グローバル新時代の都市開発 〜持続可能都市(サステイナブルシティ)に関する研究

瀧山幸伸

Ver. Feb.24 2012
初稿 Oct.30,2010

サステイナブルシティの産業・教育・コミュニティ



■■■ ライフスタイルと産業

■■ ライフスタイルと住まい方とコミュニティ 〜新しい文明へ

「サステイナブルシティ」は単なる現代文明の修正ではなく、狩猟、農耕、工業と進んできた現代文明の急激な破たんを回避する新しい文明である。サステイナブルシティの産業を考える前に、現代文明の主流である、グローバル化した大都市の「ライフスタイル」と「住まい方」と「コミュニティ」の成立発展過程について歴史をおさらいしておこう。


■■ 何に価値を求めるか 〜物質と精神の軸

ライフスタイルは一定の価値観のもとに発達するものであり、価値観の分析方法は多岐に及ぶ。価値観を単純化するため、横軸に物質に関する欲求の度合いを、縦軸に精神的な欲求の度合いを展開して、歴史的なコミュニティの成立と発展の過程をプロットしてみたい。
まず、次の図で議論する。横軸の「物質的な欲求の強さ」では、左に行くほど強く、最も極端な状態は「浪費」であり、右に向かうに従って、裕福、倹約、不足、という状態が想定される。
縦軸は、「精神的な満足度の強さ」で、上に行くほど強く、最も幸せな状態を「平安」と定義し、下に向かうに従って、幸せ、不幸せ、悲惨という状態が想定される。
以下の作業は社会心理学などの学術的な研究を目的とするものではないので、詳細な定義や概念の違いについては議論しない。

 

■■ 価値観から生まれるライフスタイル 〜モノからココロへ

この軸で区切ったそれぞれの価値観を象徴するライフスタイルを考えてみよう。

・Power(権力)
軸の左上に来るのは、物欲指向で幸せ感に満ちているライフスタイル、例えば庶民から遠い存在の王侯貴族、資本家、セレブリティなど、「勝ち組」あるいは "Rich and Famous" と呼ばれるライフスタイルであり、彼らの行動原理はPower(権力)である。現代風に言えば、カネなどの力で庶民とはかけ離れた贅沢な生活を謳歌するライフスタイルであるが、先進工業国のみならず、アラブなどの産油国、あるいは中国インドなどの新興国の人々もこのような古代ローマ帝国流のライフスタイルを目標としていることが地球規模でのサステイナビリティの危機をもたらしていると言える。

・Serenity(平穏)
軸の右上に来るのは、物質的な欲求よりも精神的な満足感を優先するライフスタイルであり、世俗を離れた宗教者や哲学者のライフスタイルであり、太ったブタの幸福感よりも痩せたソクラテスの幸福感を目指す。ただし、右上のライフスタイルも左上のライフスタイルも基本的には独善的、利己主義的、逃避的なライフスタイルであり、自分が社会の一員として、社会全体の幸福、いわゆる最大多数の最大幸福を願うライフスタイルではない。

・Sustainable/Peace(平安)
軸の中央上部に位置するのが、最大多数の最大幸福とその永続性(平和と平安)を願う、サステイナブルなライフスタイルである。

・Force(武力)
一方、軸の左下に位置するのは、武力を目指すライフスタイルで、豊かな物質生活を目指して戦争を仕掛ける、あるいは軍隊や暴力団に所属するライフスタイルである。古来より今日まで、武力は相手を不幸せにすることはもちろん、自分も所属するコミュニティも多くのリスクを負っており、ヒトラーのような武力パラノイア以外は全員が不幸せである。

・Desperate(絶望)
軸の右下に位置するライフスタイルは、本人の望む望まないに関係なく、物資が不足し、精神的にも悲惨なライフスタイルである。

低次元な欲求の「モノ」から高次元な欲求の「ココロ」へ価値観が変わらなければライフスタイルは変わらない。価値観が変わるきっかけは、人と人との心のつながりから生まれる幸福感であるが、往々にして工業文明は効率に最大の価値を置くため人間を疎外するものであり、人の心とは相入れない。自分がどの価値観とライフスタイルの伝道師であるか再認識してほしい。





 





■■ 自己決定権と幸福 〜資本主義の明暗

次に、軸の中心部に位置し最大多数を占める一般人のライフスタイルを見てみよう。

・Family business(自営者)
歴史的には、中心部のやや右上に位置する、家族単位の自営型ライフスタイルが基本であった。すなわち、先史時代においては家族を基本単位とした狩猟採集生活の小集落、農業社会になってからは自作農の小集落、近代においては家内工業や各種専門家も加わるライフスタイルである。

・Employee(被雇用者)
各種の理由により自営が不可能となった人々が自営型から脱落して行くライフスタイルが、中心部左下に位置する小作農や都市労働者などの従属的ライフスタイルである。奴隷は古来から存在したが、都市労働者は産業革命以降、左上の権力者に隷属し、軋轢に苦しみ続けてきた。物質的には比較的恵まれているのだが、自営のライフスタイルに比べ自己決定権が少ないため、自己実現を主張することも達成することも難しかった。精神的には自覚の有無に関わらず抑圧感に苛まれている。これが現代の大都市に巣食う病理の一つである。

出世、成り上がり、出家、小作、出稼ぎ、入隊、転落など、原始コミュニティの自営ライフスタイルが変化する過程を矢印で示した。言葉は過激だが当たっているのではなかろうか。

 



■■ 悪魔の三角形

これらの象限で特に問題となるのは、筆者が「悪魔の三角形」と呼ぶ、「権力」と「武力」と「絶望」の象限を占めるライフスタイルの人々である。
侵略戦争や搾取は、王侯貴族や資本家などの「権力」支配階級により仕掛けられ、「武力」組織によりそれが実行される。一方、「絶望」と「武力」にある人々は、犯罪や凌辱などの人権侵害を通じてコミュニティの不安定化をもたらす。
未来の平安を目指すならば、この悪魔の三角形を解消しなければならない。



■■ ライフスタイルと住まいの形態とコミュニティとの相関図

次の図は、これらの軸で各ライフスタイル(緑色)と住まい方(黒色)とコミュニティ・都市(茶色)をマトリクス化したものである。
実線の矢印は、同一地域でのコミュニティの形態変化を表す。破線は、地域から別の地域への人口移動を表す。ブルーは過去から現代までの事実を、グリーンは今後の予測を表している。



 



この図について簡単な解説を行っておきたい。

・古代の狩猟採集型ライフスタイル
竪穴あるいは洞穴での生活で、狩猟採集を主とし、日本の縄文文化のように小規模農耕を加えた小さな集落だが、食生活は意外と豊かだった。基本的にセルフコンテインド(自給自足)であるが、不足物資は交易により賄っていた。気候変動その他外部環境の影響を受けやすく、サステイナビリティは低い。

・自営農耕民のライフスタイル
農耕社会となり、定住と集落形成が進展する。現在においても世界の総人口の4割、アジアでは5割が農林漁家人口である。(参考資料 http://www.stat.go.jp/data/sekai/04.htm#h4-02)


・王侯貴族、帝国主義、資本家、セレブの特権階級型ライフスタイル
農耕社会が巨大化し階層格差ができあがると、王侯貴族階級のライフスタイルが分化する。王侯貴族のライフスタイルは、近代では帝国主義、資本主義の資本家階級、今日ではセレブリティのライフスタイルであるが、住居はマンション(日本のマンションではなく、英語本来の「豪邸」)であり、特にコミュニティを形成するわけではなく、都市内郊外を問わずコミュニティから分離独立して排他的で安全な生活をしている。現在多くの人がこのライフスタイルを求めており、地球規模のサステイナビリティの危機をもたらしている。

・修道士、研究学園都市の平穏瞑想型ライフスタイル
農村や都市から隔離され、宗教と学問に特化したライフスタイルの一つが修道院や道場であり、アーミッシュのコミュニティやハワードの田園都市、近代の研究学園都市の原点でもある。価値観やライフスタイルを共有する人々が形成する自律型のサステイナブルなコミュニティであるが、修道院など「家族」というサステイナビリティの最小単位を持たない形態は子孫を作るという自己増殖性に問題がある。

・産業労働者の従属的ライフスタイル
自営が成り立たなくなり小作化した農民、あるいは産業革命に伴い農村から離脱し労働者として産業都市に移動集住したライフスタイルのコミュニティである。産業都市には過重労働と劣悪な環境が待っていたが、彼らには農村にとどまる余地が無かった。

・田園都市、衛星都市、ベッドタウンなど、通勤型のライフスタイル
ハワードが提唱した、産業都市と農村を統合したライフスタイルが田園都市であり、産業都市から田園都市への移住が発生した。20世紀はこのライフスタイルが理想とされ、大規模な都市開発とともにグローバルに普及する過程であったと言える。ただし、ハワードが提唱した本来の田園都市型ライフスタイルは、通勤交通手段(鉄道・モータリゼーション)の発展に伴い、田園都市内での産業育成は果たせず、単に大都市のベッドタウン(ゼロ次産業の町、すなわち産業のない町)として巨大都市に従属することとなった。いわゆるスプロール現象である。産業労働者の従属的ライフスタイルはそのままである。多世代の同居や近居にはなじまず、核家族化が進み、コミュニティの崩壊と高齢者問題を生み出すこととなった。

・巨大都市のハイパーテンションなライフスタイル
産業労働者の従属的ライフスタイルはそのままである。シュペングラーは『西洋の没落』の中で、「文明の象徴は人工的な世界都市であり、経済目的に群集する人間は故郷をもたない頭脳的流浪民すなわち文明人であり、高層の賃貸長屋のなかでみじめに眠り、知的緊張をスポーツ、快楽、賭博という別の緊張によって解消する」と言っている。辛辣ではあるが、大都市に住む人々には耳が痛い。今日の日本の産業都市、あるいは将来の中韓インドの産業都市は、ディケンズの小説に登場する暗黒な情景の繰り返しであろう。
また、特にBOP(Bottom of Pyramid)国でのスラム問題は歴史の後追いであり、深刻である。例えばアフリカのスーダン、中央アフリカ、チャドなどでは都市人口の90%以上がスラムであり、従来型の大都市スタイルは先進国からBOP国まで機能不全に陥っている。

・リタイアメントコミュニティの世代分離型ライフスタイル
産業都市、巨大都市の核家族化が進む反作用で、老年世代が独立集住するリタイアメントコミュニティが田園都市の立地やリゾート地に形成されることとなる。はたしてこれがサステイナブルで平安な社会の理想形であろうか。

・サステイナブルシティのライフスタイル
今後のライフスタイルとして筆者が提唱するのがサステイナブルシティのライフスタイルである。セルフコンテインドを基本とし、資源の浪費を避け、精神的に幸せなライフスタイルであるが、コミュニティから隔離された独居や修道院的なライフスタイルではなく、家族と子孫の永続的な繁栄を基盤としたコミュニティの永続性を目指すものである。今後、小規模なコミュニティはその場所に住みながら完全にサステイナブルシティに形態変更可能であるが、巨大都市ではサステイナブルシティの基本となるセルフコンテインドの実現が不可能であるので、かつてロンドンから田園都市へ移住したように大都市からの人口流出が起きるであろう。
世界の8割程度がサステイナブルシティとなり、自営の農林漁家や家内工業者、知財関連事業者で構成されれば、ほとんどの都市問題や国際問題は解消するであろう。


■■■J-town2010の産業 資本主義から自営へ


■キーワードは「セルフコンテインド(自営)」と「職住学一体化(共用・シェア)」と「知財」

20世紀が「ごく一部の資本家や特権階級」と「大勢の大都市住民、農村住民、難民、ホームレス」との格差が広がった格差社会の世紀だったとすれば、21世紀は、今後100年をかけて「最大多数の最大幸福」を追求するフラットな社会を目指すのだろう。サステイナブルシティはそのような社会の具体像の一つとして想定されるものである。地球規模のサステイナビリティの達成は、マジョリティである大都市住民や農村住民個々人の意識変革にかかっている。
サステイナブルなライフスタイルを志向する人々が、現在の場所でサステイナブルシティに形態変化する、あるいは現在の場所からサステイナブルシティに移住すると仮定した場合、新天地サステイナブルシティではどのような「サステイナブルな産業」が想定されるのだろうか。

■産業のセルフコンテインド(自営)化 

産業のセルフコンテインド化とは、下請けや被雇用者や小作ではなく、「自営」の概念に近い。本論で言う「自営」とは、各世帯が食料やエネルギー、水などの生活必需品を自給生産することを原則とし、自給できない資材やサービスをコミュニティから調達する、それでも調達できない場合はコミュニティ以外から調達することである。農家が換金目的の家内工業や農産品加工販売を行っていた、その発展系と考えれば良い。
食料の自給は特に重要で、食料不足が戦争を引き起こし、それが都市や農村のサステイナビリティを脅かすことは歴史が証明している。生存に必要な最低限の食料が確保されていれば都市やコミュニティのサステイナビリティは格段に向上する。産業の目的は、富の集積の最大化ではなく、個人レベルから地球レベルまでのサステイナビリティの担保であり、個人レベルのサステイナビリティとは「自己実現」すなわち幸せに生きることである。
「セルフコンテインド」の理念に従っても必然的に不足する資源やサービスを調達するための資金を確保すること、例えば、ファミリーレベルでは、サステイナブルハウスで不足する農産品、エネルギー、資材、サービス、コンテンツ等の購入のための資金を確保するための生業の集積がサステイナブルシティJ-town2010での産業の姿である。

「セルフコンテインド」と「職住学一体化」だけでは、中世の宗教的ライフスタイルを固持するアーミッシュと変わらない。中世的な自給自足経済で、電気も自動車も使わない生活だが、現代まで一貫してサステイナブルであった。だが、さすがに地球上の人類の大多数がアーミッシュのライフスタイルに移行するには抵抗があろう。

アーミッシュ(ペンシルベニア)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5
(wikipedia)
 



■■知財産業とセルフコンテインド(自営)化 〜知財は個人が所有するという原則

「セルフコンテインド(自営)」と「職住学一体化」に加えて、未来のサステイナブルシティに必要なキーワードは「知財」である。今までの従属的な被雇用者から主体的な自営者へと働き方が変わる。先に示したライフスタイルとコミュニティの類型では、サステイナブルシティへの道は農村が最も近い。次に研究学園都市が近いが、研究学園都市の労働者の多くは企業や学校など大組織の被雇用者であるのに対し、サステイナブルシティでは各自が専門家として独立しており、知財は個人が所有するという原則が大きな違いである。


■■知財産業が集積するコミュニティの参考例

J-town2010で発達するであろう知財産業と、その発展の基盤となる因子やシステムを類推するヒントとなる具体例を挙げてみたい。


■■世界でのヒント

■ハリウッド 〜コンテンツ創造という目的を共有し、人種差別のないコミュニティ

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%83%E3%83%89
ハリウッドは言わずと知れた映画産業の集積地だが、映画産業人がニューヨークやシカゴから移住して新たに形成されたコミュニティだ。その成立発展の主要因は、気候もさることながら、映画関係者、特に俳優の出自を問わない産業コミュニティだったからだ。ハリウッド以前は東海岸を中心にワスプがアメリカ映画産業の支配層であり、ワスプ以外の出自を表に出してはスターやクリエイターにはなれなかったのだ。コンテンツ系の知財産業コミュニティはサステイナブルシティの理念になじみやすい。


■3M 〜個人の自己実現と企業とコミュニティの共存

http://ja.wikipedia.org/wiki/3M
3Mはミネソタの鉱山から発展した会社だが、今では鉱山とは無関係だ。この企業の発展には、従業員、特に技術者を大切にしたことが重要だった。15%ルールとして有名な、従業員が勤務時間の15%を日々の仕事にとらわれない私的な活動に充てることができ、「個人の自己実現と企業とコミュニティとの共存」が図られていることが発展に寄与している。

■カール・ツァイス財団 〜資本家の搾取を避け世界に貢献

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%84%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%82%B9
カール・ツァイスはイエナ大学の顕微鏡研究者であり、大学発のベンチャーだが、通常の株式会社のように営利を目的としていない。ツァイス本人の理念として、「資本家による搾取がない組織」と、「技術で世界に貢献する」ことを目指して、会社ではなく財団の組織とした。ツァイスの工場がある町は産業都市ではあるが、コミュニティと産業とが水平な立場で共生しており、資本家の搾取が無い。

1910年ごろのツァイス工場 (wikipedia) 
 


■■国内でのヒント

■サステイナブルな産業の種は地方にあり

今日の日本の産業は無から形成されたものではないし、全面的に西洋から移植したものでもない。その礎となった各地の伝統工芸と特産品などを例に、それが近代産業へ発展し、将来のサステイナブルシティの産業を予感させる技術の系譜とシステムのKFS(Key For Success)を辿ってみよう。


■■工芸、アート分野

島根県石見銀山 「鉱山機械の職人技術」と「世界的に受け入れられる日本の伝統デザイン」

石見銀山に本拠を置く企業として世界的に有名な中村ブレイスは、義足製作技術で世界トップレベルだ。個人個人に適合する義足は世界に一つしか作れず、精密なオーダーメイド技術が基盤となっている。また、群言堂という服飾インテリア店は、銀山の古い街並や旧家屋で培った「伝統的デザインと現代デザインとの調和」が基本コンセプトで、モダンな都市建築や都市生活者にも映えることを実証した。同様のことは、石川県野々市町の古民家喜多家にある暖簾(のれん)のデザインにも言える。デザイナーのサンローランがこの暖簾のデザインをモチーフとしたドレスを作った。ドレスのポスターのコピーは語る。「今、世界のファッションは、古典を着こなすことが、最も斬新なモードである(2006)」
明治時代に西洋のブランド品デザイナーが日本のデザインを大量に持ち帰った。それが今日の高級舶来品ブランドのデザインに貢献しているからこそ日本人に愛着を持って受け入れられているという、なんとも皮肉な現象である。

中村ブレイス本社、石見銀山大森の街並、
  

石川県野々市市 喜多家の暖簾とサンローランのドレス
  


群馬県桐生市 職住学の一体化、コミュニティステークホルダー 民間主導の織物関連技術と大学

産業と教育のあり方の好例である。群馬大学工学部は、地元の織物産業界が資金を拠出して設立した桐生高等染織学校が母体となっている。現在では織物産業がほぼ崩壊したが、織物工場や蔵などの遊休資産を解体することなく、体験型産業ミュージアムに再利用したり、退職した染料技術者が手工芸を自営展開したり、工場をアトリエやインキュベーション拠点に利用したりと、新しい産業の萌芽が期待できる。

順に、群馬大学工学部、退職した染料技術者が手工芸を自営する「天然染色研究所」、体験型産業ミュージアム「織物参考館ゆかり」、工場をアトリエとして活用する東京芸大の赤松さんのプロジェクト(外観と内部)、工場をインキュベーションの拠点として活用する無燐館(外観と内部)
        


岡山県吹屋 ベンガラ技術を釉薬に応用開発

江戸時代に吹屋が独占製造していた赤色顔料ベンガラの原料は銅鉱山の選鉱カスである。ベンガラは今日のハイテク素材フェライトと同種であり、産業廃棄物を新たなハイテク素材の原料として有効活用した好例である。2011年夏から吹屋の旧ベンガラ製造家が売り出しを始めた「次世代ベンガラ」は、江戸時代から保管されていたベンガラの成分を元に、大学と有田焼窯元との共同開発で、赤ではなく微妙な色の釉薬を開発し、多用途に利用しようという試みである。当時のベンガラに含まれる微量の不純物が最近のハイテク技術で蘇ったのである。

べんがらを使った吹屋の街並、 陶磁器や朱肉に使われていたベンガラ
  

茨城県日立栃木県足尾 「鉱山の技術」を環境リサイクル、都市マイニングなどに応用発展

日立グループは日立創業の地を大切にし、日立市の旧工場を環境リサイクル事業などに再活用しているが、古川グループは発祥の地を捨てている。足尾鉱山は観光化したものの、観光も工場の再利用もうまくいっていない。この違いは、もちろん立地(主に輸送環境と都市環境)の差が大きいが、知財を扱う技術者と工場をその地に温存したかどうかの差が大きい。

左:日立 中央の煙突は公害対策に設置されたもの。煙突が崩れたが短くなっても再利用している。日立市の市街地が近い。
右:足尾 精錬工場は閉鎖され、細々と産廃リサイクル事業を行っている。周囲を山に囲まれ、交通も不便で、本部機能など拠点となる市街地が形成されなかった。
  


岐阜県美濃 和紙をインテリアアートに加工して付加価値化 

和紙を素材として販売していたのでは付加価値が少ないが、展示館では多数の工芸作家によるアート作品として和紙の照明器具や和紙のドレスなどを展示即売しているので観光客の目に留まる。比較的高額な「紙製品のアート」を展示して、手ごろな値段の「アート的な紙製品」を売るという戦略である。訪問客相手の「マーケットイン」、「アート化」、「最終製品化」により、より付加価値の高い工芸品として販売することができる。

美濃和紙あかりアート館、和紙製のドレス店
  


埼玉県小川町 和紙アートと人間国宝 

小川町に残る伝統工芸品の和紙づくりは戦後廃れていったが、人間国宝(国指定重要無形文化財)細川紙の技術保持者の久保さんは和紙を使った芸術作品を手掛けることで最悪の時代を生き延びることができた。本人が絵を描くのが好きだったことが幸いしたのだが、アートの要素が無かったら大量生産品との競争に負けていただろうと話す。

久保昌太郎さんの作品
  



富山県高岡 銅鉄器製造のアート化

高岡の金屋町は仏具、銅像などの銅鉄器製造で栄えたが、その技術を応用してアート化の道を進めている。街並はまるでアートギャラリーであり、店舗と工房と居住部分があいまいで、まさに自営者の職住一体型のコミュニティだった。イベントとして訪問客向けに装身具の鋳物製造などを体験させるなど、BtoBだけでなくBtoCビジネスの掘り起こしにも成功している。

    

■ 静岡県湖西市 豊田佐吉記念館 職人主体の発明と改善、協業が成功する風土

トヨタの原点を創った豊田佐吉は、小学校を卒業した後、父を継いで大工の修業を始めたが、十八歳の時「教育も金もない自分は発明で社会に役立とう」と決心し、手近な機織機の改良を始めた。大工だからこそできた織機の改良だった。その原点は母の機織り苦労を減らしたいという思いであった。

佐吉が発明に使っていた納屋と佐吉の実家。 ここで豊田喜一郎が生まれた。
    

愛知県豊田市 足助屋敷の全体図と村の鍛冶屋

中世日本の農村はアーミッシュと同様のセルフコンテインド社会だった。三河遠州は特に綿織物の家内工業が盛んで、地場職人の技術と協業のシステムがトヨタなどの隆盛につながっている。
 


福島県昭和村からむしの里 産地限定の高機能自然素材とアート要素を入れた最終製品化

からむしは苧麻(ちょま)とも呼ばれ、小千谷縮などの原材料となるが、全国では昭和村だけに繊維製造の技術が残る。全て手作業の少量生産だが、湿度の高い夏に快適に過ごせる高級素材として再評価されている。日用品の高機能製品化とアート化であり、用の美に通じる。近年、この伝統技術を習得するために長期滞在する若者が増えている。長期滞在から定住へと移行すれば、将来のサステイナブルコミュニティにつながるであろう。

   


佐賀県有田町 技術とアート、グローバルマーケット対応

有田は世界を市場とする大規模な技術開発と生産販売、観光客向けの卸売に特化している。かつて西欧の富裕層が競って手に入れようとした有田伊万里などの磁器製品の製造技術は、低温度で焼く日用品の陶器とは異なり、朝鮮陶工の技術を習得し発展させたことが基礎となっている。新興国製品の追い上げが激しいが、有田ほかの大規模窯業都市では、R&Dから製造、グローバル販売までのシステムができあがっており、これを活用して新素材開発、新用途、新顧客などの開拓につなぐことができる。その際、重要な差別化の要因は、品質の差と芸術性である。

外国人バイヤー向けの宿舎、 焼成窯のレンガ(トンバイ)を利用した塀で独特の街並が形成されている。
  


沖縄県那覇市壷屋 家内工業と観光の融合

壺屋の焼き物は本来、地元の日用品であったが、那覇市内に位置することから観光との両立が可能であった。通りは狭いが、緑の植栽と赤屋根、陶器のシーサー、飾り壺などの演出で景観に優れ、陶工の工房は観光客が立ち寄るショールームも兼ねる。喫茶店やバーとして営業している工房の店舗もあり、マーケットインのR&Dと製造直販システムが成り立っている。

   


栃木県益子町 用の美と若手育成システム

益子では従来日用品を製造していたが、用の美を提唱する民芸運動の陶芸家、浜田庄司が益子に住み、益子の土を活かした独特な作品を作り出してからは芸術性を強く主張するようになった。全国の陶芸産地には一子相伝でよそ者を入れないなど排他的な地もあるが、益子の良い点は新参者の積極的な受け入れであり、窯を貸したり共同販売したり展示場を共同利用したりと、地域産業の発展のために事業者が協業を行っている点であり、若者の新規参入が多く、既存陶芸家にも良い刺激となっている。陶器市には特に観光客の訪問が多く、賑わいを見せている。このようなシステムはサステイナブルシティの良いヒントである。

浜田庄司旧家、美術館内のアートカフェ、共販センター、センター内の個展会場(伝統工芸士大塚さんと作品)
    

■漆器 長野県平沢 和歌山県海南市黒江 石川県輪島市 日本独特の芸術品、工芸品として競争優位な産業モデル

漆工芸は日本が誇る伝統技術であり、世界中で多くのファンを持つ。この技術が現代人向けの什器はもちろん、家具、装身具や自動車の内装など多くの分野に応用されており、大きな付加価値の源泉となっている。その基本はやはり日本人ならではの工芸の精巧さと芸術性であり、多大な労力と費用をかけて世界中の目利きが唸る芸術品を創り、その応用としてアート的で手ごろな工業製品を販売する手法である。このビジネスモデルは甲州印伝 金沢箔などにも言え、大きくグローバルマーケットを視野に入れた製品開発とマーケティングが成功の鍵と言える。一方、八女福島など仏具を主体とした伝統工芸は、グローバルな市場に向けた新製品と顧客を開発できれば今後画期的な飛躍が可能であろう。世界的に見てもこのような技術を保持する競合が少ないのだから。

平沢の沈金師 石本さん
  


黒江の街並
 

甲州印伝
 現代の用途(ハンドバッグ等)に対応した革製品のデザインが成功している。西欧の革製品よりも上質である。
 

金沢箔
 金細工はグローバルに人気があり、箔加工は世界的な技術として評価が高い。
 


八女福島 仏壇
 観光客むけに職人の実演、販売の場があるが、商品が仏壇だけではせっかくの高度な技術がもったいない。この技術を応用して仏壇以外のインテリア製品やアートなどの開発を行えば違った展開が期待できる。
  


以上例示したように、技術をアートに高めた人々のトップモデル、例えば国の人間国宝(重要無形文化財)や伝統工芸士、あるいは文化財を伝承する人々に提供する道具や技術(選定保存技術)の保持者が活躍する分野は、サステイナブルシティの産業のヒントであり、将来の宝の山であると言える。
 
 

■■農業・バイオ分野

農業・バイオ分野も成功モデルは工芸分野と同様であるが、特に日本の農学技術を応用し、バイオサイエンス技術で農業の2次産業化、3次産業化を加速する必要がある。例えば過去の超ハイテク技術であった養蚕製糸の化学医薬製品への応用、種苗の品種改良、循環型農業と肥料、水耕栽培技術、生態学と環境改善技術、セルロース分解技術などによるバイオエネルギー、食料生産技術などであろう。22世紀には日本の人口は現在の1/3程度に減少しているが、その時の日本はバラ色であろう。有り余る水と温暖な気候を利用して、食料自給率は100%を超え、健康増進などに特化した付加価値の高い農産物(Produce)と農産物加工品(Product)を輸出していると思われる。


■徳島県藍住町 藍の館

化学染料に押されて廃れてしまった藍であるが、今日の藍ブームは、天然染料の藍と天然繊維のオーガニックコットンとの組み合わせがアレルギーに良いこと、シンプルな藍色がインテリア用品として現代人の生活に調和することなど、合理的理由で見直されているからだろう。藍の生産から織物の染色まで一貫して天然素材を利用することで、単に天然素材を好む人々のマーケット以外に、アレルギー体質の人向けの製品が成立する可能性がある。藍に含まれるトリプタンスリンという物質にアトピー性皮膚炎を引き起こすマラセチア菌を抑制する効果やアレルギー反応を抑制する効果があることが医学的に確かめられたことで今後への期待も高まる。

藍の発行窯と染め体験工房
   


■ 長野県上田市 上田蚕種協業組合信州大学農学部

上田蚕種協業組合はかつて大量の蚕種を全国各地に送り出していた。現在では化粧品、薬等のバイオ開発素材として大学や会社の研究所向けに再評価されている。信州大学上田キャンパスでは地元の蚕関連産業とともに蚕に関する研究の蓄積が豊富で、繊維関連からバイオなどのライフサイエンスの研究に進化している。このように地元産業と学術研究組織の両輪がかみ合ってきた地域は今後も産業発展する土壌があると言える。同様に、かつて栄えた紅花の産業なども今後のライフサイエンスビジネスの開発可能性を秘めているのではなかろうか。

上田蚕種協業組合(外部と蚕種)、信州大学上田キャンパス
   

山形県河北町 紅花資料館
 
 




■■■ 知財産業に貢献するJ-town2010のファシリティシステム


■■ 創造とマーケティングと知財教育とを融合させるハードとソフトのファシリティ

知財産業に資するためには、J-town2010にどのようなファシリティ(機能や施設)が必要だろうか。世界と日本での例示で多くを示唆したが、それを整理して以下に示してみたい。


■「コミュニティベースR&D」による「ポジティブフィードバックループ」のシステム

理念編で述べたように、コミュニティ内で調査、開発、実証を行う、クローズドループ(閉じたサイクル)が効率的だ。住民すなわち産業従事者が株主や融資者や初期開発段階の顧客、すなわち「コミュニティステークホルダー」となり、R&Dとマーケティングとファイナンスとインキュベーションで自営者やベンチャーを支援する。それにより、行動科学的に強力なポジティブフィードバックループ(良い行動が良い結果につながり、それが次の良い行動につながる、増幅的循環)が生まれるので、外部者を使ったリサーチや実証試験が不要となるとともに、開発段階での知財情報のセキュリティも高まる。
 


■「オンサイトインバウンドマーケティング」のシステム

知財指向で開発された製品やサービスなどを現地から遠く離れたオフサイト(当地外)でアウトバウンド(地域外部向け)にマーケティングする、いわゆる売り歩きではなく、J-town2010の工房やマーケティングセンターなど当地(オンサイト)へインバウンド(当地向け)に顧客を呼び込むことにより、無駄なマーケティングコストが削減される。さらに、外部から訪問するバイヤーやエンドユーザは直接製造者に製品のフィードバックや制作依頼を行うため、「コミュニティベースR&D」の補完役にもなる。


■「知財教育と知財アーカイブス」のシステム

知財教育システムは、知財の創造、管理、マーケティング、データベースとアーカイブス化など、一連の総合システムだが、その中の各パートが個別分離していては効率が悪い。例えば、創造に関するパートでは、秘密の保持などを理由に専門教育者が少なく、芸術家や工芸家などの暗黙知が伝承されてきた。同様に、管理のパートでは弁理士や弁護士の当該産業分野における専門知識が不足しており、能力が発揮されていない。マーケティングのパートでも同様で、当該産業分野や製品の本質を知らない大規模な広告産業界では専門性が発揮できない。アーカイブのパートでも、学者や学芸員などの教育専門家と産業界との連携は課題だ。このように各パートが分離していると非常に非効率なシステムである。

J-town2010では、自営の事業者を中心に、これらのパートを統合した総合システムを運用することが可能である。例えば、知財サポートのプロフェッショナルは専門家でなくても良く、経験豊富な事業者OBなどがJ-town2010内の事業者向けに法務、税務のサポートをすれば事足りる場合がほとんどである。学びの場も、自宅の工房はもちろんのこと、地域のカレッジ、専門学校、研究機関等はもちろん、高校中学小学幼稚園に至るまで、地域内事業者または事業者OBが担うことができる。また、この都市を訪問する海外や他地域からの客がコンベンションなどのイベントで客員の教育者となることは容易に想像できる。

もっと日常的に、学びの場(クラスや塾)、交流の場(カフェや宴会場や展示場)は全て産業のサステイナビリティを担保するというミッションを明確にし、その目的のために最大限に物的人的資金的資源を活用することにより、施設の無駄や運用の無駄を省くことが可能となる。例えば小学生でも能力があれば大学の授業に参加しても良い。リタイア層も、各自の趣味とコミュニティへの知的貢献を両立し、自己実現を図ることができるだろう。
 


これらのファシリティシステムを実装した姿を2つ例示する。

■ クローズドコミュニティメディア

一つは「クローズドコミュニティメディア」である。簡単に言えば、コミュニティ共用の放送、出版、通信、教育、マーケティング、公報目的のサービスだが、公共の広報から学校内放送や印刷に至るまで、多目的にメディアの資源を活用するシステムである。
「コミュニティベースR&D」を支援する機能であり、「コミュニティステークホルダー」など、限定的な相手のみに、開発中のあるいは市場に出回らない優良なコンテンツやサービスを安全に届けるプライベートメディアである。このメディアがJ-town2010発の放送、出版、広告宣伝はもちろん、コミュニティ向けの知財教育、知財ミュージアム、知財データベースなどを全方位で支援するので、非常に効率が良い。
 

■ 総合タウンセンター

もう一つは「総合タウンセンター」である。これは世間一般の多目的(実は無目的)なタウンセンターとは目的も機能も全く異なる。サステイナブルな産業を支援する、すなわち「自営者世帯の知的生産活動を支援する」目的を主とし、一般的な住民の生活サービスを従にした中心施設であり、24時間運営のミニコンベンション機能を持ったホテル付きのサービス施設複合体である。施設の詳細は、目的に特化して、以下のような構成となる。

・ラボ、アトリエ等 共同利用の作業場兼ショールーム兼ショップ
・クリエイティブ・メディア系のメディアスタジオ
・ミュージアムアーカイブス
・シアターやホール 産業コンベンションに利用することを第一の目的とする。
・TLO、ビジネスマッチング、起業、ファンディング支援施設
・R &Dにおける共同研究所、試作実験設備など
・ミニコンベンション機能を持ったホテル J-town2010の産業に関係する来客へホスピタリティを提供することを主目的とする。

かつての有田の外国人バイヤー専用宿舎などはその原点であった。近いイメージの例として、ニュージャージーのプリンストンにあるScanticon Princeton Executive Conference Center and Hotelやニューヨーク郊外のRye Hiltonなどが挙げられる。
なぜ5000人1500世帯の小さなJ-town2010にホテルが重要なのか。

・ホテルはミニ都市である。24時間全ての人のニーズに対応するコアとして重要で、行政など公益サービスの窓口も兼ねることができる。ホスピタリティビジネスは、訪問者と居住者とのコミュニケーションによる創造的産業活動に必要である。
・知財を扱うクリエイティブクラスには、コンベンションやセミナーでの情報交換と創造が必要である。
・ホテルは外部からのトレイニーなど、ロングステイ利用者向けの受け入れ施設となるので、単独のドミトリーや下宿などよりも効率的である。
・ホテルよりも近しい間柄の訪問者は、自営者の自宅兼工房でのホームステイにスムーズに移行することができる。未来型の徒弟制度と言える。
・外部からのカレッジ入学者もホテルかホームステイかの選択肢が広がる。

総合タウンセンターは、住民が組成する行政総合代行会社(タウンマネジメント会社)が所有運営することとなろう。(タウンマネジメントとPPPの章参照)
運営のポイントは、
・24hサービス
・SOHO、サービスアパートメント的利用も可
・ビジネスサービス
・会議, コンベンション, ホール, ミーティングルーム、クラスルーム、実演場などを一体で運営する(もちろん、シネコンや市民文化会館としても利用する)
・冠婚葬祭の場
・ケータリング・ランドリー(タウン内全ての施設、すなわち学校、介護施設、クリニックなどはもちろん、老人宅や共働き自営事業者へのサービスを兼ねる)
・保育、ベビーシッターサービス これにより成人夫婦がビジターと知財交流することを支援する
等々である。要するに、「自営者世帯の知的生産活動を支援する」という目的がはっきりすれば必要なサービスは自ずと決まる。
 



■■■J-town2010で想定される知財産業の具体像と人々のライフスタイルイメージ

■ J-town2010が目指す産業分野 〜全産業に応用可能な J-town2010だが

サステイナブルシティJ-town2010は知的財産による付加価値創造型の自営者の町をめざす。だが、知財産業と言ってもそのバリエーションは多く、裾野も広い。現在の全ての産業分類をJ-town2010のシステムがカバーできるかどうか、すなわちJ-town2010がどの産業分野を志向すべきか、その場合、どの産業やサービスを外部調達するか、という検証を標準産業分類を用いて行う必要がある。筆者が簡易な作業を行った結果、以下の産業分野が特にJ-town2010に適した産業分野の例として挙げられる。もちろんこれ以外の産業もサステイナブルシティで成立できるが、以下のような産業が先行するのではなかろうか。

・工業技術(ハード)、工業デザイン(ソフト)型
 環境、エネルギー、交通、工業全般の設計、ITなど

・コンテンツ、アートプロダクト型
インテリア系、服飾ファッション美容系、ビジュアルコンテンツ系、パフォーミングアーツ系、パブリックアート・建築系、ランドスケープ・園芸系、ファインアート系など

・ライフサイエンス型
 医療、健康、バイオ関連産業

・農林水産付加価値型
 農林水産物の2次、3次産業化

・教育、研修コンベンション、ホスピタリティサービス型
 知的創造及びライフサポートを支援する学、食、泊、遊などの総合サービス産業


■ 垂直型都市から水平型都市へ

今まで考察してきたように、J-town2010の理念は、セルフコンテインド(自営)により、都市内にヒエラルキーを作らない、産業分野を水平的に共有する平等なコミュニティを継続させることである。
そうすることにより、現代の巨大都市の病理を取り除くとともに発展途上国がその病に罹患することを防止することができる。巨大都市からサステイナブルシティへの移行は容易ではないが、現在世界の4割を占める農村をサステイナブルコミュニティ化するのは容易である。究極的には世界の8割程度がサステイナブルシティ化することが理想である。

上位10%と下位10%の所得格差の倍率を国別に比較してみると、南米の国はプランテーション農業の歴史を引き継いでいるので所得格差が大きい。将来サステイナブルシティへ移行することにより格差は縮小し、人々の幸せが広がるであろう。
サステナブルシティJ-town2010は世界に平安をもたらすソリューションの一つである。

世界の所得格差
 
Y軸: 上位10%と下位10%の所得格差倍率 
X軸: 一人当り所得(購買力平価) $US
Dec.2011 Y.takiyama DATA 国連開発計画 HID report 2009





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