JAPAN GEOGRAPHIC

持続可能都市(サステイナブルシティ)に関する研究 (モデルタウン「J-town2010」の研究)
Study of Sustainable City


世界の諸問題はサステイナブルシティで解決可能か?
Is Sustainable City effective to solve problems of this world?

瀧山幸伸  初稿 2010 


サステイナブルシティ「J-town2010」は諸問題を解決するための有効な手段となりうるのか?
今そこにある諸問題と将来発生するであろう諸問題を整理して、各問題ごとに「J-town2010」の効能を論理的に検証してみよう。


1. パラダイム転換のゲームチェンジャー

日々マスコミが取り上げる諸問題は、地球レベルの環境問題から、紛争、事故、犯罪その他、様々である。
世界の諸問題はなぜ発生するのだろうか。現代の西洋文明では重病人に悪魔払いを行うのか外科手術を行うのかを迷う人はいないが、それは特定の疾病において科学的な原因解明と治療の費用対効果が明確になったからである。
医療がそうであるように、諸問題の中にも科学的に原因と対処法が確立しているものもあれば、対症療法に頼っているものや、放置されているものもある。糖尿病のように自覚症状が無いまま病が秘かに進行している問題も多い。
病気と異なり、治療の是非と費用対効果すなわち社会正義と合理性を議論する以前に、国の権益などが優先され、見て見ぬふりをしたり積極的に放置することも横行している。
都市化と貧富の格差の問題を一例として挙げれば、21 世紀中に世界の都市化が拡大し、世界人口の 2/3 が大都市に住むようになるだろうと予測されているが、なぜ都市化が必然なのだろうか。なぜ人は都市に移住するのだろうか。大都市化以外の選択枝は無いのだろうか。都市のスラム化は新たなテロの温床とならないだろうか。
アフリカの都市化とスラム問題は深刻だが、その原因の一つとして死者百万人を超える内紛が起きようとも、それがアメリカなど先進国の権益に無関係であれば介入も援助もなされず放置されてきた。内紛により農村が疲弊した結果、人々が都市に移住し重大なスラム問題が発生したが、それも同様に放置された。
中国やインドの都市問題にしてもしかり。このような放置がアフガン紛争や中国都市部での暴動に発展した事実を繰り返してはならない。食糧と資源難にあえぎアメリカなど列強に追い詰められた北朝鮮と、ハルノートを突き付けられ石油などの資源を求めて太平洋戦争に突入したかつての日本とは似ている点もあると言える。

「ジャカルタのスラム」(出典:wikipedia)
世界中の都市化で今後多くの問題が発生する


「広島に投下された原子爆弾と市街の惨状」(出典:広島平和記念資料館展示)
人はなぜテロや戦争を行うのか?

 

産業革命や信長の火縄銃がそうであったように、ひとたびパラダイム転換のゲームチェンジャーが現れると、旧体制があっけなく駆逐され諸問題が軽く解決することもある。
アインシュタインは、「われわれが直面する重大な問題というものは、その問題を引き起こした時と同じレベルの思考では解決できない」という。最も困難な問題を解決するためには、考え方を根本的に変えなければならない。だが、パラダイムの転換とは言われるものの、パラダイムを変える具体的な処方箋は無かった。
このような諸問題を総合的に解決するには、各分野に特化した専門領域の学問では難しく、学際的な統合科学が必要だが、そのような人材は少なく、ほんの一部の学者研究している状況である。
日本に目を向けると、日本は課題先進国と言われるが、これらの課題を総合的に解決する特効薬はまだ開発されておらず、膏薬を張るような対症療法ばかりが議論されている。学者ばかりか、実業界でも、IT 関連事業者、ゼネコン、デベロッパー、商社などにおいても、長期的な視点で諸問題の解決を基軸とした事業を構築する試みは進んでいない。
諸問題の根源の多くは、パラダイムの問題と言うよりも、既得権などに由来する社会制度の硬直性であったりする。戦国時代を終結させた鉄砲によるゲームチェンジ以来、日本社会の硬直性は変わっていない。
日本でサステイナブルシティの導入を阻むものは、資源でも経済性でもなく、社会制度、例えば土地所有制度であり、行政制度である。諸制度はサステイナブルシティ「J-town2010」の技術が無かった明治時代に作成され、戦後若干改変されたものの基本的にはそのまま維持され続けたため、今となってはサステイナブルな社会への移行の大きな阻害要因となっている。硬直化した社会制度の日本に未来は無い。
「現代のダーウィン」と呼ばれるジャレド・ダイアモンドは、『昨日までの世界 -文明の源流と人類の未来』で、現代社会の病理の原因と解決策を提示している。「昨日までの世界」とは、人類が 600 万年前にチンパンジーから分かれて進化し、産業革命に至るまで地球に普遍的にあった伝統的な小集団社会で、産業革命以降発展した西洋的社会、特にアメリカ的社会(工業社会、高教育社会、金銭的に豊かな社会、民主的社会など)の対極にある社会である。ダイアモンドは、現代の西洋的社会の常識は実は偏ったもので、一方の「昨日までの社会」は人類が数百万年続けてきた社会なのでサステイナビリティが証明されており、現代社会の諸問題の解決の参考になると説いている。
「J-town2010」は、「昨日までの世界」の優位な点を現代の科学技術で補強し、先進国から最貧国に至るまで地球上の全ての社会が抱える諸問題を世界規模で解決するための具体的提案であり、ダイアモンドの論を具体的に実現するものであるとも言える。


2. 諸問題の分類と「J-town2010」の効果 一覧リスト

そもそも、我々を取り巻く諸問題とは何か。医療の場合は疾病が分類され体系的な整理がなされているが、我々が直面する全ての問題すなわち社会の病理を総合的にリストアップしたものは学術的にも実業的にも適当なものが見当たらない。
本論では、諸問題の抽出方法として、試みに「環境問題」「災害」「社会問題」「都市問題」などの各種キーワードでウェブ検索を行い、以下に示す分野別の暫定的問題リストを作成した。そのうえで、各問題について「J-town2010」がどれほど有効であるかを検討した。
結論を先に言えば、この一覧表のとおり、「J-town2010」は、地球上のありとあらゆる問題、いわゆる万病に効くとまでは言えないが、ほとんどの問題にかなりの効能を有することが期待される。そもそも、サステイナブルシティの研究目的がこのような世界の諸問題を解決することであったから当然ではあるが。


(1) 環境問題、自然災害

●●● 水質汚染 (環境ホルモン、アレルギー物質等の有害物質による飲用生活用水汚染、地下水汚染、河川汚染、富栄養化)、水不足による食糧不足、土地の砂漠化、乾燥による山火事
●●● 水害 (洪水、土石流、鉄砲水、高潮など)
●●● 大気汚染(スモッグ、煙害、風塵、粉塵、屋内 VOC 等環境ホルモン・アレルギー物質)
● 風害(暴風による、倒木、建物の破損、農産物への被害など)
●●● 地震 (揺れによるがけ崩れ・地滑り、隆起・沈降・地割れによる地形変化、地盤沈下、液状化現象、道路の寸断、橋や塔、建物の倒壊、ライフラインの寸断、津波による浸水、建物の流失、塩害)、地下水汲上げによる地盤沈下、土壌汚染、土壌流出、土砂災害、地すべりなど
● 雪、凍結、霜、雹(ひょう)などによる農産物や植物、建物への被害、落雷による構造物の破損、火災、誘導電流による被害
●● 騒音、振動、悪臭、電磁波被害
● 廃棄物(不法投棄、ポイ捨て、漂着ごみ、海洋投入、放射性廃棄物)
●● 光害、日照阻害
●●● 地球温暖化、気候変動に伴う海面上昇、高潮、海岸侵食、氷河融解、異常な高温・低温・日照不足による動植物、人間、農産物への被害、ヒートアイランド問題、火山の噴火、隕石の落下
●●● 生態系の問題 (生態系破壊、酸性雤、森林破壊、はげ山 、農業被害、人的被害、新興感染症被害)
●●● 食の安全 (生物蓄積、食品添加物、食品事故など)


(2) エネルギー問題

●●● エネルギー問題(化石燃料、原子力)

(3) 社会問題

A 事故・人災

●●● 戦争(空襲、核戦争、地上戦、徴兵動員など)、紛争、暴動、 テロ
●●● 犯罪(強奪、放火、暴力など)、サイバー犯罪(個人情報流出、サイバーテロなど)、組織犯罪、経済犯罪(汚職、暴力団、暴走族など)
●●● 火事、救急
●●● 道路交通事故、飲酒運転
X 列車、飛行機事故、海難事故
●●● 水難事故、遭難
● 放送、通信事故
● 爆発、毒物拡散、製品欠陥事故


B 都市問題

●●● 土地・住居・産業問題 (高コスト、ベッドタウン化、無産業都市化、 スプロール、中心市街地崩壊、大都市一局集中化、地域活性化、集落崩壊(限界集落、耕作放棄地) 、スラム、バンダリズム、ホームレス不法占拠、不法滞在、国際間経済格差(南北問題))
●●● 交通問題 (帰宅困難者、 通勤通学ラッシュ、渋滞、自転車問題、買い物難民)
●●● 都市インフラ更新コスト、運営コスト問題
●●● 景観問題

C 医療、健康、介護、社会福祉問題

●●● 医療格差、救急医療の不備、医療事故、医療費医療保険の無駄、予防医療の欠如、介護費介護保険の無駄、社会的入院の無駄、社会福祉養護費の無駄
●●● 人口問題、産業・就業問題、教育、文化、宗教、心、コミュニティ問題
●●● 少子高齢化、産業崩壊、就職難、コミュニティ崩壊、失業保険の無駄、生活保護の無駄、ニート、ホームレス、不就学、公教育・私教育・社会教育の無駄、道徳教育の欠如、無宗教カルト宗教問題、頭脳流出、知的生産性の低さ、学歴社会、待機児童問題、鍵っ子、家庭崩壊、家出、失踪、差別、人権問題(人種、ジェンダー、学歴、身体的社会的弱者、いじめ、自殺、虐待)孤独、無縁社会、独居老人、結婚難
●●● 税金の無駄、公務員人件費の無駄、警察消防の無駄、軍備の無駄
●●● ファイナンス問題、資産運用問題、公的年金の無駄


3. 諸問題別の「J-town2010」の効果に関する考察

以下は、上記の効果表に記す「J-town2010」の効果を、問題の分野別に、可能な限り科学的かつ具体的に評価したものである。

(1) 環境問題、自然災害

●●● 水質汚染 (環境ホルモン、アレルギー物質等の有害物質による飲用生活用水汚染、地下水汚染、河川汚染、富栄養化)、水不足と食糧不足、土地の砂漠化、乾燥による山火事

「J-town2010」は世界のどの地域にも適用できるよう雤水利用を基本仕様として設計されている。地下水も表流水も得られない地域、例えば半乾燥地域で塩害があるような土地では、年間 500mm 程度の雤水しか得られないが、そのような過酷な環境でもサステイナブルな水資源が得られる。
雤水は蒸留水なので、大気汚染が無ければ不純物は非常に少ない。飲用はもちろん、生活用水として利用された汚水は各建物の浄化槽で処理され、有機肥料分とともに水耕栽培に利用される。従って、水質汚染、特に飲用水の問題となる寄生虫クリプトスポリジウムの集団感染やトリハロメタン、クロロエチレンなどの有害物質の摂取が避けられる。同時に、処理水を直接河川に放流しないので高度な水処理は必要なく、水処理コストが削減されるのみならず、河川水の汚染や富栄養化も回避される。また、水耕栽培を基本としているので、土地利用効率すなわち農業生産効率が高く、灌漑用水の不足、塩害、土地の砂漠化などに起因する食料不足や飢饉にも効果がある。

渡良瀬遊水地(筆者撮影)
足尾鉱毒事件は公害の原点で、遊水地造成に伴い谷中村が消滅した。「J-town2010」は効率的な水循環都市であり、灌漑農業や上下水道は過去のものとなる。


●●● 水害 (洪水、土石流、鉄砲水、高潮など)

自らの水害(被害)と下流域への水害(加害)について検討する必要がある。「J-town2010」はその理念に従い、災害のおそれがある場所には立地しないので、自らの水被害とは無縁である。下流域への水加害については、従来の都市開発では洪水に備えて洪水調整地を造成し河川改修を行うことが必須だったが、「J-town2010」では各敷地が雤水の貯水槽を持っているので、全体が洪水調整ダムの機能を有しており、下流域に対しても安全である。

●●● 大気汚染 (スモッグ、煙害、風塵、粉塵、屋内 VOC 等環境ホルモン・アレルギー物質)

域内から発生する汚染と域外からの汚染とに分けて検討する。
「J-town2010」は「スモークレスタウン」であり、「J-town2010」域内から発生する大気汚染はほぼゼロである。市街地全域で電気自動車を標準とする、煙や粉塵を出す大工場は立地規制するか排出規制する、風塵を発生させる裸地や農耕地が無い、アレルギー源となる排出物や花粉症の原因となる植生を排除するなどにより、屋外の大気質は極めて良好である。屋内においては VOC 等が問題となるが、地域周辺で調達可能な自然由来の建設資材を利用し、有害物質を含んだ建材や家具などを避けることにより、安全な屋内大気質を維持することが可能な「ケミカルレスタウン」である。
域外からの汚染に関しては、地球規模で「J-town2010」を普及することにより灌漑農業や牧畜に由来する裸地が縮小し森林が拡大するため、砂嵐を減少させる効果がある。PM2.5 などの広域な大気汚染も、地球規模で「J-town2010」を推進することにより減少する。

「佐賀県唐津市大浦の黄砂」(筆者撮影)


● 風害(暴風による、倒木、建物の破損、農産物への被害など)

「J-town2010」の建物の標準は「「J-town2010」サステイナブルハウス」で、一戸建ての平屋なので風害への耐性は高い。ただし竜巻には効果が無く、竜巻が頻発する地域ではシェルターが必要だ。
農産物への被害に関しては、水耕栽培を温室仕様とすれば露地水耕に比較して被害を若干減らすことができるが、台風が頻発するような地域では効果は限定的である。


●●● 地震 (揺れによるがけ崩れ・地滑り、隆起・沈降・地割れによる地形変化、地盤沈下、液状化現象、道路の寸断、橋や塔、建物の倒壊、ライフラインの寸断、津波による浸水、建物の流失、塩害)、地下水くみ上げによる地盤沈下、土壌汚染、土壌流出、土砂災害、地すべりなど

「J-town2010」はその理念に従い、災害のおそれがある場所に立地しないので、地震に伴う地形変動、液状化、津波の被害とは無縁である。域内は徒歩交通が基本なので道路や橋は簡易な構造で十分であり、被害は限定的である。建物は、住宅は平屋、公共の建物も平屋または最大 2 階建てなので、エレベータ停止に伴う問題はなく、ガラスなどの落下に伴う事故や建物倒壊のおそれが無く安全である。
域外からの影響も軽微である。電気、上下水などのライフラインは各戸セルフコンテインドの自律型であり、寸断されることは無い。たとえ寸断があっても近隣間の融通で対処可能である。
通信も有線と無線がメッシュ状にカバーし、かつ域内に複数のデータセンターを持つため、重要なデータの棄損と通信の途絶は無い。
地震に限らず、通常の地盤沈下、土壌汚染、土壌流出、土砂災害、地すべりなどとも無縁である。土壌汚染に関しては、原発事故による放射能汚染が現実のものとなった。「J-town2010」は原発に依存しないが、近隣で原発事故が起きれば少なからぬ影響を受ける。福島やチェルノブイリなど原発汚染地域で「J-town2010」を推進する場合でも、「J-town2010」の水耕栽培方式であれば農産物は土壌汚染の影響を受けないが、土壌汚染の人への影響は除染で対応せざるを得ない。

宮城県石巻市 東日本大震災の津波被害(筆者撮影)


● 雪、凍結、霜、雹(ひょう)などによる農産物や植物、建物への被害、落雷による構造物の破損、火災、誘導電流による被害

雪、凍結、霜、雹(ひょう)などによる農産物への被害は、水耕栽培が温室仕様であれば、ある程度効果がある。低層の建物なので落雷からは比較的安全である。
「J-town2010」の積雪による被害は少ない。域内での人の移動は徒歩で完結するので除雪は必須ではない。積雪時の域内交通には共同運搬手段(スノーモビル等)を、域外交通用にはスキー場のような共同駐車場を確保すれば足りるので、全ての道路を除節講とは不要である。危険な雪おろしも平屋の鋼板屋根なので不要である。

●● 騒音、振動、悪臭、電磁波被害

「J-town2010」の市街地内の自動車走行は徒歩と同じ時速 6Km 以下の超低速なので、自動車に起因する騒音、振動は少ない。その他の騒音、振動の発生源も無いし、空港から離れているので航空機騒音も無い。高圧送電線等が無いので電磁波被害も無い。悪臭の発生源としてバイオ由来の堆肥施設、汚泥などはあるが、悪臭対策は可能だ。

● 廃棄物(不法投棄、ポイ捨て、漂着ごみ、海洋投入、放射性廃棄物)

「J-town2010」では可能な限り資源のリサイクルが行われるので廃棄物問題は対処可能だ。一般廃棄物や汚泥など再利用が不可能な廃棄物は焼却され、得られた温水は温浴施設、共用ランドリーなどで利用される。原発に依存しないので放射性廃棄物は発生しない。

●● 光害、日照阻害

「J-town2010」は無駄な照明は使わない。市街地は IT セキュリティシステムにより犯罪とは無縁であり、低速走行の自動車は交通事故とも無縁であり、街路灯は必要最小限で良い。広告イルミネーションも不要なため、余分な光による光害はなく、星空が美しい。日照阻害に関しては、高層建築が無いので発生しない。

●●● 地球温暖化、気候変動に伴う海面上昇、高潮、海岸侵食、氷河融解、異常な高温・低温・日照不足による動植物、人間、農産物への被害、ヒートアイランド問題、火山の噴火、隕石の落下

「J-town2010」はその理念に従い長期的な気候変動の影響を受ける場所に立地しないので、海面上昇、高潮、海岸侵食が起きても被害を受けない。火山の噴火による火砕流、火山灰(降灰)、火山弾、火山泥流に関しても被害を受ける場所に立地しないので被害は無い。
農産物への影響に関して、過去の飢饉は、火山活動、隕石落下などに起因する気候変動、作物への病害などに起因しているが、水耕栽培は気候変動や気象の変化に強く、収穫サイクルが短いので被害リスクが低い。また、加工食品製造に利用するための加工場と大量の食料備蓄があるので、飢饉、災害などが発生しても持久することができる。「J-town2010」には農業生産の緑地が多いのでヒートアイランド問題も発生しない。

●●● 生態系の問題と新興感染症 (生態系破壊、酸性雤、森林破壊、はげ山 、農業被害、人的被害、新興感染症被害)

「J-town2010」はその理念に従い生態系の保全と改善を推進するので、生態系破壊、酸性雤、森林破壊、はげ山などは発生しない。生物による農業被害は、バッタやウンカの大量発生による蝗害、アブラムシ・カメムシによる食害、シカやイノシシ、鳥等による食害、病原体による農作物の病害などであるが、 『「J-town2010」サステイナブルハウス』のガラス温室水耕栽培仕様であれば生物による農作物被害に対処可能である。
「J-town2010」は生物多様性を確保し生態的に安定しているうえ、高密度な大都市に比べ人口密度が低いので、新興感染症が拡大するリスクは比較的少ない。生態的に安定しているのでクマ、ハチ、ケムシなどの直接被害も少ない。AIDS、エボラ出血熱、SARS、新型インフルエンザなどの人を通じて感染する新興感染症の場合、「J-town2010」では外部に閉じた非常時サバイバルモードを取ることにより、感染を極小化することができる。すなわち、一定期間外部からの人や物資の流入を規制するなど、検疫に関して籠城体制を取ることができる。ただし、鳥が媒介するインフルエンザなどには効果が限定的である。

●●● 食の安全 (生物蓄積、食品添加物、食品事故など)

食の安全に関しては、水質汚染と土壌汚染の項で述べたとおり問題ない。食品添加物などの有害物質や食品事故に関しては、「J-town2010」はその理念に従い可能な限り地産地消を行い、水耕栽培などで新鮮な食料を生産し消費するので、問題はほとんど発生しない。

(2) エネルギー問題

●●● 枯渇性エネルギー問題(化石燃料、原子力)

「J-town2010」は自律型の再生可能エネルギーシステムなので化石燃料や原子力に依存せず、この問題解決には特に有効である。
エネルギーの自給が可能な最大の理由は、民生用途においては、徒歩社会であること、スマートなシステムが無くとも各世帯がエネルギーの生産に合わせ消費を自律的に最小限にコントロールするライフスタイルであること、コミュニティが共助の精神でエネルギーを融通し合うこと、産業用途で大量にエネルギーを消費する大規模工場などが立地しないことである。
大規模工場は「J-town2010」とは別に産業都市に立地するのが最適である。産業都市は鉱山都市などと同様な統合型のプラントであり、エネルギー、資源、輸送などの最適解のシステムとして世界規模で合理的に立地選定されるので、みずから「J-town2010」の立地とは区別される。
もちろん、サステイナブルシティの「J-town2010」に住むか産業都市に住むかの選択は自由であるが、産業都市は住民よりも産業を優先するので多くの諸問題を抱え続けるだろう。

「新設堰堤から見た静岡県浜岡原発」(筆者撮影)


(3) 社会問題


A 事故・人災

●●● 戦争(空襲、核戦争、地上戦、徴兵動員など)、紛争、暴動、 テロ

「J-town2010」の理念の核は世界平和である。「J-town2010」の自律システムは、平和を脅かす戦争、紛争、暴動、 テロなどの重要な原因である飢餓感、疎外感、絶望感、闘争心をなくし、幸福感を増加させることにより脅威を排除することに効果があり、戦争に関しては、「J-town2010」の住民が積極的に戦争を起こす動機は無い。また、紛争解決を戦争に訴える社会ではないので、徴兵動員も無い。「J-town2010」が戦争等の被害を受けることはありうるが、「J-town2010」は過密な大都市ではないので空襲や地上戦あるいはテロの標的とはなりにくい。
万が一の核戦争には、それが甚大でなければシェルター等で対処し備蓄食料と雤水の浄化で耐えることができるかもしれないが、絶対安全であるとは言えない。

「9/11 テロで炎上する世界貿易センタービル」(出典:wikipedia)


「広島の原爆被害」(出典:広島平和記念資料館展示)

 


●●● 犯罪(強奪、放火、暴力など)、サイバー犯罪(個人情報流出、サイバーテロなど)、組織犯罪、経済犯罪(汚職、暴力団、暴走族など)

「J-town2010」では犯罪が起こりにくい。犯罪の重要な原因である飢餓感、疎外感、絶望感は少なく、競争や勝ち負けよりも共助を尊ぶ社会であり、ブータンのように多くの人が幸福感に満たされている。
刑法犯については、顔見知りの小さいコミュニティであるうえ、IT セキュリティも装備している。住民も外部からの訪問者も全てが ID を登録し、犯罪発生時にはトレース可能なので、犯罪の予防に効果がある。また、「J-town2010」の周囲に ID センサーを設置することにより、犯罪者や不審者の侵入を防止することができる。犯罪の温床となる暴力団、不良グループ、暴走族なども存在しえない。汚職などの犯罪は、全ての行政サービスが完全に民営化され、コミュニティが監視と監査を行うため、発生する可能性が低い。
なお、「J-town2010」には公的な警察の実動体制は無く、コミュニティの自警団のような民間組織が対応し、それでも対処できない場合は広域連携警察に委託することにより無駄な公安コストを削減することができる。
サイバー犯罪については、「J-town2010」の統合 IT システム「クローズドコミュニティメディア」をは高度な暗号化とセキュリティで住民の個人情報とコンテンツを保全し、外部からのサイバー攻撃にも対処する。

●●● 火事、救急

「J-town2010」では火事が起こっても対処しやすい。住宅は平屋一戸建てであるため類焼しにくく、火事が発生しても老人や子供などの弱者が脱出しやすく、消火は容易である。住宅以外の公共建築なども最大二階建ての低層建築であり、同様である。
「J-town2010」には公的な消防組織は無く、消防や救急はコミュニティの自警団が主となり、それでも対処できない場合は広域連携消防に委託する。「J-town2010」は自営世帯を主としているため、ベッドタウンや高齢者都市のように火事地震などの非常時に活躍する人材が少ないという事態は発生しない。

「家屋火災」(出典:wikipedia)


「関東大震災で炎上中の警視庁の庁舎」(出典:wikipedia)

肝心な警察消防が被災し機能が麻痺するような事態は過去のものだが、大都市では地震に伴う消防や救急は道路交通が麻痺するので実質的に機能しない。



●● 道路交通事故、飲酒運転

半径 800m の「J-town2010」市街地内は極めて安全な空間である。最高速度が 6Km/h に制限されているので交通事故はほとんど発生しない。さらに、ゴルフカートのような人感センサーやレーダーにより自動停止する機能を組み込んだ専用車両やユニバーサルクレードルを導入すれば、交通事故は基本的に皆無となる。市街地内での飲酒者は、自分では運転できない幼児や高齢者などと同様なので、ユニバーサルクレードルの自動運転で目的地まで移動することができる。
幼児や高齢者など、見守りを要する人が市街地外に歩行移動した際には、市街地境界に設置された ID センサーが稼働して発報する。認知症やハンディキャップ者であっても「J-town2010」内を自由に動き回ることができるので、その人たちの QOL は大幅に向上する。
自転車は歩行者にとっては危険なので、市街地の外側に設置されたサイクリング専用道路を走り、市街地内では速度が 6Km に抑制される。
さらに広範囲の交通、すなわち複数の「J-town2010」を結ぶ都市間交通は基本的に道路であり、鉄路などは不要である。道路は高速走行が求められるため、自動車相互間の事故に関しては衝突防止装置を付けるなどの安全策を講じる程度であり、「J-town2010」の交通安全理念を広域で実装する具体案は無い。

「歩道に乗り上げる交通事故」(出典:wikipedia)



X 列車、飛行機事故、海難事故
「J-town2010」内には列車や飛行機は存在しない。複数の「J-town2010」を結ぶ交通手段としての列車、飛行機、船舶の事故には「J-town2010」は全く無関係で、効果がない。

●●● 水難事故、遭難

「J-town2010」の危険区域には、市街地境界と同様に ID センサーを設置し発報することにより、幼児や高齢者などの水難事故や遭難を防止することができる。

● 放送、通信事故

「J-town2010」の「クローズドコミュニティメディア」を統括する IT システムは自律型であり、住民全ての個人情報とコンテンツを暗号化して保全し外部からのサイバー攻撃にも対処するので、放送通信事故のリスクは小さい。

● 爆発、毒物拡散、製品欠陥事故

「J-town2010」内には爆発、毒物拡散の原因となるガス施設や工場が無いので安全である。製品欠陥事故は「J-town2010」であるかどうかに関わらず対処不可能である。

 

B 都市問題

●●● 土地・住居・産業問題 (高コスト、ベッドタウン化、無産業都市化、 スプロール、中心市街地崩壊、大都市一局集中化、地域活性化、集落崩壊(限界集落、耕作放棄地) 、スラム、バンダリズム、ホームレス不法占拠、不法滞在、国際間経済格差(南北問題))


現代社会の諸問題の多くは都市計画と地域計画すなわち土地利用の問題に起因する。都市内あるいは都市部と農村部の土地利用の不備に起因する問題がほとんどである。土地や住宅のコスト、工場など産業施設の立地コスト、その他の施設のコスト、これらは全て、「J-town2010」が示す効率的普遍的な土地利用がなされないために生じている。
具体的に、土地と住宅のコストが深刻な日本国内で考察してみたい。大都市居住と、限界集落居住と、「J-town2010」居住とを比較してみよう。
大都市で 30 坪の集合住宅の賃料を 20 万円/月と仮定しよう。その内訳は土地代 10 万円、建物代 7 万円とする。高額の固定資産税や管理費や駐車場が3万円程度とする。
地方の限界集落で集落崩壊と耕作放棄が起こっているような地域では、戸建て住宅の土地代はゼロに等しいが、木造住宅の建築コストを賃料で回収すれば 30 坪で 5 万円/月程度の賃料となる。管理費や駐車場代は不要だが、そもそも生活が不便なので借り手はいない。
「J-town2010」は「新田開発」と同様の理念であり、住居と食料生産施設とコミュニティをセットで開発する。国内のどの場所でも立地可能で、土地コストも建物コストも最低限である。
グローバル製品の「「J-town2010」型サステイナブルハウス」30 坪と 240 坪の水耕栽培用の土地と水耕栽培施設を合わせて 4 万円程度の賃料となるが、これには一家 5 人が生きていくための水道高熱費、食糧費、通信料合わせて 5 万円以上の価値が含まれている。水耕栽培施設で主食用の炭水化物と野菜を栽培し、敷地内で動物たんぱく用のニワトリや淡水魚などを飼うことも可能だ。さらに「J-town2010」は職住一体型の自律コミュニティなので自動車や鉄道に頼る通勤通学は不要だ。大都市や限界集落の生活と、どちらがより人間的に生きられるかは明白だ。
このように、未来の新田「J-town2010」を開発することにより、既存の都市問題と決別することが可能となるのである。すなわち、高コストの住居問題、ベッドタウン、無産業都市、 スプロール(無秩序な都市拡大)、中心市街地崩壊、大都市一局集中、地域活性化、集落崩壊(限界集落、耕作放棄地) 、スラム、バンダリズム(公共施設などの破壊行為)、ホームレス不法占拠、不法滞在、国際間経済格差(南北問題))は J-town2010 によりほぼ解消する。

「渋谷駅のラッシュ」(出展:wikipedia)


●●● 都市インフラ更新コスト、運営コスト問題

都市の道路、河川(堤防や調整池)や橋、上下水道、ガス、電気設備を維持更新するコストのうち、土木コストは莫大である。運営には専門家が携わり、「J-town2010」のような自主運営は不可能である。
「J-town2010」はインフラコストが最低限となるような立地が選定されるので道路や河川のコストは最小となる。また上下水道やガス電気のインフラは不要だ。
「J-town2010」では公共建築物のコストも最小である。行政サービスのほとんどは IT 化されタウンセンターで行われるので、役場などは不要である。教育関連施設は木造平屋または2階建てで建築コストは低く、多目的に高効率で利用されるため維持コストも低い。

●●● 景観問題

「J-town2010」は田園型低層で自然に調和した田園型景観であり、大都市あるいは産業都市に関連する景観問題はほとんど発生しない。

●●● 医療格差、救急医療の不備、医療事故、医療費医療保険の無駄、予防医療の欠如、介護費介護保険の無駄、社会的入院の無駄、社会福祉養護費の無駄

「J-town2010」にはプライマリケアと在宅医療を支援するクリニックがあり、後方支援を担う高度医療機関と連携して医療サービスを行う。
住民は医療情報を安全なコミュニティ統合ITシステムである「クローズドコミュニティメディア」に預け、このシステムを活用してコミュニティ内の医師、看護師、介護関係者等を統合した専門家チームが予防と在宅を基本として医療介護連携のサービスを包括的に行う。
救急医療が必要な場合、自衛消防団が救急搬送を行うが、それでも対処できない場合には広域救急システムに委託し、地域外の一次救急病院に搬送する。従って、医療格差や救急医療の不備、医療事故はある程度解消するが、完全になくなるわけではない。そもそも完全無欠な医療は存在しないし、大都市では救急の濫用と受け入れ不能問題が深刻である。

「東京都台東区浅草 三社祭にて 老老介護の実態」(筆者撮影)


●●● 人口問題、産業・就業問題、教育、文化、宗教、心、コミュニティ問題

●●● 少子高齢化、産業崩壊、就職難、コミュニティ崩壊、失業保険の無駄、生活保護の無駄、ニート、ホームレス、不就学、公教育・私教育・社会教育の無駄、道徳教育の欠如、無宗教カルト宗教問題、頭脳流出、労働生産性の低さ、学歴社会、待機児童問題、鍵っ子、家庭崩壊、家出、失踪、差別、人権問題(人種、ジェンダー、学歴、身体的社会的弱者、いじめ、自殺、虐待)孤独、無縁社会、独居老人、結婚難

職・住・教育・余暇など、住民の日々の営みとコミュニティとは一体であるべきである。ベッドタウンに住む通勤通学者はコミュニティへの帰属意識が希薄だ。主婦や高齢者など、コミュニティと密接なライフスタイルの人々はそうでもないが、通勤通学者は所属する企業や教育機関に関心が向かい、競争社会に翻弄され、住まいのあるコミュニティへの愛着が希薄となり、個人の価値観に不整合が生じることもある。コミュニティが職住同一の住民によって構成されていれば、家族全員の関心がコミュニティに集中し、競争ではなく共助の理念のもと、自ずからコミュニティの自律が図られる。
「J-town2010」は自助共助の社会であり、コミュニティと家族と個人は理念を共有しているので、産業を協業し、教育を共同で行い、税の使途を自ら決定し、公的サービスを共同で実行して公務員を必要としないので、これらの諸問題はほとんど解決する。
「J-town2010」は人類社会の新しいパラダイムであるが、「昨日までの世界」の知恵と利点を活かすシステムでもある。
少子高齢化は重大問題のように認識されているが、少子高齢社会は 22 世紀までに全世界のコミュニティが到達すべき「安定的で幸せな社会」であり、日本が最も進んでいるとも言える。22世紀初頭には地球人口が 100 億人と予想されているが、100 億人に到達した後は人口が減少する。人口減少後の安定社会への道の先頭を歩む日本はその模範である。日本では既に人口が減少ており、22 世紀には 4,000 万人を切るであろう。それは江戸末期の人口をやや上回る水準だが、当時との決定的な違いは「J-town2010」でサステイナブルな社会が実現されていることである。すなわち、食料生産は安定し、食料自給率は 100%を超え、余剰農産物の加工品は輸出されているであろう。知財を重視した産業を発展させることにより大きな付加価値が享受されているであろう。
「J-town2010」の安定したコミュニティでは、コミュニティの理念と利益は住民全員で共有されており、コミュニティと産業と教育と各種公共サービスが一体となっている。家族関係では、多世代が近居しており個人単位でもコミュニティとの関係が濃いので、コミュニティの崩壊はありえない。
従って、現代の社会問題である、失業保険の無駄、生活保護の無駄、ニート、ホームレス、不就学、公教育・私教育・社会教育の無駄、道徳教育の欠如、無宗教カルト宗教問題、頭脳流出、知的生産性の低さ、学歴社会、待機児童問題、鍵っ子、家庭崩壊、家出、失踪、差別、人権問題(人種、ジェンダー、学歴、身体的社会的弱者、いじめ、自殺、虐待)孤独、無縁社会、独居老人、結婚難などの問題も解消する。
地球規模で「J-town2010」が普及すれば、日本を模範にそれぞれのコミュニティが少子高齢化の安定した幸せなコミュニティを実現することができる。すなわち、「J-town2010」のミッションは地球規模で少子高齢化の安定した幸せなコミュニティの実現を加速推進することであるとも言える。


「ケニヤの子供」(出典:UNICEF)


●●● 税金の無駄、公務員人件費の無駄、警察消防の無駄、軍備の無駄

「J-town2010」の理念が共有され、少子高齢化の安定した幸せな社会が実現される過程で、公共サービスのあるべき姿も、「J-town2010」の集合体となる地方自治体、国、多国間のレベルで共有されていくだろう。そうなれば、国家の力が比較的に弱まり、基礎自治体の力と国連などの多国間連合体の力が強まり、国家と政治家と公務員が強大な権力を行使している現在の社会システムと公共政策の問題、例えば、税金の無駄、公務員人件費の無駄、警察消防の無駄、軍備の無駄なども解消していくと予想される。

自衛隊善通寺駐屯地」(筆者撮影)


●●● ファイナンス問題、資産運用問題、公的年金の無駄

産業の章で述べた通り、「J-town2010」では、「コミュニティベースR&D」により住民とコミュニティフィナンスとが一体となる。
このようなシステムは、かつての農村の結(ゆい)や講で実現されていた。コミュニティの共助よりも資本家の最大利益を優先する欧米的価値観のもと、資本主義経済下でのグローバルな金融システムが席巻した現在だが、本来コミュニティに密着した金融は、収益最優先ではなくコミュニティの利益を守るという社会的な目的が重視される。
コミュニティベースのファイナンスの新しい動きはバングラデシュやアフリカなどの BOP 国(Bottom of Pyramid:最貧国)で起こりつつあり、「J-town2010」ではこの問題の解決は可能である。

 

参考資料

『昨日までの世界』 ジャレド・ダイアモンド 日経新聞出版 2013
『2100 年の科学ライフ』 ミチオ・カク NHK 出版 2012
『土の文明史』 デイビッド・モントゴメリー 築地書店 2010