Monthly Web Magazine Oct. 2022
■ シコブチさん 大野木康夫
滋賀県湖西地方の安曇川水系流域には「シコブチ」神社が点在しています。
この地域の山林は、古来から建築用材の供給地である杣山となっており、伐り出した材木を安曇川水系の河川を使って筏流しで運搬していました。
シコブチさんは、筏流しの安全を守る神様として、流域一帯で信仰された神様です。
「シコブチ」神社は、材木運搬の基地となる支流との合流点に多く鎮座しています。
筏流しは戦後すぐに途絶えましたが、現在でも「シコブチ」神社は15社現存しており、その中で主要な7社を「七シコブチ」と総称しているようなので、その7社を巡りました。
思子渕大明神(葛川坂下)
安曇川上流の大津市葛川坂下町に鎮座しています。
元はもう少し上流の、芦火谷川と百井川が合流して安曇川になるところの近くにあったものを、集落の中央の大岩の上に移転したようです。
他のパンフレット等を見ると、左が思子渕神社、真ん中が愛宕神社、右が山の神(大山咋神?)ということでしたが、現地では左が愛宕神社、真ん中が思子渕神社となっていました。
坂下の集落
安曇川の流れ
思子渕大明神
思古淵明神(葛川坊村)
比良山から流れ落ちる明王谷川と安曇川の合流点(大津市葛川坊村町)に鎮座しています。
明王谷川の右岸に葛川息障明王院が建立された関係で、明王院の鎮守社である地主神社の境内社となっています。
境内社は本殿の左後ろに3社並んでおり、右から思古淵明神、山神社(大山咋神?)、大行事社(大年神)だそうです。
坊村の集落
安曇川の流れ
明王谷川
地主神社
葛川息障明王院
思古淵明神
志古淵神社(久多)
安曇川支流の大川と大谷川が合流し、久多川となるところ(京都市左京区久多中の町)に鎮座しています。
本殿は思子淵神を祀り、境内社は若宮社に応神天皇を、山神社に大山祇神を祀っています。
本殿は三間社流造で、七シコブチ中、最大の本殿です。
久多の集落
久多川と大川
志古淵神社
思子淵神社(朽木小川)
安曇川支流針畑川に染ケ谷の流れが合流するところ(高島市朽木小川)に鎮座しています。
かつては筏の中継地だったそうです。
覆屋の中にはともに重文指定の本殿、蔵王権現社、熊野社があります。
針畑川の流域には山の神の祠が点在していますが、山神社ではなく蔵王権現や熊野権現を合祀した理由はわかりませんでした。
小川の集落
針畑川の流れ
思子淵神社
針畑川と久多川の合流点
志子渕神社(葛川梅ノ木)
針畑川が安曇川と合流するところ(大津市葛川梅ノ木町)に鎮座しています。
梅ノ木は筏流しを生業とする者が多く住んでいたそうです。
覆屋の中に3社が並んでおり、志子渕神の他、水速女命神(みずはやのめのみことのかみ)、大山祇神を祀っています。
梅ノ木の集落
安曇川の流れ
志子渕神社
志子淵神社(朽木岩瀬)
安曇川中流の岩瀬の集落(高島市朽木岩瀬)に鎮座しています。
元はもう少し北側(今は水田になっている)にあったようですが、寛文2(1662)年の大洪水で現在の場所に移ったそうです。
この辺りまで来ると、安曇川も川幅が広くなり、流れも緩やかになりますが、筏流しにとって重要な施設等があったのかもしれません。
境内社は2社ありますが、調べても「岩神社」としかなく、祭神は不明です。
岩瀬の集落
安曇川の流れ
志子淵神社
思子淵神社(中野)
安曇川の中流から下流になる中野の集落(高島市安曇川町中野)に鎮座しています。
筏流しで最下流の難所の瀬が近くにあるので祀られたようです。
建武元(1334)創祀と比較的新しく、思子淵神と共に彦火火出見尊(山幸彦)を祀っています。
中野の集落
安曇川の流れ
思子淵神社
現在に至るまでの河川改修等の影響により、安曇川の流れは往時よりも穏やかになっていますが、シコブチさんが祀られた当時は、水量も多く、急な流れであったと思いますので、このような信仰が発生したのだと思います。
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