Monthly Web Magazine Jan. 2023
■蟇股あちこち 33 中山辰夫
今月は京都・西本願寺です。浄土真宗本願寺派の総本山。国宝建築、美術工芸など文化財の宝庫とされます。
桃山様式の残る豪華な建築に加え、多く配されています蟇股も見ものです。
西本願寺
京都市下京区堀川通花屋町下ル本願寺門前町
本願寺は浄土真宗本願寺派の本山で、西本願寺と称し、通りに面して御影堂門と阿弥陀堂門を構えています。
1272年に、吉水(現知恩院付近)に覚信尼が営んだ親鸞の廟堂に始まります。
蓮如が山科に本願寺を造立し、伽藍を整備し、寺地を転々下あと、1591年に豊臣秀吉から現在地を与えられました。
1602年に教如が東本願寺を分立してから西本願寺と通称されました。
御影堂と阿弥陀堂を南北に連ねて東向きに建て、親鸞像を安置した御影堂の方を大きく造るのは真宗建築の典型とされます。
境内には開組親鸞を祀る荘厳な国宝「御影堂」や「阿弥陀堂」だけでなく、「唐門」や「飛雲閣」、「書院」に代表される伏見城や聚楽第など
秀吉の面影を今に伝える安土文化の趣を伝えるものが残されています。
■全景
「蟇股」を軸に境内を巡ります。
■御影堂門 国重文 建立:1645 四脚門 入母屋造 本瓦葺 大規模な四脚門。 1998年から10年かけて平成の大修復が完了
堀川沿いに建っています。大規模な四脚門で、独特の組物構成をもち、彫刻や錺金具などで装飾されています。
正門側
正面側の蟇股・周辺の彫刻
配置状況と手前の蟇股
手前の蟇股
その次の蟇股と彫刻
背面側の蟇股
■大師堂(御影堂) 国宝 建立:1636 桁行七間 梁間九間 一重 入母屋造 向拝三間 本瓦葺 国宝指定:2014年
宗祖親鸞の木像を安置する本願寺御影堂は、江戸時代の建築として現存最大級の規模を誇ります。
外陣部は多数の門徒を収容するために441畳もの広さを有し、太い柱が林立して上部に虹梁を架け渡し、広大な内部空間を実現しています。
内陣廻りは金箔、彫刻欄間、障壁画、彩色などで荘厳しています。軒支柱、多様な虹梁など江戸時代前期における高度な架橋や技法を駆使しています。
御影堂は、小規模な道場から出発して広壮な仏堂に到達した真宗本堂の頂点に位置づけられる建築です。
多数の門徒により支えられ、社会に絶大な影響を及ぼした真宗本山の象徴として、文化史的に大きな意義を有しています。
御影堂の蟇股
御影堂は近世初期の優れた蟇股彫刻を多数持つ国内屈指の建物です。
御影堂に使われている蟇股は全部で74個。その取付け場所は建物の中で大別できます。
場所は、向拝虹梁上部、広縁正面虹梁上部、広縁外陣境、外陣矢来境、内外陣境、内陣列の各室と妻飾りです。
配置図
撮影は、妻飾、向廃、広縁、広縁外陣の蟇股まで(計22個)までで、のこりは撮影禁止です。工事報告書から転載したものを列挙します。
■妻飾
二重虹梁大瓶束 蟇股・彫刻はケヤキ材 蟇股の内部彫刻は邪鬼。二重虹梁下の蟇股の内部彫刻は唐獅子彫刻です。
蟇股の大きさは、脚の左右の長さが約4m、肩までの高さが約1.5m。下段の蟇股は、脚の長さが約2.6m、高さが約0.7m
北側
南側
■向拝
蟇股 三個 (表・裏彫刻) 長さ約2.7m 高さ約0.6m 脚の厚み約0.2m 荷重を分担する鎬(しのぎ)がついています
向かって左側 表・表(波に海馬)~ 中央 表・表(牡丹に唐獅子) ~右側 表・表・(波に海馬)
木鼻‣手挟
■向拝~広縁~内外陣境 上部が広縁の蟇股、下部が内外境の蟇股、間斗束と蟇股が交互に並びます。全体が見えず、撮影し辛いので引用します。
■広縁の蟇股 5個並びます。(裏面は省略します)
■外陣境の蟇股
■間斗束 外陣南東隅と北東隅の広縁側各2カ所、計4カ所の中備には邪鬼彫刻の間斗束が用いられています。
この先のお堂内は撮影禁止です。 蟇股の配置を見るのに写させて頂きました。
■矢来の蟇股
矢来蟇股は正面(西面)に内外境蟇股と同じく15個配されています。
題材は、二十四孝をモチーフにされています。彫刻は内外陣境同様、創建当時のものです。
矢来見返しの蟇股
■内外陣境の蟇股
各柱間に1個体取り付けられています。題材は迦陵頻伽(かりょうびんが)、雅楽の楽器です。
各部屋前の3個を一組として中央に飛天、左右に楽器を配されています。内陣前だけは中央に飛天、左右に迦陵頻伽を配置しています。
題材は迦陵頻伽(かりょうびんが)、雅楽の楽器です。各部屋前の3個を一組として中央に飛天、左右に楽器を配されています。
■内陣前部の蟇股 11個並びます 題材は花や果物などです
御影堂蟇股の特徴
・一棟の建物の中に優れた内部彫刻をもつ多数の蟇股を有しています
・題材が豊富で、説話的内容や極楽浄土を示す題材を意識的に選択しています
・堂内は、ほとんどのものに彩色がほどこされています
・内部彫刻の大半が前方に飛び出し、その部分は別材で彫刻しています
・内部彫刻を表裏両面にもつ蟇股があります
■経堂 国重文 建立:1678 桁行一間 梁間一間 一重もこし付 宝形造 本瓦葺 八角輪蔵付
巨大な輪蔵をもつ建築。天海僧正が開放した大蔵経を収録。一枚ずつ焼いたとされる伊万里焼のタイル(腰瓦)で装飾されています。
■手水舎 国重文 建立:1758 桁行二間 梁間一間 一重 入母屋造 本瓦葺 石水盤および井戸付
破風板に錺金具を付けています。内法虹梁上に蟇股を配し、鏡天井を貼っています。意匠的に優秀とされます
■茶所
■太鼓楼 国重文 建立:1789 桁行四間 梁間四間 二重 入母屋造 本瓦葺
重層の楼閣 内部の大きな太鼓は江戸時代には周囲に時刻を告げていました。意匠的に優秀とされます。新撰組の屯所として使われました。
■御成門(おなりもん) 国重文 建立:江戸後期 切妻造 本瓦葺の高麗門 (正面 背面」)
• 大イチョウ 京都市指定天然記念物 「逆さイヨウウ」と呼ばれます。枝が横に広がる大木です
晩秋の境内
堀川通りに面して建つ阿弥陀堂の正面と背面
■阿弥陀堂門 国重文 建立:1802 四脚門 切妻造 前後軒唐破風付 檜皮葺
大規模な四脚門 独特の組物構成で、彫刻や錺金具などで装飾されています。本願寺の表が前を構成し、この時期の優れた意匠と技術が結集されています。
兎毛通は菊鼻紋の透かし彫刻、門扉には菊の透かし細工が施されています。緻密な細工です。
正面の蟇股
■阿弥陀堂(本堂) 国宝 再興:1760 桁行45.2m 梁間42.1m 単層 向拝三間 入母屋造 本瓦葺 2017年~2022年修復工事
本尊である阿弥陀如来像を安置していることから阿弥陀堂と称し、本堂ともいわれます。江戸時代の真宗伽藍の典型です。
御影堂より一回り小さいですが、真宗寺院の阿弥陀堂及び本堂としては最大規模の規範であり、各地の大胡ぼ真宗本堂の範です。
285畳敷きの外陣や金箔や彫刻、彩色などで荘厳された内陣など、御影堂と似た姿ですが諸々の点でより発展した技法を具備しています。
阿弥陀堂の建立で、本願寺の構えが完成し、両堂に参拝する信仰形態が完成、50年毎の大遠忌の度に伽藍を発展させてきた様態をあらわしています。
阿弥陀堂の蟇股
阿弥陀堂には、御影堂と同様多くの蟇股が配されています。取付け場所も大別されます。
場所は、向拝虹梁上部、広縁正面虹梁上部、矢来境、内外境、内陣列の各室と妻飾です。
蟇股の設置位置が高く撮影が難しい事と撮影禁止場所のため、ブログや参考資料から引用しました。
南・北妻飾と蟇股
向拝の蟇股 蟇股は3個 広縁の蟇股が見えます。
木鼻と手挟
広縁の蟇股 11個並びます
内外陣境の蟇股 16個並びます うまく写せません
この先のお堂内は撮影禁止です。蟇股の配置を見るのに写させて頂きました。
御影堂と同様に矢来、内外陣境、内陣に多く配されています。題材もほぼ同じで、二十四孝、飛天、迦陵頻伽、雅楽、花や・果物です。
境内を巡ります。鐘楼とその奥に飛雲閣が見えます
■鐘楼 国重文 建立:1618 桁行一間 梁間一間 一重 切妻造 本瓦葺 梵鐘は1150年 太秦広隆寺もの
もともとの梵鐘は1150年、藤原通憲の銘があり、太秦広隆寺のものでした。現在は安穏殿の軒下に置かれています。
■飛雲閣 国宝 三層からなる楼閣建築 左右対称を崩し、層毎に趣を異にした意匠。聚楽第からの移築とも伝わる。
唐波風と入母屋を左右にもつ初層、二層は寄棟造を中心に千鳥破風を配し、三層は寄棟造と変化に富んでいます。非公開です。
堂宇の南側にある書院方面に行きます。
■竜虎殿と虎の間の玄関(国重文)
虎の間の玄関は法要行事の折りに使われます。壁板に竹と大小さまざまな虎の絵があったことから呼ばれています。
これから先は、御影堂・阿弥陀堂の背後に白書院や黒書院といった古式ゆかしい建物が配されています。これまでとは異なった景観が現れます
■浪の間 (国重文) 入母屋造りの妻入りに唐破風を載せた壮麗な浪の間の玄関です。襖も天井も浪がモチーフです。欄間の葡萄とリスの彫刻が素晴しい。
唐破風の後方に見える切妻には二羽の鳳凰が翼と尾をひろげている様子が彫られています。
■書院 (鴻の間 国宝)
正面奥の一番高く聳えている屋根が鴻の間です。その左手前にある屋根が南能舞台(国重文)です。
■能舞台
西本願寺と能楽との関係は古く、第八代蓮如上人の時代まで遡るとされます。
蓮妙上人は、法要や刑事の合間に流行しつつあった濃を積極的に取り入れたとされます。
南能楽堂
三間四面の舞台、檜皮葺。これが通常の能舞台形式です。現存する野外能舞台としては日本最大級の規模とされます。
蟇股は、桐唐草です。彫刻の桐は「五七の桐」とされ、この形式の桐は、「太閤桐」です。
肩を張って大きく足を開き、その先に装飾的な唐草があしらわれていることや、蟇股の内部に写実的な彫刻がなされている事、さらに桐の五つの花弁をもつ部分が左右に開くようになっていることなどから、桃山時代の特徴を表しています。
北能舞台 国宝 創建:1581 入母屋蔵 正面に破風付 檜皮葺 現在最古の能舞台
蟇股の中には桃の実と花の彫刻が施され、その写実性に溢れる彫刻技法は桃山時代の特徴を示しています。
■中雀門 平唐門 扉の透かし彫りが美しい素朴な門。 傍らに「明治天皇行幸所本願寺」の石標が立照られています。
塀の内側は、黒書院・白書院・対面所などが配されています。
■大玄関 国重文 建立:江戸中期 入母屋造 妻入 唐破風 本瓦葺 公式の行事の際に来客の送迎に供されます。
対面所へのお迎え口 正面の柱の間は五間あり、四畳半の広い土間には式台がある正式なものです。金の飾りが重厚感を感じさせます。
■大玄関門「背面」
唐門は背面側になります。
■唐門 国宝 移築改造:1618 四脚門 前後唐破風造 側面入母屋造 檜皮葺 黒漆を地としています
対面所の大玄関に面した正式な門。正面も背面も唐破風造で、側面は入母屋造です。黒漆塗に彩色を施した豪華な四脚門。「日暮門」とも呼ばれます。
華麗な彫刻や華やかな彩色・金具で飾られた唐門、桃山文化を代表する建造物で、本願寺最古の建物です。
背面破風下には金色の鳳凰が飛び立ち、扉背面には唐獅子や麒麟が彫刻されています。
蟇股 奥まった所にあります
扉背面 牡丹に唐獅子、雲に麒麟、竹に虎などが透かし彫り。
両袖壁の中国の故事にもとずく彫刻です。
板彫刻 手をかざす「許由」と牛をひく「巣父」、顔の表情も豊かで、繊細な彫刻。
北小路通りに沿って、唐門と台所門、大玄関門が並びます。
■台所門
長屋門です。京都では珍しい「なまこ壁」が特徴です。門の両脇に番所が設けてあります。幼稚園の入門に使われています。
■大玄関門 建立:1847 大玄関を経て書院へつながります。門の内側に控柱が建てられた薬医門形式です。
両脇にある唐破風を載せた門番屋あり、これが武家屋敷の門の様に見せます
■唐門 国宝 正面です。
蟇股は奥まった所にあります
故事の彫刻です
馬に乗って沓を落とした「黄石公」、龍に乗って沓を拾い差し出す「張良」。水の流れや龍の姿は躍動感にあふれています。
補足
飛雲閣
親鸞聖人御誕生850年・立教開宗800年慶讃法要「協賛行事」の一環として飛雲閣が一般公開されました。
飛雲閣は、境内の東南隅にある国名勝「滴翆園てきすいえん」の滄浪池(そうろうち)に建つ三層杮葺きの楼閣建築です。
国宝 建立:桃山時代 南面・北面:25.8m、東面:11.8m、西面12.5m 三重 杮葺き 非公開
全景
二層、三層と建物は小さくなり、その中心も東に移るという左右非対称ながら巧みな調和をもつ名建築とされます。
初層は入母屋造理に唐破風と千鳥は風を左右に、二層は寄棟造理に、三方には小さな軒唐は風を配し、三層は寄棟造りと変化に富んだ屋根です。
三層は滴星楼と呼ばれます。 二層は三十六歌仙が描かれた歌仙の間
一層は主室の招賢殿(しょうけんでん)と八景の間、舟入の間、さらにあとに増築された茶屋・憶昔(いくじゃく)唐なっています。
細部
唐破風 笈形と板蟇股
石積・石垣
滄浪池
黄鶴台
飛雲閣と渡り廊下で結ばれています。杮葺寄棟造の床の高い建物です。
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