JAPAN GEOGRAPHIC

Monthly Web Magazine Mar. 2022


■ 人形がいっぱい =能と雅=  酒井英樹

 3月3日は上巳の節句。
 旧暦(太陰太陽暦「天保壬寅元暦」)の3月3日頃に桃が開花することから「桃の節句」、あるいは雛人形を飾ることから「雛祭り」と呼ばれている。

 この時期、民具を扱う博物館や旧家で古雛人形を目にする機会が多い。
 各地で飾られた雛人形を見て、今まで少し・・違和感???・・を感じていた。
 京雛と関東雛の違い・・内裏(1段目)の男雛と女雛が左右逆の配置(京雛は向かって右が男雛、現在の主流である関東雛は向かって左)という事もあるが、それだけではない。
 男子禁制で細かいところは把握していなかったが、どうやら囃子方(3段目)が原因・・。

我が家にも雛人形は複数組存在するのだが、祭りの主催となる女児や適齢女子がいないので飾り付けることも久しくしていない。
 そこで、今回見比べるため3段目だけを3組飾ってみた。

エントリーNo.1 『五人囃子』

 五人囃子。最も一般的な形式で、能楽を奏でている。
我が家ではあまり飾ったところ見たことがない???

 後列は打ち物の3人
  向かって左「小鼓(こつづみ)」

  中央は学頭の「太鼓(たいこ)」
 
  右は「大鼓(おおかわ)」
 
 前列は
  メロディーを奏でる「横笛(おうてき)」

  扇を持って旋律を謡う「謡い(うたい)」
  (写真は扇が欠損していたので、手持ち無沙汰だろうと・・鳳笙を持たせている)


エントリーNo.2『五楽人』

 5名が能楽ではなく雅楽を奏でる。
 略式の左方の楽(唐楽)の楽人を並べている。
 ちなみに右方の楽(高麗楽)において鳳笙は演奏されず、龍笛の代わりに高麗笛(龍笛とは太さ、孔の数が異なる)に、鞨鼓のかわりに三の鼓にかわる。人形の大きさから区別は付かないが・・。

 後列
  右は 主旋律を奏でる「龍笛(りゅうてき)」
 
  中央 「篳篥(ひちりき)」

  左は「鳳笙(ほうしょう)」

 前列は打ち物
  右は「火焔太鼓(かえんだいこ)」

  左は 楽頭の「羯鼓(かっこ)」



エントリーNo.3『七楽人』
 略式ではなく絃楽器(「琵琶」と「箏」)を加えた七楽人も存在する。

 写真は我が家にある半世紀前に作られたもので、雛人形の囃子方として頭の中にあったのがこれ。
  左から
   「箏」

「龍笛」

   「篳篥」

   「火焔太鼓」

「鳳笙」というより大きさから「竽」(バイオリンに対してチェロのように・・「鳳笙」の大型版、平安時代に途絶えた楽器)かも・・

「琵琶」

    楽頭の「羯鼓(かっこ)」

  一般に雅楽は三管(龍笛、篳篥、鳳笙)、三鼓(鉦鼓、火焔太鼓、鞨鼓)、両絃(箏、琵琶)で演奏される。

 「京都絲竹会」雅楽演奏会(演奏中は撮影禁止のため演奏前風景)
 
   右から鉦鼓、箏、火焔太鼓、琵琶、鞨鼓。
   三管は楽人の手持ちのため撮影していません。(琵琶の後ろには鳳笙用の電熱器)

  我が家の五楽人、七楽人のいずれも何故か「鉦鼓」を奏でる人形がない。
  だが、江戸時代には鉦鼓を加えた八楽人があったようだが、現在ではまったく見受けられない。

   上段左から「鳳笙」「箏」「琵琶」「篳篥」
   下段左から「火焔太鼓」「鉦鼓」「鞨鼓」「龍笛」

 住宅事情もあって7段飾りを飾る家が少なくなったという現在、内裏雛が主流。出番の少なくなった囃子方・・それも主流の五人囃子ではない五(七)楽人・・・。
 飾った瞬間・・どこかしら・・顔が輝いた人形達・・。
 雅楽に関係した我が家・・コロナ禍で演奏機会が減ったこともあり・・人形の気持ちが伝わったのか・・片づけることに忍びがたく・・幸い我が家には、行き遅れる者がいないので・・そのまま雅楽人形として居残ってもらうことにした・・。
 いずれ管弦だけではなく舞楽も奏でられるまで・・。

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