Monthly Web Magazine October 2014

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■■■■■ 根来寺に行った話 野崎順次 

9月某日、和歌山県岩出市の根来寺を撮影しに行った。国宝の多宝大塔を秋空の下で見上げたかったのである。私は車の免許を持っていないので、電車、バスなど公共機関と徒歩だけが交通手段である。その代り、飲もうと思えば、いつでも酒が飲める。特に夏場は、一撮影終えた昼頃にロング缶のビールを飲んでしまう。また、疲れたけれど、もう一ヶ所撮影したいという時に、辛口チューハイ缶を飲むこともある。酔った勢いで何とか、というわけだ。

根来寺のJR最寄り駅は岩出だが、大阪からは阪和線で行き、和歌山乗換の和歌山線となるので、時間がかかる。手前の阪和線からは、和泉砂川と紀伊から和歌山バスが出ている。特に和泉砂川からわずか16分である。これは南海電鉄樽井駅前、砂川駅前、近畿大学、根来寺、岩出駅前を結ぶ特急バスだが、土休日は1日僅か往復3便しかない。根来寺から徒歩10分ばかりの岩出図書館を通る和歌山バス路線もあり、土休日は往復9便である。そこで、行きしは砂川駅前から10:08発の特急バスに乗り、帰りしは時間次第で適当にと思った。

JR大阪08:34発の紀州路快速に乗った。和泉砂川に09:42着予定で、余裕充分である。ところが、「線路に人が立ち入ったため」とかで、天王寺を出てから、電車が止まったり、ノロノロ運転したりして、遅れ始めた。予定のバスに遅れたら、紀伊まで行って、バスかタクシーをつかまえよう、急ぐ旅でもあるまい、頼まれ仕事でもあるまい、好きで出かけてきたのだから、と考えようとした。しかし、イライラする。ちゃっ、ちゃっと動かんかえ、と心の中で電車に怒鳴る。結局、23分遅れて、10:06に砂川に着いた。バスの時間まで2分しかない。少し迷ったが、エイヤ!と電車を降りた。構内を急いで歩き、改札を出ると道路の向こう側にバス停があり、若い女性が一人待っていた。幸いバスは8分ばかり遅れてきた。遅れたのは、阪和線が停滞した影響で踏切の待ち時間が長くなったからである。

バスは快調に走り、あっという間に和泉山脈を越えて紀の川側に下り、10:30頃、根来寺に着いた。晴天で気温は29℃、湿度が低いのでさわやかである。不動堂、大師堂、大塔、大傳法堂、奥の院、行者堂、聖天堂、光明殿、本坊と回った。来訪者は少なく、蚊も少なく、気持ちよく撮影が進行した。14:00頃、鐘桜門を出て、大門に向かった。一乗閣は解体移転工事中で影も形もない。14:24に大門の撮影が終わった。根来寺を去る時が来た。

途中で見た周辺案内図によれば、少し西に歩くと、南北の幹線道路とT字路になっている。その幹線道路を北に50メートル進むと岩出図書館バス停があった。その時は14:35で、次のバスの時刻は岩出駅方面が15:43、樽井駅方面は何と17:29である。とにかく、15:43のバスを待つことにした。

後から調べると、直ぐに根来寺バス停に引き返したら、14:52の樽井駅行きに乗ることができた。しかし、その時点では1日3便でそれほどうまくタイミングが合うとは思いもしなかった。

バスを待つ時間が1時間余もある。昼食が未だだし、ビールも飲みたい。すると、直ぐ前に国分屋という立派な旅館があった。「お食事処 お気軽にどうぞ」の電飾看板、「サービスランチ 昼定食」ののぼり旗、「山菜僧兵鍋」の提灯が見えた。

玄関に入って、声をかけるとご主人が出てきて、和歌山弁で「今日の食事は終わった」という。ビールだけでも飲ましてと頼んで上がり込み、「何かつまみもちょうだい」と食堂の椅子に座った。気のよさそうなご主人が瓶ビールとポテトサラダとマグロ刺身切り落としを持ってきてくれた。「どこから来た」と聞くから、「兵庫県の尼崎」と答えると、ご主人はことさら嬉しそうになって、「若いころ、尼崎でよく遊んだ」という。阪神電車と阪急電車の乗客の違い、三和商店街の北側の飲み屋とか、超ローカルな話題に話が弾んだ。次に年齢の話になって、同じ昭和21年生まれであると分かった。私は1月で主人は10月。学年は私の方が一つ上である。主人は団塊の世代の第1陣ということになる。旅館以外にも手広く事業をしているそうで、そのうちの一つは葬儀屋だそうだ。

2本目のビールを所望した。ご主人が席を立ち、代わりに美しいレディーが瓶ビールをもって来られた。奥様である。「(旦那は)よーしゃべるやろ」とついでくれる。若く見えるので、「お若いですね、ご主人といくつ違いですか」と聞くと、若いと云われ慣れてるらしく、「そやろ、けど、同じ昭和21年生まれや」とお答えになる。ちなみにこの奥様は元ミス和歌山だそうだ。なるほど、未だにプロポーション素晴らしい。ご主人とは幼稚園以来ずっと一緒だったそうだ。

そのうち、ご主人が現れ、荷物を持って奥に来いという。建物を通り抜けると川に面したベランダがあり、従業員の方々がバーベキューの用意をしていた。社内パーティーらしい。「こっちの方がええやろ」とお仲間に入れていただき、ご馳走になった。

バスの時間が近づいたので、お金を払おうとすると「ええから、ええから」と断られてしまった。後日、お礼の品(日本一うまい函館スルメ)を送ることにした。

15:43岩出図書館発、15:57頃岩出駅着。JRで帰るしかないかなあと思っていたら、降りたばかりのバスの行き先が、16:00発近畿大学経由樽井行き特急になった。1日3便しかないバスに間に合ったわけである。根来寺、近畿大学を経て、16:45頃和泉砂川駅に着いた。次の紀州持快速(天王寺から環状線を一周して大阪経由で天王寺行き)は16:54発で、17:58大阪着だが、森ノ宮まで寝過ごした。でも、ここまで戻ったら、大丈夫。

補遺 国分屋さん関係の写真は、撮影時に「インターネットにのせまっせ」とご主人に言うと、「ええよ、ええよ」と快諾して頂いたものです。


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