JAPAN GEOGRAPHIC

長野県小布施町 

Obuse

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General
旧い街並と文化を大切に、現代生活に活かしている。
Nature
 
Water
寺院の水は素晴らしいが、街中にも潤いが欲しい
Flower
至る所に花が
Culture
伝統的な建物と街並に快適に暮らす。美術館多数。
Facility
民家の庭を開放するプログラムは素晴らしい
Food
栗の菓子


May 2004  source movie

 小布施は近郊産品の集配で栄えた在郷町であり、江戸時代高井鴻山が北斎を迎えるほどの文化風土があった。しかしながら戦後はスキー場への通過点としてほとんど忘れ去られた悲しい町であった。

 昭和51(1976)年に北斎が滞在中に描いた肉筆画を展示する北斎館が誕生し、それからこの町の流れが変わってきた。北斎が滞在し、当時の文化サロンとなった鴻山の隠居宅「ゆう然楼」は、町が譲り受け記念館として昭和58年に公開された。時を同じくして日本のあかり博物館、その後小布施美術館など、多くのミュージアムが誕生し、過去の文化遺伝子を復元してきているように思われる。

 それに伴い、一帯を整備しようとの機運が盛り上がり、住民、行政、設計関係者などが連携し、自発的に街並の整備を進めた。この町の成功はカリスマ的個人の産物、前向きな行政の産物とよく言われるが、古き良き街並を尊重する「風土」が無ければ、一個人だけのこだわりからは街の再生はありえない。もちろん、行政は街づくりのサポートを積極的に推進し、必要な予算措置や景観条例などを策定し、実施している。

 ただし、この街は実力以上に評価されている点もあることに注意しよう。今ひとつ改善すべきは、宿泊機能の弱さ、電柱の撤去、歩行者専用部分の拡大、メインストリートからの通過交通排除とバイパスへの迂回策、騒音と排気ガスにまみれるバス駐車場の移設、遊歩道へ漏れる工場騒音の防止など、細かく言えばきりがないが、それでも他の街に比べればはるかに上を行っている部分は多い。

(町資料)

【北斎館付近と栗のこみち】

庭園開放プログラムによって、公私があいまいな空間が多数発生。「上がってお茶でも飲んでいきなさい」というような旅人へのこのようなホスピタリティは、昔は当たり前であったし、素朴な街では今でもそうだ。このような空間は歩いていて楽しい。このようなあいまいな空間が都心にあれば嬉しいのだが。

【国道沿いの街並 枡一酒造、小布施堂】

水や植栽を活かした和風の演出が街並に潤いを与えている。

【栗の木美術館、桜井甘精堂付近】 和風の道路舗装と植栽、建築の調和がなされている。

庭園開放で生まれた心地よい空間。

【山野草店】 この路地も公私あいまいな空間だ。

【茅葺の民家】 茅葺は本来の建築様式だったのだが、隅に追いやられている感じ。

May 2003 美しい街並 beautiful townscape obuse-01 source movie

Obuse Museum, Sakurai Kanseido


May 2003 美しい街並 beautiful townscape obuse-02 source movie

Kurinoki Terrace, Obusedo,Hokusaikan


May 2003 小布施郊外 

古刹、湧水、りんご畑など、ほっとする癒しの空間だ。郊外と市街地との連携は重要だが、プロモーションは足りていない。

suburban obuse obuse-03 source movie

Ganshoin,Jokoji


小布施の酒蔵を改造したレストラン「蔵部」と街並

【まちおこしは造り酒屋から。造り酒屋をミニテーマパークに】

全国津々浦々、美しい町には必ず造り酒屋がある。造り酒屋は、建物も蔵も塀も、ほとんど全てが和風の景観と情緒を保っている。

経済的に難しく廃業した醸造家も多いが、朽ちたり壊されたりするにはしのびない。この施設をまちおこしに利用しない手はない。

まちおこしと街並の核として造り酒屋を大切にし、施設を活用する提言をしたい。

酒蔵はひんやり冷たく、静かで暗く天井が高いので癒される。ギャラリー、工房、パフォーミングスペース、レストラン、バーにもってこいだ。

当然ながら一般的に周囲には名水が湧き出ているので、名水巡り名水販売も期待できる。

酒樽、甕(かめ)など、都会から来た人や外国人が注目するデザインに優れた備品が多い。煙突は素敵なランドマークである。

日本酒は奥が深く、うんちくの勉強や利き酒などで来訪者の滞在時間を延ばし、宿泊需要も喚起する。

酒精は美肌にも良いそうだ。さらに粕漬けなど加工できる産物の幅が広く、辛党甘党男女そろって楽しめる。それもあって新酒体験などのリピーターも多い。

こうした特徴を活かし、全国の酒蔵を巡り、非市販品を味わう友の会制度のような大人のスタンプラリーシステムが開発されると面白い。 

酒蔵でしか飲めない酒は、量が少なく出荷できないもの、品評会用に採算度外視したもの、アルコール無添加のため長距離輸送できないできたてどぶろくなど、愛好者にはたまらない貴重なものだ。

子どもには酒蓋集めが面白い。希少な銘柄の一升瓶のフタをゲームカードよろしく収集交換するものだ。 

酒蔵を利用した有名な成功例には、小布施の枡一酒造が改造した「蔵部(くらぶ)」というレストランバーと付近一帯のテーマパーク化がある。

あまり知られていないが、ポテンシャルがある例としては、関東近辺のほとんど全ての酒蔵があげられる。

例えば街並茨城県小見玉市の旧小川町。

街並の専門家にも知られておらず、ほとんど忘れ去られているが、緩やかな坂を持つ街並が美しい。

その坂上に小さな造り酒屋があり、千葉県佐原市の伊能忠敬を生んだ伊能家から分家した伊能家が酒蔵を守っている。

建物や路地がたいそう美しく、東京に近く鉄道の便もあるのに観光で訪れる人もいない。

このようなところで酒蔵をからめたまちおこしと街並再生がなされることを願っている。

かつての酒蔵は雑菌の問題などで一般者を排除していた時代もあったが、何十年何百年と麹菌が住み着いている酒蔵では実はそれは問題ではなかった。

多くの造り酒屋はマーケティングには疎かったが、ここは考え方を変えてダイレクトマーケティングも活用し経営上の相乗効果を追求してはどうか。

小布施の枡一酒蔵でも全国向け直販を展開している。

あるいは気の利いた高級消費者志向の事業者が一手にマーケティングを行う頒布会なども考えられるだろう。

既に廃業した酒蔵を活用する例としては桐生の有鄰館などがあるが、これは次善の策である。

できることなら酒造りを復活させることとセットのミニテーマパーク化を推進させたい。

後継者難、資金難で酒蔵の存続が難しくなったのだから、そのような休眠蔵には新しい人と資金を注入する必要がある。

そのためには先に述べた日本酒を愛する友の会的な、愛好者によるNPOファンドを組成し、酒造りにチャレンジする若者に蔵を預けるような仕組みづくりも期待される。

茨城県小美玉市 伊能酒造店

岐阜県中津川市 はざま酒造 酒遊館

茨城県桜川市真壁 村井酒造

長野県立科町 茂田井

群馬県桐生市有鄰館

【人は街並形成の重要な要素】

景観要素としての人の影響は大きい。例えば十日町着物祭りのように皆が着物で街に登場すれば街並は変わる。渋谷と銀座とでは人や服装が違うので街並が違う。人の立ち居振る舞いが景観と印象を大きく変えていることは、祭りの服装や音楽、花火の浴衣姿を見れば理解できよう。花火大会の浴衣は街に華やかさを添える。であるならば、古い街並を探訪するにはどのような格好をするのが良いのであろうか。和風の街に合う服装が美しい。百貨店やブランドショップが「寺社仏閣・街並探訪にやさしい旅行グッズ」を出すのだろう。その兆候は石見銀山の和風ブランドショップで芽生えている。和風の観光地では本物の藍染Tシャツや濃鼠のジーンズ、結城つむぎのジャケットなどがもてはやされる時代が訪れるであろう。

海外高級リゾートでは当たり前の「アタイア、ドレスコード」が、古き良き日本にもありましたし、冠婚葬祭では今も根強く残っている。訪問先の街並にふさわしいドレスコードがあってしかるべきであろう。

【団体バス旅行対個人旅行】

観光バスも団体観光客も、街の景観要素を構成する。日本のどこでも言えることだが、派手な観光バスは古い街にはなぜか似合わない。ロンドンの2階建てバスはロンドンの街並に合っているのだが。 背の高いバスが低層な街並の中心部近くまで入りこむ。バス駐車場が目的地に近すぎるため、その騒音が散策や休息を阻害する街は多い。バスはエアコン用にエンジンをつけっぱなしで、騒音と排気ガスを出し続ける。駐車中はエンジンを停止してもらいたい。

時間に追われた団体行動は、ゆっくりと過ごす個人客のリズムと会わない。古い街では高質な時間を消費するのだから、高級料理店と同様ゆとりを持った個人旅行を楽しんでほしいものだ。それでも観光バスで訪れたい理由は理解できる。、費用が安い受身のパック旅行は気楽である。友達も多くできる。修学旅行は重要な団体旅行だ。

せめて邪魔にならない街はずれにバスを停め、 エンジンは完全に停止し、そこからはバッジも旗も無しでゆっくりと歩いて個人行動を楽しんで欲しい。団体の食事やトイレなどのサービスは、個人客に迷惑がかからないよう専用駐車場に施設を整備して欲しい。 「旅の恥は掻き捨て」ではなく、「旅の恥は一生の恥」という心構えで、個人客や住民への思いやりや節度も忘れないで欲しい。

街並取材時には、臨場感を重視して、ビデオカメラで音と影像を同時に記録する。その際問題となるのは音だ。鳥のさえずり、小川の水音、人の会話などをかき消すのは、オートバイの爆音と自動車のエンジン音と、バスのアイドリング音、ブザー音だ。宅配便トラックは停車時エンジンを切るし、待てばすぐ立ち去るので、さほど撮影の支障になることは無い。少し困るのは空調室外機の音だ。騒音の多い街の取材はつらい。

観光バスが並ぶようになると古い街はどんどんその良さを失って行き、店の質も落ちて行く。例えば富士の忍野。湧き水と古民家が美しい素朴な桃源郷であったが、この30年、訪れるたびに違う方向に進んでいるように感じる。団体向けのみやげ物店が増えたのはまだしも、肝心な清流には排水が流れこみ、雑多なゴミが沈んだままだ。それでもなお富士近辺では一番美しい所だが。柿田川も白糸の滝も良いが、忍野八海の泉はやはり美しい。

その街が団体をとるか個人客をとるか。 これは哲学の問題ではなく、経済の問題であろう。 団体志向路線が日本の観光産業を破壊したのではなかろうか。これからどう立ち直ったら良いかは、海外の有名リゾートを見ればわかる。個人客(FIT,Free and Independent Traveller)のリピーターを増やすこと、量から質への転換が必要である。

街を守るために団体客と決別するところも現れるであろう。条例で観光バスを規制する自治体や、観光バスの駐車場所を指定し、街並に調和したデザインのシャトルを走らせる街も多くなろう。どこがそうなりそうかは察しがつくだろう。

宿泊施設やみやげ物店にとって、目先の利益をもたらす団体客の誘惑を振り切るのは容易ではない。しかし、団体はピークとオフの差が激しく、稼働率に無駄があり単価も安い。旅行代理店に好き放題扱われる、個人客からクレームが来ると嘆く旅館も多い。平均滞在日数と客単価、広告費、代理店経費を計算すればどちらの方向が良いか判断できよう。個人客へのサービスは難しいが、日本人はマニュアルなしでもサービスの本質がわかる稀有な文化を保持している。着物姿の宿のおかみは外国人にはスーパーウーマンのようにもてはやされている。 個人客向け宿泊の究極は湯治宿だ。宿泊費は安いが、年間安定して長期滞在客が利用する。食事もスローフードがもてはやされる時代、古い街から遠くないところに、景観に調和した長期滞在向け施設が現れる時代が到来してきたのではなかろうか。

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