JAPAN GEOGRAPHIC

Monthly Web Magazine Aug. 2019

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■ お寺の庭園撮影に思うこと  野崎順次

相変わらず、日本庭園を撮影して回っている。よい庭園はそのほとんどがお寺に付属している。京都や奈良で、拝観者の多い大きな(裕福な)お寺が日本庭園を公開している場合は、拝観料を払えば、すぐに鑑賞できるし、若いお坊さんやボランティアのガイドさんが説明してくれる。しかしながら、それはむしろ稀なケースで、田舎に行くと、いろいろ事情があるようで、反省したり感謝したり、考えさせられることが多い。以下、五つのお寺について述べてみたい。

(1) 米原市 福田寺 国名勝 江戸初期 枯山水

浄土真宗本願寺派で蓮如が3年間滞在したこともあり、長沢御坊の名でも知られる、由緒のある大きなお寺である。行く前にネットで調べると、ファクスによる事前予約が必要だった。ファクスの送り先は長浜市内の因乗寺である。日曜日に行こうと思って、その2日前の金曜日の夕方にファクスを送ると、ご住職から携帯に連絡があり、日曜日の午前11時に拝観できることになった。

当日、お寺に着くと、境内で植木屋さんと話しているご住職がおられた。私を待っていて下さったのである。予定になかった本堂内部の拝観と撮影も許可された。その後、庭に案内いただきご説明を受け、三脚撮影を始めた。撮影中、ご住職は庫裡や本堂に戻ることなく、こちらが見える範囲内におられる。後で分かったことだが、ご住職は通常は数キロ離れた長浜市内の因乗寺におられ、用事のある時だけ、本寺に来られる。だから、私が帰らない限り、ご住職も福田寺を離れられないのである。それだけでなく、私一人のために、前日に庭の掃除もしていただいたそうだ。誠に頭の下がる想いである。できるだけ早く撮影を切り上げた。

   

(2)長浜市 神照寺 江戸中期 池庭

神照寺は寛平7年(895)に創立された長浜最古のお寺。国宝の金銀鍍透彫華籠など仏像で有名だが、池庭鑑賞式の庭園もなかなかよさそうである。ネットで下調べしていて、予約が必要とか特に注意すべき留意事項はなかったので、今年の6月29日(土)に訪ねたが、庫裏玄関に本日の拝観は終了しましたとの張り紙があり、人気もなく、無住の寺のようだった。最近、本寺のホームページを見ると、「都合により、寺宝の拝観は一部制限させていただいております。※8月は寺の行事が多い為、拝観は中止いたします。」とあった。優れた寺宝や庭園があっても、人手不足のためか、非常に閉鎖的な印象を受けた。

  

(3) 湖東の某寺 室町 枯山水

重森三玲に見出された室町時代の枯山水庭園がある。事前に電話予約が必要らしい。最初、昨年6月頃に電話した時は、ご住職が出てきて、ちょうどその時は法事があるのでと断られた。その後、同年10月に電話したら、台風(9月の21号)の被害で見せる状態ではないと再度断られた。声のニュアンスから、相当迷惑そうであった。

(4) 四国の某寺 江戸初期 平庭式枯山水

重森三玲によれば、ここの庭は石組は軽快ながら強く、作者は不明ながらかなり創作的な人らしい。JRの駅から4キロ位あって、バス路線は通っていないので、タクシーで行ったが、ご住職さん曰く、公開していないし、それに手入れもしていないので、お見せできないとにべもない。あきらめかけたが、念のため、本堂の裏に回ると、書院らしき建物の前に生垣で囲まれた区画があって、目的の庭園と一目瞭然である。金属の門扉があり、その上から庭を見ると、散水のホースや小さな脚立が置いたままだったが、きれいに掃除されていた。手入れされていないどころか、手入れが行きとどいていた。嘘をつかんでもええやんかと、つぶやきながら、帰りのタクシーを待った。

  

(5) 丹波篠山市 正覚寺 現代 蓬莱式池庭

重森三玲が利益を度外視して作った池庭である。本人曰く、「これらの竜門式の滝の石組や、全庭の石組または石橋は、いずれも豪快の手法によって古庭園を思わせるものがある。そして本庭の石組は北宗連山式であり、これに楓や老松もあって、この新しい庭が古庭園かと思われるものがあり、年中拝観者が絶えない。」(日本庭園歴覧辞典、昭和49年より)。

現在は事前の予約なしには拝観できない。正覚寺に何度も電話しても出られないので、篠山観光協会に聞くと、現在は無住寺で、7キロ離れた徳円寺のご住職が掛け持ちをされているとのこと。そちらの電話番号を教えてもらい、予約を快諾していただいた。8月3日でお寺さんの特に忙しい時節である。

当日の正午、お寺に着くと、ご住職さん夫妻が迎えて下さった。拝観料はないとのことで、お賽銭箱に少し多めに入れることにした。庭の見える書院の縁側でお茶菓子までいただいて、説明を聞いた。石組が乾いているからと、奥様がホースで散水してくださった。鶴島、亀島、竜門瀑など青石を使った三玲流の豪健な石組で、三玲さんには珍しく池に水を張っている。その池に鳥除けの茶色ネットが架かっているのが残念であるが、サギが鯉を食べるのだそうだ。鯉が全部やられたが、いつの間にか、(卵でも残っていたのか)鯉が戻ってきたそうだ。三脚撮影も許していただいて、写真と動画を充分撮影した。ところが、最後にくぎを刺された。SNSやネットでの公開は禁止だそうだ。観光寺ではないので、庭を見たいという観光客に来られると困るからであろう。ましてや二つのお寺の掛け持ちをされている。さすがに私はジャパンジオグラフィックへのアップをきっぱりと断念した。

  

というわけで、観光寺でない場合は、多忙極めるお寺さんのご厚意に甘えて、私の撮影ができるわけで、ご協力いただいたご住職に心より深く感謝の意を表したい。

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