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Monthly Web Magazine   Aug.2024


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■蟇股あちこち 52 中山辰夫

 

日光東照宮 その2 

陽明門正面(南門)~廻廊~背面(北面)です。陽明門は東照宮の象徴です。

今月は陽明門周辺です。ことさらコメントも必要ないと思われます。
陽明門は「日暮門」ともいわれます。東照宮の社殿彫刻は約5000体、陽明門には約508体が集中しています。
「見飽きることなく、日の暮れるのも忘れるほどの門」といわれ、多様な彫刻装飾が並んでいます。撮影した画像を並べました。


2段目の薬師堂などのある平地から、さらに石段を上り、陽明門に至ると三段目の平地に達します。
門をくぐると正面に唐門と御本社の荘厳なる佇まいが開けます。
この平面こそは東照宮の中核部分で、その神聖なる空間への入口として陽明門が存在します。

 


■陽明門 正面(南)・(背面)
      

蟇股も含めた彫刻を羅列します。あくまで一部分です。

陽明門南側(正面)より見て行きます
□鬼瓦 屋根は銅瓦葺、黒塗。鬼瓦は4方向に設置されています。奈良時代は蓮華文でしたが、8世紀以降は魔除けとして鬼瓦が増えてきました。 
   

□風鐸と勅額、鳳凰 勅額は後水尾天皇御宸筆、勅額の左右には霊獣としての麒麟、描かれている牡丹と鳳凰。
      

□龍 龍の頭部の彫刻が並びます。龍や息です。雲を起こし雨を呼ぶ神秘的な力をもつ霊獣とされています。
          

□鳳凰 上層の組物の間、頭貫の上にはいされています色鮮やかな鳳凰の彫刻 首に幾筋もの房状の飾毛が見られます。
一体一体が異なった姿に描かれています。鳳凰は桐との組み合わせが多いとされます。ここでは葉が5つに分かれています。

        

□目貫の龍 龍馬
      

□桟唐戸・火灯窓 鳳凰の丸
   
目貫の下方に雨戸付の桟唐戸があります。小さな菊水の彫刻がはめ込んであります。桟唐との右側には「昇り龍」左側には「降り龍」の羽目板があります。
火灯窓の中央に鳳凰の彫刻があらます。羽をひろげた鮮やかな物の様です。

□昇り龍・下り龍 松竹
   
桟唐戸の右・左に龍の彫刻が見えます。上方に頭のある昇り龍、下方に頭のある降り龍。 火灯窓の左右にある小柱を挟んで松と竹の彫刻が見えます。

□唐子あそび 上層部高欄のある縁が廻らされています。この勾欄に立体的な彫刻が施されています。
          

□唐獅子 上層を支える組物の拳鼻に唐獅子の上半身が取り付けてあります。唐獅子は中国では聖息の守護獣です。
西欧から中国にわたって日本に来ました。
    

聖賢・仙人 下層の組物の間、頭貫の上方に中国の聖賢や仙人の彫刻が配されています。
           

□唐獅子
    
下層の頭貫上、南北に渡された頭貫の先端に白く胡粉を塗った唐獅子の上半身像。様々な躍動する姿の唐獅子が見られます。側面にも唐獅子が見えます。

□脇の間 左右の間に随身が据えられています。
     
欄間には鶯や鶴などの瑞鳥が美しく表現されています。東側東面「錦鶏・牡丹・
    

脇の間の天井には絵が描かれています。東側脇の間は天女、西側脇の間には迦陵頻伽です。
  
天井を囲む組物の間は菊唐草の彫刻、その下には欄間彫刻があり、その下の胴羽目は牡丹唐草の透かし彫りです。

□通用路天井 彫刻
     

□昇り龍 降り龍 互いに背を向けるように取り付けてあります。江戸後期以降の修理の際からこの状態とか。
  

 

■東西廻廊
陽明門から左右に延びる廊下(単廊)で全長220mとされます。17世紀中頃までは北側にもあって本社を囲んでいたとされます。
現在の廻廊は、東南西の三方コの字型になっています。全面床張りで内側は柱を立てただけの吹き抜けで総朱塗りです。

   

廻廊は、陽明門を境にして、東に延び、曲「鐘」をりに北方の祓所に通ずる廻廊を東廻廊、と呼びます。
一方、陽明門より西に延び、曲をりに北方に通じる廻廊を西廻廊と呼びます。
東西廻廊の丸桁、蟇股、斗栱、長押、頭貫、台輪等の彩色文様は共に同形式技法を保ち、図案は比較的大胆な構図とされます。

南側の胴羽目には花鳥の彫刻が施されています。廊下内外の蟇股には花鳥や動物など302個の彫刻があるとされます。
東側、奥社参道入口にあるね「眠り猫」もその一つで左甚五郎の作と伝えられ、この彫刻の裏(廻廊の外側)にある雀の彫刻がともに最も有名です。

■西廻廊 国宝 建立:1636 折曲り延長三十六間、梁間一間、各一重、入母屋造、銅瓦葺
   

構成
       

袖塀欄間
    

蟇股
    

長押
    

胴羽目 (鶯・梅・牡丹)、(鶯・梅・竹・牡丹)、(孔雀・梅・唐松)、(梅)、などが彫刻されています
      

      
御供廊は、東回廊から石の間に通ずる20m程の廊下で、毎日神前に供える神饌をはこんだことからその名があります。
内外の彩色は廻廊と違って、特に大虹梁の金地に墨絵の波、飛虹梁の雲と鳳凰の彩画など、豪華絢爛を極めています。

 

東西廻廊 東廻廊 国宝 建立:1636 折曲り延長五十四間、梁間一間、御供所及び同廻廊含む潜門


   

構成
     

袖塀欄間
  

長押
   

蟇股
    

     

胴羽目
        


    

オランダより寄贈された
 

御供廊は、東回廊から石の間に通ずる20m程の廊下で、毎日神前に供える神饌をはこんだことからその名があります。
内外の彩色は廻廊と違って、特に大虹梁の金地に墨絵の波、飛虹梁の雲と鳳凰の彩画など、豪華絢爛を極めています。
      

東側廻廊は続きます。
       

東側、奥社参道入口にある「眠り猫」、左甚五郎の作と伝えられ有名です。
    

その裏(廻廊の外側)にある、「雀」の彫刻も有名です。
    
猫が寝ているので雀が安心して遊べることから、家康公の天下統一で平和が招来されたことを象徴しているといわれています。

天沼俊一氏著 「日本建築細部変遷小図鑑1944年刊行より抜粋 撮影:1931~1932

東照宮廻廊の蟇股は合計三百数十種る。其輪郭も割合によろしが、殊に脚内の彫刻は大したもので、各個何れも立派な美術品である。
此所に圖示したのは僅かに十七個に過ぎぬが、更に他日ある機会に尚ほ多くの例を掲げて、説明を試みる事を豫約しておく。
此等の蟇股の脚内彫刻の種類は一つ一つ異なってゐて、一つとして同じものはないが、分類してみると先ず先づ大體次の様になると思ふ。
先ず第一に(1)植物、(2)動物、(3)天然物に分けられる。此内植物は「草本」と「木本」とに、動物は「獣類」・「鳥類」・「爬虫類」・「魚類」とに分つことができる。
更に「獣類」のうちには「海馬」のごときものもあるし、「爬虫類」には「飛龍」・「霊龜」もあって、何れも桃山・江戸時代に賞用されたのであった。

「牡丹」・「菊」・「蓮」
   
何れも花が中心飾となり、前者は左右相称の唐草(便化した葉)を、次の二者は何れも左右上方に半開の花又は蕾を入れ、蓮は等しくはないが適宜に葉を以って空碧を充たしてゐる。何れも大崎八幡神社拝殿の夫れに於いてみたと同じ意匠のもの。
大崎八幡神社
写真

「瓜」・「茄子」・「十六ささげ、たんぽぽ」・「櫻」
    

「瓜」は他にも例があり、蟇股のみならず木鼻や扉の入子板の装飾にも入れられているから、非常に珍品という程でもないが、残りの四つはめったに類例はないようである。
「櫻」は浅草寺五重塔初重蟇股内十二支のうち、蛇とともにあるし、又京都妙心寺仏殿内脇壇の夫れにある位。「茄子」「十六ささげ、タンポポ」等のに至っては
これだけかも知れぬ。「栗」はありそうだが、今はっきり言ひかねる。


「飛龍」 
 
浪が添へてあるから、海中からか池中からか、龍が飛び出すところで、東照宮の建物では随所に用ひられてゐる。江戸時代初期の山門上層虹梁側面の装飾にこの「浪に飛龍」の繪が多く用ひられている。

次の二つは「海馬」
  
このうち一つの方は二疋の海馬が水中へ首を入れてゐるのは変ってゐる。

「浪に鯉」
 
曲らぬ首を無理に曲げてゐるのが気になる。

「梅に鶯」・「川蝉」・「松に萬年青」 
   
小鳥類で、これに添えてあるのが水に葦か何かであろう。其次が「松に萬年青に小鳥」だが、この小鳥は何か知らない。
何れも小規模の彫刻で、洵によくできている。萬年青を用ひだしたのは室町末位からと思われ、桃山・江戸時代には欄間・蟇股・木鼻などに用ひられてゐる。

「葡萄に栗鼠」・「牡丹に猫」
  

「葡萄に栗鼠」の「りす」は尾が沢山に分かれてゐるから普通種ではない。
葡萄又は葡萄にりすについては、これ迄随分あちこちにかいてきたから、ここでは省略しておくが、これもよくできてゐて非難する点はない。

「牡丹に猫」
 
「日光の眠り猫」といわれ、殆んど日光のあらゆる建築彫刻及び工芸品を代表せんとばかりに盛名を馳せてゐるが、既に第二三八一圖の解説にかいた様に、
かかる意匠は桃山時代からあり、(ことによったら室町末位からかも知れない)、さうしてこれに鳳蝶を添へたのが元和の建築なる和歌山県海草郡和歌浦町所在の東照宮社殿に用ひられてゐたのである。だから世間で騒ぐほどの珍品ではない。

■北面
陽明門背面(北門)側を見て行きます。正面側と同様に見えますが、相違点もあるようです。
   

□鬼瓦 屋根は銅瓦葺、黒塗。鬼瓦は4方向に設置されています。奈良時代は蓮華文でしたが、8世紀以降は魔除けとして鬼瓦が増えてきました。 
 

□唐破風 勅額と麒麟 後水尾天皇御宸筆の勅額 「東照大権現」は家康公の御神号 麒麟は陽明門の彫刻で最も高い位置を占めています。
   
体形は鹿に似て、頭部に一角、脚の蹄(ひづめ)は2つに割れ、襟足にカールした体毛、体に風車紋、顔は龍、2本の牙をもち、上唇に鼻孔があります。

□丸桁 牡丹と鳳凰が描かれています。
   

□組物 龍の彫刻 左右の突き出た尾垂木の先端に頭部の彫刻、2列に並ぶ、上段は龍で、下の段は息(いき又はそく)とされます。名前も招待も不明です。
    

□組物 鳳凰 上層の組物の間、頭上に鮮やかな鳳凰の彫刻 首に幾筋もの房状の飾毛、桐と組み合わされ一体一体が異なっています。
     

□頭貫 上層の頭貫に白色の胡粉で塗られた龍 陽明門の中央に位置することから「目貫きの龍」と呼ばれています。胡粉塗りは江戸時代後期からです。
       
龍の左右には龍馬の上半身像。龍馬は一般に駿馬の琴とされます。 龍馬の浮彫も見えます。 浮彫の周囲には波の地紋が彫られています

□桟唐戸・火灯窓 上層の中央、目貫の龍の後方に両開きの桟唐戸賀あり、小さな菊水の彫刻ははめ込んであります。
   

□昇り龍・降り龍
  
正面側にも見えます。 鳳凰の丸も同じです。

□高欄 唐子あそび 上層高欄の縁の唐子遊びの彫刻が四方に続きます。彫刻は立体的な透かし彫りです。 逆蓮柱も見えます
          
徳川家康公の働きで、子供たちが安心して遊べる社会が出現したことを意味しているとされます。
雪だるま・行でつくった犬・ミミズクと瑠璃鳥・灌仏会ごっこ

□組物挙鼻 唐獅子 ぼたん 「百獣の唐獅子とその左右に「百花の王」の牡丹が組合せであります
    

□組物間 聖賢・仙人 下層の組物の間、頭貫の上方に配されています。 背面の画題は全て仙人像です。
        

□頭貫 唐獅子
      

□魔除けの逆柱
  


□脇の間 天井絵は「迦陵頻伽」と天女です。狛犬が向き合っています。蓮をもつ迦陵頻伽、香炉をもつ天女
  
天井を囲む組物の間は菊唐草の彫刻。その下に欄間唐草があり、さらに下の胴羽目には牡丹唐草の透かし彫り。

 


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