にマムシを見た経験を話そう。
子供の頃(60年近く前)、家の近くの田んぼや六甲山の麓で、何度かマムシを見かけ、石をぶつけたりした記憶がある。
田んぼには蛍採りにも行ったが、二つ並んで光る蛍はマムシの眼かもしれないから気をつけろと年上の子に注意された。
その後、周囲の宅地開発が進み、こちらも成人になり、見る機会がなくなった。
25年くらい前、飼っていた猫がマムシの子を庭に運んできて驚いたことがあった。
住宅地のどこかに未だマムシ家族が潜んでいたのである。
同じ頃、4月下旬に滋賀県の比良山に登った。JR北小松駅から楊梅の滝を見て、涼峠の山道を歩いていると、何やら生臭い匂いがして、ジーと云う音がした。
前方の藪を見ると、マムシがとぐろを巻いていた。
危険を感じると尾を細かく震わせ威嚇音を出すそうだ。
離れて見ていると、藪の中に入って行った。
この日は何度もマムシの気配を感じたが、実際に見たのはこの時だけだった。
比良山涼峠マムシ
先日、岡山県井原市の取引先を訪ねた時のこと。
向こうの担当者は近くの美星町に住み、家は築100年を超す本瓦葺き日本家屋である。
家の中には10㎝長のムカデが生息しているし、柱の隙間からマムシの子が出てきたこともあった。
畑仕事をしているとよくマムシが出てくるので、鎌の柄で頭をつぶし、ポリビンに入れてマムシ酒を造るそうだ。
また、マムシは頭の後をつかむと咬まれない、腕に巻きついてきても平気だともいっていた。
その人のお兄さんは子供の頃、近くにいたシマヘビ(無毒)の目前にわざと人差し指を出して咬まれて、そのまま指に蛇を付けたまま家に帰ってきて、「咬まれた」と報告したそうだ。
比良山のことを思い出して、その人にマムシは生臭い匂いがしませんかと聞くと、泥抜きしないと駄目ですと云われた。
マムシ酒やかば焼きなど食用にする場合と間違ったようだ。
今年の7月初旬に岡山県赤磐市の両宮山古墳を見に行った時、近くで廃屋の写真を撮っていると、カメラ好きの村人が軽四に乗って近づいてきた。
カメラ話が終わってから、この付近にマムシは多いですかと聞くと、うようよといるから夜は歩けないそうだ。
その昔、敵の夜襲を防ぐために山城や屋敷のまわりにマムシを撒いたのだそうだ。
それが現代にも残っていて、岡山県の瀬戸内側の山麓には多く生息しているのだという。
咬まれた場合、の応急措置を二つ教えてくれた。
そのマムシを捕まえて首を切り皮をむいて、皮を患部にあてると毒を吸ってくれるそうだ。
しっかりした同行者がいたら可能かもしれない。
しかし、単独行動の場合は、ゴルゴ13でもあるまいし、とっさにそんなことができるとは思われない。
あるいはクララと云う草の根をこすりつけると毒消しに役立つそうだ。
もちろん、近くの病院に行って抗血清を注射してもらうのが一番であるが、再び咬まれると抗血清が効かないそうだ。
これらのことは村人のおじさんが教えてくれたことで、全て本当かどうかは未確認である。
最後は家内の実家近く(神戸市北区)での最近の事件。
真夏にマムシ酒造りのおじいさん(86歳)が咬まれて亡くなった。
泥抜きのための水を入れ替え中に咬まれ、ほぼ即死だった。
全身が土気色になっており、担架で運び出す時に死体の下からマムシが出てきた。
過去にも咬まれたことがあり、アナフィラキシーショックによるものと思われる。
この場合のアナフィラキーショックは、過去に咬まれたことがあって抗体が出来ていたため、再度咬まれて過剰反応してショック死した。
その1週間後、近くで回転動力刃の草刈り機で作業中の男性(65歳)がマムシに腕を咬まれた。
幸い、直ぐ近くの病院で抗血清を注射したので、助かった。
マムシの多い場所なので、作業靴、脚絆など作業衣と足元に注意していたが、草刈り機によほど驚いたのか、マムシは1メートル余り飛んで咬みついたという。
本当に怖い。自然は時々しっぺ返しをする。
All rights reserved 無断転用禁止 登録ユーザ募集中