「サントリーの向かい獅子」
所在地:岐阜県不破郡垂井町の垂井宿内
父は下戸でしたのでお酒に縁はなかったのですが、トリスウィスキーのCM のキャラクター「アンクルトム」がテレビ画面にウィスキーを片手にチョコチョコ歩いて登場すると、家族はみんなで笑いました。
顔の形とチョコチョコ歩く短足がまさに父そのものだったからです。
短足では二大爆笑事件があります。松坂屋でズボンの裾上げを依頼して帰宅したら、すぐに電話がかかってきました。採寸はしたのですが、本当に切ってもいいものかどうかと。裾上げのためにズボンの半分くらいは切り落とさねばならないほどの短足だったのです。
もうひとつの事件は、正座した人にはすぐにすり寄って膝に乗ってくる飼い猫が、うまく丸まれずに滑り落ちること(アンクルトムのようにやや太りめで短足なので、正座をすると腿から膝がほぼ直角になる)。猫は丸まろうと必死に努力をして爪まで立てるのですが、父の短足に勝てず転げ落ちて去って行くのです。
父を笑いものにする不肖の娘ですが、昭和の半ばにこのCMで大笑いした家族とまだ若かった父をなつかしく思い出します。(サントリー社発売、爆発的人気だったトリスウィスキーCM 柳原良平氏作品)
中山道歩きを趣味にしていますが、古い商店街に入ると当該看板とときどき出合います。看板にあるサントリーの社章「中央三角向獅子」は明治31年に商標登録されたもの。両側に立つ獅子は百獣の王として強さと威厳とさらに併せ持つ美しさから、紋章には多く使われるそうです。
楯にある二つのSは、ラテン語の「スピリタス サンクタス(SPIRITAS SANCTUS)」の頭文字。ウイスキーやブランデーは、昔「生命の水」と呼ばれており、良質な水を基本とするサントリーにとって意味の深い文字となります。
会社の名前には創業者の名前が入っていることが多いのですが、サントリーもご多分に漏れず、鳥井さんという創業者の方の名前です。当時の社のメイン商品であった赤玉ポートワインの赤を太陽に見立てて「サン」(SUN)に、名字の「鳥居」をつけて「サントリー」としたと社史にありますが、巷節ではトリイサンをサンを先にして読むとサントリイ→だからという説もあり、こちらの方が創業者の会社への思い入れが強く出ていていいのになぁ、と思います。
トリスウィスキーは国内では初めてサントリー社から発売されたウィスキーです。命名のトリスは矢張りトリイサンがらみで「Torys」で「鳥井の」という意味を持つそうです。
いづれも自社や自社商品に対する愛情がタップリ感じられます。そういえばサントリーレッドの「すこし愛して、なが—く愛して」という大原麗子のハスキー声のコマーシャルもありましたね。
商いは仕事を愛しながら飽きずに長く続けること。うん。サントリーの看板。地味ですが良い看板でした。
わが家は父譲りの下戸ばかり……しかし「サントリーの天然水」を愛していて、いざの時のためにも物置にも積んでいます。
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