JAPAN GEOGRAPHIC

Monthly Web Magazine July 2018

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■ 大杉谷紀行 大野木康夫

紀伊半島には素晴らしい滝がいくつもありますが、岩屋谷、双門の滝など、一部の滝は登山上級者でないと見ることができないところにあります。

その中で、登山未経験者がなんとか近づけるのが大杉谷の滝群で、滝の写真を撮るようになってからずっと行きたいと思っていたので、長期勤続休暇を利用して梅雨の晴れ間に訪問しました。

大杉谷の難所は堂倉滝と日出が岳の間の急坂区間なので、三重県側からの1泊往復で行けるところまで行くというつもりでの訪問です。

京都を出たのが4時前、天気予報では2日とも晴れ予報でしたが、途中、鈴鹿峠ぐらいから雨模様となり、大宮大台インターチェンジで降りたのが6時前、まだ小雨模様の天気で、登山口に着いたころにようやく雨が止みました。

 

雨模様の大杉谷に欠かせないのはヤマビル対策なので、ジャージのズボンを靴下の中に入れ、接合部から下すべて、トレッキングシューズを含めて忌避剤を吹きかけてから出発しました。

もう一つ気がかりなのが転落・転倒ですが、鎖場はなるべく鎖を握って慎重に進むこととしました。

登山口のゲートの向こうに最初の鎖場である大日グラ(グラは山かんむりに品)が見えました。

あまり濡れていない広い通路でしたが、鎖を持って慎重に進みました。

足場を確認して大丈夫だと思ったところで止まって撮影をしました。

撮影については、安全確保のため、この後、これを原則としました。

  

宮川本流は曇り空でもきれいな緑色をしており、登山道はしばらくゆるやかなアップダウンを繰り返すので、歩きながら景色がいいところでは立ち止まって撮影するのがいい休憩になったと思います。

  

登山口から2時間ほどで、最初の大きな滝である千尋滝の滝見台に着きました。

総落差150m以上と言われる段瀑で、水量もあって豪快な響きが体に伝わりました。

ここらあたりはヤマビルが多いところですが、忌避剤のおかげで咬まれることもありませんでした。

  

ここからの区間はアップダウンがきつくなりますが、まだ足が疲れていないのでスムーズに進むことができました。

  

登山口から3時間半でシシ淵に着きました。

緑の淵の向こうに豪快なニコニコ滝が覗く景勝地で、ここで少し長い休憩をとりました。

いつまでも眺めていたいと思うような美しい景色を独り占めできました。

  

ここから先は左岸を高巻きするコースで、少し険しくなります。

   

ほどなく登山道からニコニコ滝の全景を見ることができました。

  

そこから少しの下り道で平等グラ(グラは山かんむりに品)の吊り橋です。

平等グラは巨大な一枚岩で、吊り橋の上流、左岸側にそびえています。

登山口から4時間半かかりました。

  

ここから少し荒れたアップダウンを越えれば、関西最大の山小屋といわれる桃ノ木山の家に着きます。

登山道から休憩を頻繁に取って、5時間すこしかかりました。

 

この日はここで泊まるのですが、定員300人の山小屋に宿泊するのは私一人でした。

山小屋の御主人は、「梅雨時の平日はこんなものです。」と言っておられました。

やはり、雨とヤマビルは敬遠されるようです。

夕方まで時間があったので、七ツ釜滝に行くことにしました。

七ツ釜滝まではアップダウンも少なく、きれいな緑の淵が続くので、スムーズに行くことができました。

  

七ツ釜の滝は日本の滝百選に選ばれている大杉谷を代表する滝です。

この日は水量も多く、しばらく夢中で撮影しました。

  

山小屋に戻り、入浴が5時、夕食は5時半、寝たのが7時半で起きたのは5時、朝食は6時半と健康優良児のようなタイムスケジュールで過ごしました。

山小屋の御主人が、「大杉谷のハイライトは七ツ釜滝から堂倉滝まで」とおっしゃっており、荷物の一部を置いて行ってもいいとおっしゃっていただいたので、堂倉滝まで行くことにしました。

 

宿を出発したのは7時前、七ツ釜滝から急坂を登って七ツ釜滝吊橋からは少しゆるやかな河原の右岸側を進みます。

     

ほどなく、大崩壊地が見えます。

自然の驚異の跡を間近で体験することができました。

    

大崩壊地上流の河原もいろいろ絵になる風景が点在しています。

    

ほどなく光滝という美しい滝が見えます。

日陰となっていますが、日光が当たれば虹が見えるなど、美しさは倍増するそうです。

  

急坂を登れば光滝の落ち口を右手に見て、左手前方に隠れ滝が見えます。

    

隠れ滝から与八郎滝を経て、ようやく堂倉滝に到着しました。

山小屋から3時間半かかりました。

    

最終目的地である堂倉滝は、落差はさほどありませんが、水量が多く、迫力がある滝です。

釜も大きく、雄大な眺めでしたので、ゆっくり休憩時間を取って撮影しました。

   

堂倉滝を11時に出発し、山小屋で荷物を返してもらって、登山口を目指しました。

大杉谷はアップダウンが多く、体力的には11kmの道のりはきつかったと思います。

暑さの影響もあってこまめに休憩を取ったので、登山口まで6時間半ほどかかりました。

大杉谷は、秘境の名に恥じぬ素晴らしい景色の連続でした。

梅雨の晴れ間というのも、人が少なくてかえって景色が独り占めでき、立ち止まって撮影しながらゆっくり歩いても後続やすれ違う人を気にしなくてもいいので私にとってはベストシーズンでした。

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