JAPAN GEOGRAPHIC

Monthly Web Magazine July 2020

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■雨に思う =梅雨の晴れ間に= 酒井英樹


 今年の梅雨は例年にも増して激しい雨を降らせ、各地で出水災害をもたらしている。
 まずは被災された方々にお見舞い申しあげたい。

 先日梅雨の晴れ間を利用して、昨年度に重要伝統的建造物群保存地区に指定された、たつの市龍野町を訪れた。
 兵庫県南西部(西播磨)に位置し、一級河川揖保川右岸の川沿いに形成されるこの地域。
脇坂藩5万石の城下町としてまた17世紀後半には醤油(薄口醤油)の生産地として栄え、江戸時代から昭和初期に建てられた伝統的な建築物が良好に残っている。

重要伝統的建造物群保存地区
 

  龍野城
 

  重伝地区の町並み
         


 私ごとであるが、昔・・揖保川改修に関わって数年ほどこの地域に携わった。
 その後、花火や私事で近くを訪ねることはあっても、重要伝統的建造物群保存地区となった地域を訪ねるのはほとんど無く久しぶりの訪問であった。

 当時、揖保川の整備は行ったが、根本的な解決には至らなかった。そして現在ではその計画さえ棚上げになっている。
 だが、そんな話は珍しくなく全国各地に残っている。

川や対岸を眺めるのを保つためスリット状にして、非常時には畳を入れる全国に3例しかない止水壁(通称:畳堤)
 老朽化のため城壁のデザインに変えて立て替える計画があったが、現在は元の畳堤として修復されている。
 


 揖保川左岸に隣接し洪水時に流水阻害になるため計画では買収したうえで移転する予定であったが、買収が折り合わずに現在地に残った堀家住宅 主屋(H25年重要文化財指定)
 


 一因は地元の理解を得られなかったことだ。当時は、「膨大な予算を費やして数十年に一度しか発生しない災害に備えるより、もっと有効的な使い道があるはずだ」といった・・ある意味、平和ぼけしたと言っても今日に至っては過言でない・・風潮が都道府県を含めた各自治体で全国的に蔓延していた。
 気象変動のシミュレーションで十年後には数十年に一度の規模ではなくなると説得しても、残念ながら聞く耳を持つ者はほとんどいなかった。
 国土交通省の公表している資料によると、昨今災害を発生させているクラスの雨がもしこの地域を襲ったら・・数十年に一度の想定外(ある意味想定内だが・・)の雨が降った場合、例に漏れず揖保川の堤防は決壊する。
 揖保川洪水ハザードマップ 該当部分抜粋
  (国土交通省姫路河川国道事務所)
 
 

 重要伝統的建造物群保存地区では3m以上の水深になる場所があるという。
 この地の伝統的建造物は江戸期のものが中二階建てであり、屋根の軒下まで沈むことになる。

中二階建ての町屋建造物
    


また氾濫流によって家屋が倒壊することも想定されている。
 人的被害がなくても壊滅的な打撃を受けないとは言い切れない。

 氾濫による家屋倒壊想定区域 当該部分抜粋
  (国土交通省姫路河川国道事務所) 
 
  
 だが、抜本的な対策は十数年の期間と莫大な予算を要する。オンオフの差の激しさを増す気象水象・・今から計画を再開しても間に合わないかもしれない。

 自然の前で無力な自分。
 自分の手を離れた身としては・・ただただ、災害が避け続けてくれることを祈るしかない。
 そして、写真に残すしかないのかも・・

 町並みを楽しく撮影しながらも、そんな思いを頭に浮かべてしまう自分がわびしい。

 

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