JAPAN GEOGRAPHIC

Monthly Web Magazine Sep. 2020

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■ 養蚕農村に移住という贅沢な選択 瀧山幸伸

パンデミックはまさに「歴史は繰り返す」という言葉の見本だ。ヨーロッパではペストの流行で都市が崩壊し、人々は農村に移住した。疫病ではないが、産業革命のスモッグも人々の移住を加速させ、郊外に「田園都市」が誕生した。詳しくは持続可能都市(サステイナブルシティ)に関する研究の序章で考察している。今回のコロナ騒ぎでも、大都市から農村へ移住したいと考えている人々が増えている。移住の妨げとなっていたのは、仕事、教育、友人などのコミュニティ、都市型サービスなどだが、それらの多くはITが発達したのでリモートでも代替できることが明白になった。ましてや歓楽追求型の都市型サービスは伝染病対策として忌避されている。

さて、ではどこに移住するのが良いのだろうか。巷の「移住したい街」アンケートでは論理的な根拠もなくここがいいあそこがいいと騒がれているが、私としては絹の文化と産業で栄えた養蚕農村を勧めたい。

首都圏から近い県では、山梨、群馬、長野、茨城、福島に多い。山梨県甲州市塩山の下小田原上条、群馬県中之条町の赤岩などの重伝建に指定されている農村はその典型だ。

下小田原上条

 

赤岩

 

養蚕農村が移住先としてふさわしい理由は、地理的にリゾートのように展望が良く涼しいこと、養蚕用の建物は頑丈で巨大なこと、旧桑畑は通常の畑あるいは水耕栽培ハウスとして比較的容易に再開墾できることだ。

山の中のぽつんと一軒家に移住するよりも、ある程度のコミュニティに加わったほうが生活しやすいし、旧養蚕農村は裕福だったせいか人々は親切温厚だ。寓話のとおり、都会のネズミよりも田舎のネズミとして暮らしたほうが幸せだ。

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