Monthly Web Magazine Mar. 2015
■■■■■ ある雨の日、京都へ 野崎順次
3月1日、日曜日、終日雨である。いつものリュックに小型カメラ2台と豆袋(三脚代わりの自在枕)をほりこんで、書類仕事のある家内を残して独りで家を出た。いつもよりは遅いスタートで、午前11頃にJR京都駅に着いた。
最初、京田辺の大御堂観音寺におられる国宝十一面観音様を拝観にと思ったが、気が変わって、上京区妙顕寺の非公開文化財特別公開に向かった。琳派を代表する尾形光琳ゆかりの寺とのことで、光琳などの絵画や風情のある三つの庭があるそうだ。室内で鑑賞できるので、雨の日にはうってつけである。
バスの1日乗車券を購入
市バスの1日乗車券500円也をバス乗り場の自動販売機で買った。以前はバスターミナルの案内所で買っていたのだが、最近は外国人観光客が長蛇の列をなしている。1回のバス代は230円だから、3回使えば元が取れる。バスの車内でも買うことができるが、たまに売り切れてしまう。そのようなときには「次のバスで買ってください」と云われて、そのバスは無料になる。事情の分からない外人観光客は、怪訝そうにするが、英語で説明できる運転手さんはまずいない。払わなくてもいいから早くバスから立ち去れとばかりに、手で追い払うしぐさをしていた。
途中で中華そばを食う
B1乗り場(と言っても地下1階ではなく地上にABCと三つのプラットフォームが並ぶ)から9系統西賀茂車庫前行きに乗る。バスは西に向かい、そして堀川通を北上する。そろそろ昼飯時である。一番前の独り席に座って、適当な店を探す。京都はラーメンの美味しい店が多い。堀川下立売のバス停のちかくに「スープのうまいラーメン」と書かれた幟を見つけて、バスを降りた。「中華そば 笑麺(しょうめん)」という店である。中に入ると、時間が少し早いとはいえ、客がいない。「あまり美味くないのかな」と悪い予感がよぎるが、自動販売機でラーメンライス780円也の食券を買う。カウンターの向こうにも誰もいない。「すみませーーーん」と大声を出すと、やっと主人が出てきた。「麺固めでお願いします。」5分くらいで「はい、固麺です」と出てきた、そして、大根の漬物二切れが乗った飯も付いている。
食ってみると当たりだった。ほんの少し味と香りがきついが、うまい。「ますたに」とおなじ背脂醤油ラーメン系である。お米は京都市内の契約農家のものを使っているというようなことが書いてあったが、普通の味だった。次回は煮卵もトッピングした看板メニュー「笑麺」大盛りでも食べようかな。
ガッガーン、妙顕寺は拝観休止
バス停に戻り、12系統立命館大学前行に乗って堀川寺ノ内で降り、東に5分ほど歩くと
北側に妙顕寺の山門があった。妙顕寺は初めてではない。2013年2月に近くの本法寺を訪問した時に北西の墓地や境内を見て回った。大きなお寺であるが、国の重要文化財に指定されている建造物がなさそうで本格的な写真撮影はしていない。山門に受付を示す地図があり、その方向に歩くおばさまらがいた。ところが、受付の戸が閉まっていて中に入れない。
案内の看板をよく見ると「2月28日〜3月9日は拝観休止」と明記されている。今日は3月1日である。気が付かなかった。同じように間違ったおばさまが4、5人いて、少し立ち止まってから帰って行った。がっかりした。拝観休止期間には土曜日曜が4日も含まれているのはどういう訳だと怒った。
京田辺へ転進
仕方なくバス停に戻り、次に来た祇園行きのバスに乗った。満員である。半分くらいは外国人観光客らしい。リュックを降ろして前に抱く。次のバス停でさらに乗客が増えて身動きできなくなった。時刻はまだ12時40分であるが、だんだん雨がうっとうしくなる。四条通に入ると渋滞がひどくなった。もう家に帰ろうかと少し思ったが、初志貫徹、京田辺の十一面観音様を目指すことにした。四条烏丸でバスを降りて地下鉄に乗り換え、竹田で近鉄に乗り換えて1時半頃に三山木に着いた。
国宝十一面観音像に感動
雨は相変わらず降っている。観音様の居られる大御堂観音寺は駅から2km余で特に日曜日はバスの便はない。タクシーがなければ、歩けばいいさと思っていたら、幸い、駅前にタクシーが1台だけ待っていた。乗り込むと運転手さんが「拝観は20分くらいあればいいから、メーター倒さずに待ってます。」と言ってくれた。雨の中でも本堂や周囲の写真を撮ろうと思っていたが、そう云われるとその気が容易に失せた。観音様に集中すればよい。
観音寺に着いたが、参道にも境内にも人気がない。庫裡の呼び出しベルを押して玄関に入ると、直ぐにご住職が出てこられ、「本堂の前でお待ちください。」とのこと。50m位だから、傘もささずに本堂に走った。その内、僧衣に着替えたご住職が来られ、靴を脱いで本堂内に導かれた。拝観料は400円で、お供えの台の上に100円硬貨が十数枚あった。千円札を置いて、お釣りは少ないけれどもお布施ということにした。ご住職の読経を聞きながらお焼香をして手を合わせる。そして祭壇の向う側に行って厨子を開いていただき、高さ1m70㎝余の国宝十一面観音様を見上げた。一木式木芯乾漆造の天平仏(8世紀半ば)で聖林寺のものと似ているが、お顔はこちらの方が優しい。いいお顔という点では、向源寺(渡岸寺)の十一面観音と並ぶのではないか。厨子の前でうっとりと見ていると、ご住職は祭壇の向こうを行ったり来たりしながら私一人のために説明されている。少し離れて祭壇の横から観音さんを見ると、お顔がさらに優しくなる。さらに他の国宝十一面観音との比較や、お寺の由緒など聞かせていただいた。往時は巨大なお寺であったそうな。参道は桜並木で、その両サイドは菜の花畑という。是非、春爛漫の時に戻ってきたい。
猿丸神社の話
運転手さんは60代半ばの男性で、帰り道であれこれ話をした。私の定番の話題は同世代の友人のほぼ半分は癌経験者であることだが、運転手さんの奥様も数年前に子宮がんになられて手術を受けたそうだ。その時に、癌封じで名高い猿丸神社のお水をもらってきた。奥様はご健在である。後で調べると、猿丸神社は三山木から北西20km位の山中にあり、滋賀県との県境に近い。三十六歌仙の一人、猿丸太夫を祀る。奇岩があるようで何となく行ってみたい場所である。
タクシーで三山木駅に戻ると未だ午後2時で、料金は1,780円だった。何と値打ちのあるタクシーの使い方であろうか。2000円払った。
錦市場でお買い物
いいものを見たので元気が出た。次には錦市場に行って、う巻を買おうと思った。来た時のコースを近鉄、地下鉄経由で四条烏丸に戻った。ここから錦市場の西の入り口までは歩いても近いが、バスの1日乗車券を使いたい、四条烏丸から四条河原町までバスに乗ったが、すごい渋滞で半時間ばかりかかった。
錦市場では、う巻、湯葉、生麩の田楽、玉ねぎの漬物を買った。高齢の母と家で仕事をしている家内への土産である。生麩の田楽は5本入りパックで、帰る途中に大吟醸小瓶をラッパ飲みしながら、2本食べた。すこぶる美味である。両方とも。結局、小型カメラ2台で撮った写真は合計しても10枚くらいで、豆袋は一度も使わなかった。
その夜の我が家の食卓
夕食のおかずは、う巻、湯葉、玉ねぎの漬物、そら豆だった。ビールを飲んだら眠くなった。