Monthly Web Magazine Aug. 2016

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■ 南紀ぶらぶら旅 その1−尾鷲 野崎順次

7月30日(土)から31日(日)に家内は横浜の娘宅に行くことになった。こちらは先週末に出張の帰りに寄ったばかりであるから、自由の身となった。もっとも、「あんたはいつも自由でしょ。」というだろうが。

暑いからジパング倶楽部割引で涼しい信州に行って、出張でポイントの溜まった東横INNに無料で泊まるということも考えたが、暑さに体を慣らすため、南紀に行くことにした。今年の連休には、八木新宮特急バスで南紀に来て、熊野本宮大社、那智の滝、紀伊大島を回った。今回は尾鷲、新宮に行ってから、同じ長距離路線バスを逆方向に乗ろうと思う。

というわけで、7月30日午前7時30分に近鉄大阪難波駅から、名古屋行きのアーバンライナー(特急)に乗った。名古屋までの通常料金は特急券込みで4,620円である。会社の近くのチケットショップで3,300円で売っていたので、あらかじめ購入した。実際に行くのは津駅までだが、どうせ名古屋に近いから、3,300円でも得になるだろうと思っていたのだ。ところが実際には大阪難波−津の通常特急料金は3,000円だったので、300円の損であった。若い頃は事前の調べをもっと綿密にしたが、最近はとんとズボラになってしまった。ノートパソコンが不調でインターネットにつながりにくいという事情もあったが。

津駅には11時58分に着き、そこで12時1分発のJR特急南紀81号に乗り換えることになっている。3分しかない。きつそうである。遅れると1時間待ちになり、日程が狂ってくる。近鉄車内で車掌さんに聞くと、「大丈夫でしょう。」という。念のため、「どのあたりの車両に移動したらいいか?」と聞くと、「いまのままでいい。」という。津駅についてみると、プラットフォームは近鉄が1本、JRが2本で並んでいて、同じ駅で改札を通らずにJRのプラットフォームに行ける。目の前のエスカレーターでコンコースに上がり、数十メートル歩いて、尾鷲、新宮方面のプラットフォームに下りるだけである。カメラと三脚の入った重いキャリーバッグを引いていても楽勝で、JR特急が来るのを1分ばかり待ったほどであった。

津から新宮までの営業距離は200㎞未満なので、ジパング倶楽部は使えない。乗車券は新宮まで買ったが、途中下車するので、特急券は尾鷲までの自由席である。特急南紀81号は4両編成で1−2号車が普通指定席、4号車が普通指定席とグリーンで、自由席は5号車だけである。指定席がけっこう混んでいたので、心配したが、自由席はよく空いていた。海側の窓際に座って景色を楽しむ。ちなみに紀勢線の東側は電化されていないのでディーゼル車である。特有の音と振動が快く旅心をそそる。

 

10時45分尾鷲駅に着いた。比較的質素な駅で周囲も非常にローカルな感じである。町の中心はもっと海側(東)で、駅は西のはずれに位置しているからだ。ここらは海岸線もJRも国道42号線も南北に並行に走っている。

 

目的地の土井竹林は駅から南西に直線距離なら400mくらいである。南に回り込んで跨線橋を渡り少し西南に歩くと42号線に出る。

そこから北に見えるマクドナルドの横に土井竹林とお人形の家の道標があった。

民家と井戸は後回しにして、亜熱帯樹木と竹の中の道をたどると素掘りのトンネルがあった。そのトンネルの向こうが竹林であった。後で地形図で調べてみると、海路山(400.7m)から真東に下りてくる尾根の突端が竹林と民家(お人形の家など)を分断しており、そこにトンネルがある。

   

トンネルを抜けて、木戸を入るとちょっとした展望台になっている。その前に小さな谷があり、孟宗竹が林立している。土井家七世当主八郎兵衛(当主の名前は歴代八郎兵衛である)が、宝暦(1751)の頃、薩摩より母竹を運んで分植したのが始まりである。土井家は尾鷲で林業を中心に繁栄してきた大家である。江戸後期(天明・天保)の飢饉の時に土井家はお米を放出して人々を助けたので、そのお礼にトンネルを掘ったという。

太い竹が密集しているので写真撮影しても広さや奥行きの表現が難しい。でも、見上げると絶品の景色である。

  

戻ると土井本家湧井井戸がある。普通の井戸と違うのは途中まで断面が見えているからか。道を下ると水面にたどり着く。透明度の高い青い清らかな水である。水面にミズスマシがいた。家に帰ってからその写真を見たら、葉っぱの上にイモリがいた。その時は全く気付いていなかった。

 

土井家ゆかりの民家が3棟ある。紀州の殿様をお迎えするのに建てられた迎賓館の寒雨亭(お人形の家)、土井家古戸野焙炉(ほいろ)および茶納屋である。18世紀後半の頃、竹林の横には三万坪の茶畑があったそうだ。

  

駅に戻る途中で、マクドナルドの隣のお魚いちばに寄った。広い売り場の向こうにカフェテリア式の食堂があって、なかなかの人気である。時間があれば、ここで食べたかったが、いつもスケジュール優先なので、先を急いだ。わが独り旅では朝食昼食に時間をかけたことがない。

  

12時半に尾鷲駅に戻り、12時44分発の特急で新宮に向かった。

   

新宮駅到着直前に熊野川河口が見えた。この川は熊野本宮の向こう、日本最大の村十津川村を縦断し、奈良県五條市大塔村の奥の天川村、山上ヶ岳の中腹から流れてきているのである。

   

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