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洋風の港町を比較する
Comparison of western style harbor towns

2004 瀧山幸伸


日本の観光港町を横に並べて比較分析してみよう。
取り上げた街並は、小樽函館横浜神戸門司長崎の六か所。
街の歴史、街並、人々の気質、観光産業の現状と将来、公共の取り組みなど港町のブランド戦略について検討してみる。
東京のベイアリアはもちろんのこと、地方沿海部での開発、あるいは内陸部での洋風の街づくりのヒントも見えて来よう。

海外で比較するとすれば、北米東海岸のケベック、ボストン、プロビデンス、ボルチモア、サバンナ。
西海岸では、ビクトリア、バンクーバー、サンフランシスコ。
アジア、南半球では、上海、香港、シンガポール、シドニー。
ヨーロッパではマルセイユ、ナポリなどが参考となろう。
海外については、別途機会があれば同じ基準で詳細を論じたいが、下記概略表のとおり、その町の歴史と文化を強烈にアピールすることが街ブランド成功の要因だ。

街の魅力を計る尺度は何だろうか。
観光目的の旅は、経済合理性の無い無駄使いに思えるが、旅行にはそれ以上の欲求充足効果がある。
そういう意味では、テレビや映画、ギャンブル、遊園地などのカタルシス効果と同様だ。
それは、理性の追求ではなく、感性の追求、五感の体験と活性化が重要な位置を占めている。
リンストロームは、「五感刺激のブランド戦略」で企業のマーケティング理論を展開しているが、企業のみならず、街のブランド戦略として五感刺激を取り入れることは重要だ。
理屈ではなく感性、すなわち、眼、耳、鼻、口、皮膚、そしてなつかしい記憶としての自我の拡張で感じる街のブランド戦略を探ってみたい。

評価基準については、従来の評価法を発展させ、マズローの欲求五段階理論を反映した。
すなわち、生理的欲求を基本欲求として再評価する。
さらに、自己実現欲充足のための「歴史」「芸術文化」「異国情緒」「自己の記憶」などの高度欲求要素を考慮した。
一方、観光を都市全体のエンタテインメントと捉えれば、カイヨワの言う「遊びの本質」理論も検討すべきだが、評価基準が煩雑になるため、環境アセスメントと欲求段階の考察のみにとどめた。

感覚の中で、街特有の音は重要だ。
環境省が「日本の音百景」を選定しているが、概して音に無頓着な街が多い。
全国1000箇所以上の「音」を録音して聞き比べてみたが、眼には素晴らしい景色であっても、耳にはやさしくない街が多い。
音がひずんだ公共放送と時報、カラスの騒ぎ声、路地を疾走するバイクや自動車の騒音。がっかりすることが多い。かつては物売りの音が時計代わりになり、街の風情と季節感を演出していたのだが。
騒音を打ち消す水音を積極的に導入する街は増えてきたが、都市の野鳥を保護し増やす街は少ない。
寺社の玉砂利の発する音は清楚で響きが良いのだが、歩きにくいためか、現代風の街並にはほとんど導入されていない。
音を聞くだけで街のブランドが連想されるのが理想だが、道のりは遠い。

さらに嗅覚については、日本はかなり遅れている。
南フランスの香水の町グラースのバラ、桂林のキンモクセイなど、その街の香りブランドは強い。
強いてあげるとすれば、梅の香りの青梅梅郷、水戸、熱海梅園近辺、ラベンダーの富良野、河口湖などだろうか。
オーストラリアのユーカリは香りが良いが日本では台風に弱い。
寺社に生える伽羅の木は古来からもてはやされる香木で、千年近く生きるが、これを街路樹に採用している街は見たことが無い。
杉並木も、香り、癒しという点では再評価されるべきだろう。
クスノキは優に千年以上。香りという意味では特殊だが、常緑樹として再評価したい。
そういう意味では、寺社が多い町には線香・抹香の匂いがあり、鐘の音ともあいまって心地良い。

一方、皮膚感覚においては日本は進んでいる。
その典型例は温泉だが、最近は街中に足湯も多く設置され、訪問者の疲れを癒してくれる。
旧来、飛び石、石畳などは人の皮膚感覚を大切にする環境作りであった。
伊豆土肥の、裸足で体験する足裏マッサージ型の花時計公園など、素肌の感覚を大切にすることは重要だ。
もしもゴルフ場のバンカーの砂場やグリーンに裸足で入れる街があれば、足裏の感触が新鮮で癒しになり嬉しい。

文化、歴史、異国情緒、記憶などの高度な欲求評価は今までなされていなかったが、今回の評価基準に取り入れた。
例えば、六つの港町は二派に分かれる。
函館、横浜、神戸、長崎は、
「異人さんの家、教会と鐘の音、領事館、外国銀行、異人さんのライフスタイルを体験する異空間の街」
であり、一方、小樽、門司は
「近代産業の隆盛と衰退の歴史、倉庫、国内銀行などの文化遺産を体現するなつかしい街」
であり、その遺伝子は全く異なる。
海外の事例で言えば、ボルチモア、サバンナ、マルセイユなどの商業港が同じ類型だ。

このことから、どのようなコンセプトでどのような施設をどのように五感フィーチャリングして、さらに高度な「愛着」「自分にとっての意味づけ」「思い出の地」の演出を施せば素晴らしい街ブランドが形成されるかのヒントを探ってみたい。

詳しい考察は別の機会として、下記総合評価表を参考に、各港町を訪ねてみよう。

まとめの比較一覧表(5段階評価)

カテゴリー 小樽 函館
(主に元町)
横浜
(主に山手)
神戸
主に北野)
門司 長崎
(主に山手)
総合            
緑(眼、耳の感性)            
水(眼、耳、舌、皮膚の感性)  
運河
 
港湾
 
港湾、噴水
 
 
港湾、噴水
 
港湾
花(眼、鼻の感性)    
 
港の見える丘公園、山下公園
     
文化と歴史(記憶の感性)  裕次郎  
ロシア移民、函館戦争物語と歌謡曲
 
開国と絹貿易、横浜ドック各種ミュージアム

 
物語と歌謡曲

 物語と歌謡曲  
出島、唐人街、外国経済人
物語と歌謡曲、学校での知識
異国情緒(記憶の感性)    
異人さんの街並、教会
 
異人さんの街並、教会、外人墓地
 
異人さんの街並、教会
   
異人さんの街並、教会、外国学校
飲食施設 (口・舌の感性)  寿司  シーフード  洋食、中華
 洋食、中華、洋菓子
   しっぽく、ちゃんぽん
物販施設    
レンガ倉庫の活用
 
元町、ドック周辺
 
   
宿泊施設            
その他公共施設とサービス      
異人館での展示イベント、レンガ倉庫
 
学校を利用した施設
   
水辺の森公園
眼の感性  
運河の景観
銀行街、ガラス工芸
 
夜景、レンガ倉庫、洋館、教会
 
旅客船
ベイブリッジ
 
街並、街路灯、幟
 
関門橋
 
稲佐山
夜景
耳の感性  
オルゴール
 
船の汽笛
 
船の汽笛
 
船の汽笛
   
船の汽笛
鼻の感性
 
かまぼこ店
   
中華街の匂い
     
皮膚の感性    
湯の川温泉
       

海外の参考事例

カテゴリー ケベック ボストン プロビデンス ボルチモア サバンナ ビクトリア バンクーバー サンフランシスコ 上海 香港 シンガポール

シドニー

マルセイユ ナポリ
総合                            
                           
                           
                           
文化と歴史(記憶の感性)  フランス文化  英国アイルランド系移民文化と学校
 ピューリタン移民文化  石炭等の産業港
B&O鉄道時代
 綿花の積出港
綿花と文学、音楽のチャールストン
 英国系文化  英国系文化とガスタウン
チャイナタウンと中国人の苦難
 産業港と漁港
ゴールドラッシュとマークトウェイン
 産業港
租界の異国情緒
ジャズ
 産業港
アヘン戦争
イギリス文化
 産業港
華僑
 
移民文化と開放性
 産業港
ナポレオン戦争
 産業、漁港ローマ文化
飲食施設  
フランス系
 
クラムチャウダー
   
カニ
 
カニ、ナマズ
 
シーフード
 
シーフード・中華
 
シーフード・中華
       
フィッシュアンドチップス
 
地中海料理
 
南イタリア料理
物販施設  
路地でのエンタテインメント商業
                         
宿泊施設                            
その他公共施設とサービス                            
眼の感性                            
耳の感性                
ケーブルカーの音
           
鼻の感性                        
   
皮膚の感性                            
石畳・建物の肌触り