JAPAN GEOGRAPHIC

Monthly Web Magazine Feb.2021


■ 40年目にして初めての訪問  酒井英樹

 少し古くなりますが、札幌に滞在していた10月のお話。
 10代以降北海道を訪れるたび、訪れたく思いながらも縁が無かった場所があった。

 始まりは40年前に遡る。当時、私と友人の目にとまったとある会社の宣伝ポスターがあった。
そのポスターに映る○○駅の標識が「本物?」「○○駅の隣の駅名が北○○と南○○なんて・・いかにも・・屋外セットでは??吉本新喜劇の舞台セットのようだ・・」と4人で論争になった。
 結局、今で言う「鉄オタ」の同級生に聞いたところ、実在する駅であることが判明した。
 なら、実際の場所に行ってみようと・・大阪から北海道にある小さな駅に男子4人組で行くことになった。

 まだ、青春18きっぷもない国鉄の時代。
なるべく安価にと・・京都始発で日本海に沿って青森経由し東北本線で上野・東京から山科までの一筆書きの切符を購入。この切符が後に災いのもとに・・。
 京都から普通列車を乗り継ぎ、終電から始発までは駅舎で夜を明かして過ごし一路日本海側を青森まで、そこで途中下車。青函連絡船にのって北海道へ上陸、札幌に。
 だが、ここで列車トラブルにより足止めを食らう。結局、足止めが長引き帰りの切符の有効期限があるため、目的地に行くと大阪に帰ることができないことに・・。
 残念ながら目的地を目の前にして引き返すことに・・。

 以来、いつかは・・という思いが頭の隅にあったが・・、札幌滞在の最終日前日、意を決して40年目にしてやっと訪れた.
 駅の名は宗谷本線比布駅、国鉄時代からある唯一現存する半濁音で始まる駅。
 40年前テレビCMで有名になった大阪に本社のある製薬会社藤本(現:ピップ)の磁気治療器「ピップエレキバン」のロケ地として一時期有名に。
 当時の会社会長と女優の樹木希林がやり取りするCMシリーズの中の1本。
 ポスターはCMに先行して作られたものだった。


 当日、仕事を早めに切り上げたが駅に到着するころには夜のとばりが落ちていた。
 
  比布(ぴっぷ)駅
 


想像していたより、新しい駅舎。残念ながら、近年になって新しく建て替えたようだ。
 ポスターから勝手に想像していた秘境の駅的な雰囲気もない。
 


 ホームにある駅標も撮影当時のものではなくJR仕様の新しいものに代わっている。



 そのホームに40年前に乗ることのできなかったディーゼル気動車、1両だけの比較的新しい(少なくとも40年前はなかった)列車が旭川駅と折り返しのためやってきた。
 乗降客も・・それなりに・・(別会社のCMでの樹木希林のセリフ???)
 駅中は40年前とは変わっていた。



 だが、駅がセットであるかのように私たちが考えた根拠の1つ、隣駅「北比布駅」「南比布駅」は健在のようだ。


 駅中には当時の面影はほとんどなかったが・・おそらく・・、駅前にはCMを再現??できる顔嵌め看板・・そして、ひっそりと撮影当時の駅標(もしかしたらレプリカ)が立っていた。

顔嵌め看板
 

  駅前に保存されている当時の駅標
 

 これらが私を40年前の心残りを溶かしてくれる。
 できれば当時のメンバー4人で来たかった。だが、望むべくもない。
 40年の歳月が重く圧し掛かる。
 疲れ知らずで幾日も強行スケジュールで旅をつづけられた少年も、磁気治療器を必要とする年齢に・・。
 また、CM出演者のお二人はすでに鬼籍に入り、卒業後疎遠となたメンバーと最後にあったのが30数年前のメンバーの一人で、最後まで引き返すのを反対した男の通夜の夜。

 そのような思いをもちながら、
 「**、やっとこれたぞ・・」と心で叫んで、駅前の駅標に私一人で記念撮影をし帰路に就いた。

 

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