Monthly Web Magazine June 2019
89歳になる母のかね子さんは、大のカステラ好きで、私が子供の頃からカステラ系のおやつが家にあるのが普通だった。
切り分けて食べるカステラより個別包装してある文明堂のカステラ巻きが特にお気に入りだ。
文明堂のカステラ巻きはカステラをカステラで巻いたものだが、元祖カステラ巻きの伝播を調べると興味深い。
家の向かいにあるお寺の住職からおすそ分けで「かずまき」を頂いた。
奥様が大分県保戸島出身で、あんこを薄いカステラ生地で巻いたものだ。
昔、保戸島の漁師が対馬沖までカジキ漁に出かけた際、対馬から持ち帰って定着した郷土菓子だという。
先月対馬を訪れた際、ありました! 名物「かすまき」。語源はあんこのカステラ巻だ。
保戸島のよりもずんぐり太く、甘めのあんこがたっぷりと巻いてある。
参勤交代から帰った藩主をねぎらうための献上菓子だったらしい。当時、対馬は朝鮮貿易で繁栄し裕福だったようだ。
カステラ巻ならばやはり長崎が元祖なのだろう。出島から入ってきた「かすていら」は島原半島へ伝わりこちらにも同様の「かすまき」が存在する。
以前、小城の羊羹の話で、長崎街道シュガーロードの話をした。出島に入った砂糖は、長崎から佐賀、小倉、最終的に江戸へ運ばれて行く。
まさに「かすまき」は当時の最高に贅沢な菓子だったに違いない。
貴重な砂糖を惜しみなく使ったあんこを南蛮渡来の甘いカステラで巻いた夢のような食べ物だ。
「かすまき」は島原地方から発祥し、佐賀、熊本の一部そして壱岐、対馬にも伝わる。島原の乱の後、入植者が対馬に伝えたという説もある。
おそらく萩、津和野の「源氏巻」もかすまき系なのではないだろうか。
カステラ大好き母に「かすまき」を恵方巻きのように持ってガブリと食べさせてあげたいが、誤嚥が心配で今は刻み食。残念ながらどら焼きも今川焼きも区別がつかないだろう。
今月のニャンコ
世界遺産崎津のシンクロネコ
三歩進んで上見て振り返る。ふたり一緒だ。
猫がのんびり暮らしている地域は人も優しいのだろう。心地良い海風が教会に吹く。
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