JAPAN GEOGRAPHIC

Monthly Web Magazine  May.2024


■■■■■ Topics by Reporters

■ 東北のシダレ桜(一本桜除く) ベスト3   瀧山幸伸

桜と紅葉は日本文化の重要な要素で、ユネスコ世界文化遺産に登録されるにふさわしいとの思いで春秋は特に忙しく全国各地を巡って調査を行っている。

桜の中でもシダレ桜は実に優美で、一本桜では滝桜をはじめ各地に名木があるが、複数のシダレ桜が見事に調和共演している姿はさらにすばらしい。

ソメイヨシノはそれなりに色白で美しいのだが、交配種であるため全国ほぼ一斉に咲き一斉に散るのは桜の全国行脚には困りものだ。シダレ桜には複数の品種があり、咲く時期に幅があり、色も多様で、特に紅色が濃いものに人気がある。

自分が全国の三大シダレ桜(群)を挙げるとすると、秋田の角館岩手の米内浄水場福島の旧日中線だ。ただし、全国レベルだと異論を持つ方がいないとも限らないので、地域を東北に限れば異論はほぼ無いと思う。

最近では各地でソメイヨシノに代えてシダレ桜の植樹が拡がっている。ソメイヨシノに代わりシダレ桜が道路や河川に沿って植えられたら世界に類を見ない日本の桜風景ができあがるだろう。

     


■お祭りへの女性参加について  大野木康夫

私の住んでいる地区の秋季大祭には神輿の巡幸が行われます。
近年、担ぎ手が慢性的に不足していますが、女性の参加は行われておりません。
ただ、触れ太鼓や神輿の先導など、神輿に触れない範囲で参加されている女性もおられる状況です。


近年、祭の担い手の減少に伴い、長らく女人禁制であった祇園祭の山鉾の囃子方への女性参加が事前許可制で認められたり、愛知県稲沢市の国府宮のはだか祭に女性が参加したりと、祭への女性参加が徐々に拡大方向にあると感じています。
いままで取材したお祭りについて、状況を見ていきたいと思いました。

だんじり

5月4日、神戸市東灘区の本山だんじりパレードを取材しました。
だんじりは神様に奉納するもので、神様が移られている神輿とはちがうと理解しています。
神戸のだんじりはゆっくりした囃子で巡行し、屋根の上に複数が乗って踊ります。
一部のだんじりには女性が乗っていますが、宮入の段階では乗らなかったりします。
ちなみに、ごく一部の地区では女性のみで巡行されるだんじりも存在し、宮入もしているようです。


男性のみの巡行



女性が周囲ではやしたり、曳き綱を引いたりする



女性がだんじりに乗る(宮入では乗らない場合が多い)



他の地域のだんじり

建水分神社(大阪府千早赤阪村)

女性は周囲ではやしたり曳き綱を引くだけです。



貴布禰神社(兵庫県尼崎市)

囃子は女児も参加できますが、山合わせは中学生以上なので男性のみです。



岸和田のだんじり

高校生までの女性は曳き綱を引くことができますが、小さい子どもを除いてだんじりには乗れないようです。



山車

祇園祭山鉾巡行

基本的に男性のみで行われ、囃子方が足りない場合は事前許可制で女性が加わることが認められていますがごく少数と聞いています。



亀崎潮干祭(愛知県半田市)

愛知県の山車祭は女性が囃子方や曳き方に加わることが多いのですが、この祭りは男性のみで行われています。ただし、町引きの際にはだしの上に女の子の稚児さんが乗っています。

 

尾張津島秋祭り

囃子方として女性が山車に乗っています。



桑名石取祭

女性も太鼓、鉦をたたいています。



太鼓台

百舌鳥八幡宮月見祭(堺市北区)

子ども太鼓台には女性が加わりますが、大人の太鼓台は太鼓をたたく子供も含めて男性のみで運行されます。

 

播州の屋台

男性のみで巡行されます。

灘のけんか祭(姫路市)



飾磨祭(姫路市)



北条節句祭(加西市)





取材した2件とも男性のみで運行されています。

ホーランエンヤ(松江市)



津島天王祭(愛知県)



神輿については、関東では女性が担ぎ手として活躍されていることが多いですが、関西ではまだまだ少ない状況だと思います。
かなり古いお祭りである葵祭や春日若宮おん祭には女性が主な役どころで参加しており、いつから男性のみが担うようになったのか、その理由(役割分担なのか、偏見なのか)も含めてあまりわかりません、

 

 


 ■山陰本線の車窓風景、鳥取から竹野  野崎順次


さわやかな5月に似合う題材ではないが、日本海のリアス式海岸に沿って走る普通電車の車窓風景は味わい深い。2024年2月23日天皇誕生日、天候は曇り時々雨、うってつけの山陰一人旅となった。鳥取発08:11の普通電車に乗る。香住に行きたいのだが、これは浜坂止まりである。まだ日本海までは遠い。岩見駅の近くで、磐座のような巨岩を見たが、グーグルマップで再確認できなかった。
        

日本海が見えた。東浜駅である。漁師町の街並みがちらりと見えるし、絶壁海岸遊歩道らしきものが地図にあるので、是非再訪したい。

  

居組(いぐみ)、 諸寄(もろよせ)と不思議な名前の駅が続き、共にシンプルかつストイックな打ち放しコンクリートの無人駅舎である。

       

浜坂で次の普通列車まで1時間半ほど待ち合わせである。浜坂先人記念館「以命亭」を訪ねた。10:31発の普通列車に乗る。

  

餘部の鉄橋が突然現れた。以前にここで降りて下から見上げたことがある。あの列車転落事故(1986年12月28日)の前である。NHK人間模様ドラマ「夢千代日記」のトップシーンは普通列車の車内で、ここを通過して浜坂に向かう。原爆症の芸者役の吉永小百合がとてもきれいだった。樹木希林や秋吉久美子の演技もよかった。

    

鎧駅を通過した。ここらも途中下車してうろついてみたい。

   

香住駅でカニ目当ての多くの観光客を見た。カニは食べたいが、一人で予約なしで楽しめる店はなさそうだ。結局、本来の目的の応挙寺と香住海岸を訪れた。
  

香住発15:33 特急はまかぜカニカニ号に乗車した。竹野駅の手前までが日本海の見納めである。
       


■ 蟇股あちこち 49  中山辰夫

日光市には、二荒山神社、東照宮、輪王寺のいわゆる山内二社一寺に大成された伝統的建造物の数々があって現在に受け継がれています。
それらの建造物は、ことさら説明が不要なほどに知られています。
輪王寺の「大猷院霊廟」から始めます。
東照宮の建造技術をそのまま生かし、規模は東照宮より小さいですが、細部の技法に力を尽くし、金彩丹碧は周囲の自然美とも調和し荘厳な佇まいです。
常行堂・法華堂・仁王門・御水堂・二天門・鼓楼と鐘楼・夜叉門を並べます。彫刻の塊です。写せたたものを並べました。

 


■福岡城址のボタンシャクヤク園    田中康平


桜の季節も終わり久しぶりに牡丹でもと見たくなった。福岡市周辺で牡丹の名所というとまずあがるのが福岡城址(舞鶴公園)にあるボタンシャクヤク園のようだ、それではと行こうとしたが連休の人出で福岡城/大濠公園の駐車場が朝から満杯であきらめ、やっと5月6日になって天気も良くない予想だったせいか駐車場にも空きが出て出かけてみた。 ボタンシャクヤク園はもとは秀吉の軍師であった黒田官兵衛(如水)隠居地の御鷹(高)屋敷跡 とある。福岡城が築城を始めたのが1601年、官兵衛が京で没したのが1604年、福岡城が最終的に完工したのが1607年、この間官兵衛は福岡と江戸の間を頻繁に行き来していたと伝えられるのでこの地にのんびりと過ごした日々は数えるほどしかなかったのではないかと思われる。場所は官兵衛の希望通りの高台で石段を登って到達する。
上がると屋敷跡の遺物はなにもない。牡丹シャクヤクが一面に展示場のように植えられていて庭という感じでもない。官兵衛と牡丹シャクヤクは何の関係もないようだ。
牡丹とシャクヤクはどう違うのだろう、立てばシャクヤク、というからにはシャクヤクのほうが背が高いのだろうくらいに思っていたが、来てみるとシャクヤクも背が低い、花は見た目ほぼ同じだ。今の時期花は殆どシャクヤクでただただ眺めるだけだ。中では肥後シャクヤクというのが他と少し違って目を引いた。18世紀に熊本で武家の手で栽培が始まったもののようで、肥後六花の最初のものらしい。ここらに来ると城とシャクヤクが何かしら関係しているような気もしてくる。
花にまつわる文化的歴史というのも興味深いものがあるようだ、少し気にして調べてみるのもいいかもしれない、そんなことを思っている。

添付写真は順に、1.現地の説明版、2.登り口の階段、3.牡丹シャクヤクの花の状況、4-7.シャクヤクの花、8.肥後シャクヤク
        


■春の山本亭   川村由幸


GWのさなか、5/2に柴又の山本亭にでかけてきました。前回は3月でしたから冬の終わり、今回は春の山本亭です。
帝釈天とその参道はGWで人で一杯でした。外国からの観光客は浅草に行くのか、ここではあまり見かけません。
   

例によって帝釈天の裏口を右に曲がって山本亭に向かいます。
3月に初めて訪問してから2ヶ月しか経っておらず、大きな変化は見られません。
それでも随分と緑が濃くなっているように感じます。
   

小さいながらも日本庭園らしい落ち着いた雰囲気の庭です。縁側に腰かけてじっくりと庭を鑑賞したいところですが少ないとは言え、GWで3月の時とは大違いで撮影ポイントには次々に見学者がきますから、なかなかに独り占めは難しい状況でした。
   

亭内はやはり春、花を見ることができます。ツツジは終わっていていましたが、小さな池の睡蓮が可憐に咲いていました。
庭をゆっくり眺めるには、平日に訪問すべきです。次回は必ずそうしようと思います。
次は夏に訪ねるつもりでいます。今年もきっと長い夏なのでしょうから、いっとき美しい庭を渡る風に吹かれるのを今から楽しみにしています。




■「心意気] 柚原君子

かすかに痛い、やっぱり痛い、水がしみる、痛む側を舌で閉じて口をゆすぐ。それでもどうかすると冷たい水がキュン!と沁みて飛び上がる。そのうちに何もしなくともズキズキと痛みだして虫歯のあり場所がわかる。
虫歯は自然には治らないと理解しながらも、鎮痛剤を飲んでみる。痛い方では噛めないので、反対側に負荷がかかりすぎて、そちら側のかぶせ物が取れる。右も左も使えず、お手上げの状態になって、やっと観念して治療に行く決心をする。
決心した日から偏頭痛、胃痛、心身不安定、肩こり、緊張感に見舞われる。
ヤットコサットコ歯医者さんに到着する。痛かったら右手を上げてくださいね、と言われて、キーンと削られる音が脳天に響いて恐ろしくなる。今に神経に触る痛さが来るぞ、来るぞとの怯えで、胸の前に組んだ手に力が入り、わきの下や背中に冷汗をかき、肩はもう明らかにいかり肩である。
「一番初めの痛っ!っていうのが怖いから歯医者さんに行きたくないのにねぇ。削る虫歯の周囲に初めから麻酔を打ってくれちゃったらいいのに」
「私なんか全身麻酔でもいいと思っているくらいよ」
歯の治療が苦手である人たちの会話である。

虫歯は口の中に残っていた食べかすが歯垢の中にいる細菌によって酸化させられ、それが歯の表面のエナメル質に付着することでまず始まる。放置するとエナメル質の内側の象牙質を徐々に溶かしながらさらに中へ中へと侵入していく。象牙質の内側は歯の髄で、この中に神経がある。放置した虫歯が激しく痛むのはこの神経に障るようになるからである。
         ★
歯医者さんに行くと保険診療か自費診療かを問われる。各々の料金の目安を知人の歯医者さんに聞いてみたが、保険診療というのはなかなか点数がややこしい。
保険診療で使える素材はもちろん決まっていて、しかも前歯のみとか神経がある歯には使えるけれども死んでしまった歯には使えないとかで、点数のみならず、さらにややこしい分類になっている。歯を削る処置でも保険点数的には150点からあり、神経がまだある歯を削る場合の800点くらいまでとの間で幅広い。
ちなみに型取りが60点、噛合わせの為の型取りが10点少し。かぶせ物が500点、セメントで装着すると22点かかり、それらを管理する費用が150点……ああ、歯痛でなくともこめかみがずきずきとしてくる。
例えば、『たった一回の通院で治療が完了する』を条件として概算すると、神経のある歯を削って型を取って、かみ合わせの型も取って、かぶせ物をつくってセメントで装着して、その様子を管理観察する。その一連の保険点数を足していくと国保3割負担で治療費のみでほぼ5000円となる。それにかぶせ物の材料費がプラスされる。治療が一回で終わるわけなどないから、一週間に一度ずつ4ヶ月ほどかけて通い、時には麻酔を使い、噛みあわせを吟味して、外してはがして、かぶせて削って、本当に保険診療内であっても歯の修理には時間とお金がかかる。虫歯は金食い虫である。

恋をし始めた人はどんどんきれいになっていくのでよくわかる。
まず恋わずらいをして食物が喉を通らなくなる。胃は小さくなり、ウエストは細くなり、9号や7号の洋服が着られるようになる。デザイン、色合い共に一番たくさんの種類があるサイズで、しかも傾向は若向きでピシッと決められる。恋やつれはどこか憂いを含んでいるから目の瞳孔も開き加減で、漫画の主人公のように黒目の中に星が二つくらいある様に見える人もいる。
恋しい人にいつ遭遇しても万全の体制でいたいから、髪型にも気を配る。3ヶ月に一回だった美容院通いも毎月になり、襟足なんかいつもきれいである。
「恋をしたから、歯を変えた」とR子が言った。矯正をしたの、と聞いたら、そんなんじゃない、って笑う。
恋をしている最中の諸条件を当てはめた上にも、確かに最近とても笑顔がきれいに見えてきたR子である。その口元に、みんなの視線が集まった。もっと大きな口をあけてごらん!一人の友だちが言った。

R子は現在、すごく好きになってしまった人がいるそうである。自分にも夫がいて、あちらにも奥さんがいる。「でも関係ないの。別に体の関係があるわけでなし、誰にも迷惑かけていない。ただ好きなだけなのよ。その人の傍らにいるだけで楽しい。むしろあちらに奥さんがいて私に夫がいるだけ、きちんとした枠を出ない分をわきまえている。そうして、堰を切るばかりにあふれそうになっている想いを自分で抱え込んで、どうしてこんなに好きになっちゃたんだろうって思っている自分がいとおしいんだなぁ、これがまた」。
微熱に浮かされたR子は訳のわからないことを言って、少し口をあけて笑った。そのすきに、どの歯をどう変えたのか、とみんなが覗き込む。
「歯をどうしたのか早く言いなさいよ」
待てない友だちが言った。
R子が恋した男性が、ふとした会話の弾みにこう言ったらしい。
「銀歯を入れている人とは、どうしてもキスをする気にはなれないんだよね。キスの味が金属ぽい気がしてね」。
恋の力はホトホト恐ろしい。R子は虫歯の治療で銀歯を外したついでに、ほかの銀歯も全て保険診療外の被せ物にした。陶材焼き付けで10年は色落ちしない乳白色のきれいなメタルボンドというものに替えた。一本10万円。上下6本でしめて60万円也。

「60万円の恋か……。で、キスは無事に?」
キスをしたかどうかの白状はせずにR子はただ笑っていたが、口の奥の奥まで白い歯が並んでいて本当にきれいで、そして「恋している」、とあっけらかんと言ってのけた40代の彼女がとても幸せそうに見えた。
ある日突然やってくる恋にはモラルなど通用しない場合が多い。キスをしたかどうかよりも、心を許したことのほうがずっと罪深い場合もあるように思うからである。ただ、愛しい人に少しでも添いたいと思ったR子の60万円の心意気には脱帽である。
恋する年齢に該当する人々は、いっちょう気前良く恋をして、恋する年齢でない方も、お連れあいに二度惚れ無理やりでもいいからなさって(笑)、何らかの形で出費を重ねていただきたい。そして日本経済低迷脱出の風穴を開けていただきたい。

 

酒井英樹




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