MONTHLY WEB MAGAZINE June 2013

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■■■■■ 瀧山幸伸

■■ 10年の歩み

Japan Geographicの活動を始めて満10年が過ぎました。

2003年4月に始まった頃の収録コンテンツを見ると、画質の悪さと内容の幼稚さに冷汗が出ます。

動画はハイビジョンではなくて普通の家庭用ビデオの画質ですし、写真はビデオから切り出した静止画なので、どうしようもない低画質です。

とは言えども、日々進化している形跡は見え、「量は質に転換する」という格言はその通りだと思っています。

幸い、通信員の方々の協力も得られ、コンテンツはますます充実しています。

この10年は素材を増やすことに注力し、積極的な活動はしませんでしたが、次の10年ではJapan Geographicの理念に沿って活動を発展させたいと願っています。ご期待ください。

 

■■ 源流の地獄極楽

名水百選だからといって特別美味しいわけではなく日本の水はどこも美味しい。特に源流域の水は無条件に美味しい。

一般に言う源流とは、河川の本流(最も長い流れ)の原点という定義だろうが、各河川に一か所しか無いし、それだけの価値でしかない。

長男だけが偉いわけではなく、河川のそれぞれの支流の源流も負けず劣らず素晴らしい。

源流域探訪には二つの地獄がある。一つは「俗化」など環境破壊の地獄、もう一つは遭難などの「事故」の地獄だ。

俗化の地獄は深刻だ。団体観光地と化してしまった源流や名水は、味は良いのだろうが、音や景観が濁り、霊力が減衰しているように感じられる。

富士山ブームで国際的に脚光を浴びている忍野八海や安曇野の大王ワサビ田などでは毎回残念な光景を見る。

姫川源流も観光客が多すぎて、かつての神秘性は薄らいだ。塩の道ブームも拍車をかけているのだろう。峠を挟んだ信濃川源流の青木湖周辺のほうがまだ静かだ。

関東にあるにもかかわらず頑張っている名水は尚仁沢湧水だ。かなり歩かなければならず、団体観光には不向きだからだろう。

滝壺に落ちるとかの事故の地獄は自分が備えていればある程度は防げるが、幸田文の『崩れ』に描かれたような山崩れや土石流は防ぎようがない。

『崩れ』は幸田が72歳のときに出会った大谷崩の迫力に圧倒されたことから、全国の崩壊地を訪ね歩いたことを綴ったエッセイだ。

大谷崩は静岡県静岡市葵区の大谷嶺の南斜面にある、1707年の宝永地震によってできた山体崩壊である。

1858年に富山県で起きた鳶山崩れ、1911年に長野県で起きた稗田山崩れとともに、日本三大崩れれると言われる。

大谷嶺は標高1999.7mで、安倍川の源流の一つだが、崩落した土砂が安倍川を堰き止めて下流に滝を作った。

この滝は土砂のために真っ赤な水を流し続けたことから赤水の滝と呼ばれている。今は赤くはないが。

土石流では、愛知県新城市の四谷千枚田が有名だ。

安部川の源流域には地獄ばかりではなく多くの極楽がある。

癒しの温泉を好む人には梅ケ島温泉を、ワサビとお茶を好む人には有東木をおすすめしたい。

有東木のワサビは伊豆のワサビ栽培の源流だ。

ワサビはもちろん、源流の水も、地元のおばあちゃんたちが作るごちそうもおいしいが、この地のダイナミックな景観も、盆踊りや村祭りもごちそうだ。

幸か不幸か団体旅行には不向きな山奥だから俗化の地獄に落ちることは無いだろう。

 

■■ 植物園ノラネコ放浪記

広い植物園はノラネコのように一日中放浪して遊べる。私はまだ家族から捨てられていないが、習性はノラに近い。

各地のフラワーパークの花は美しいのだが、派手なお化粧をした女優のような感じで、あまり好きではない。

関東の植物園と言えば、東大の小石川植物園日光分園、科学博物館の筑波実験植物園が好みだ。

小石川植物園は自宅から近いので良く行く。騒音さえ我慢すればそれなりに鳥の声も楽しめる。

一時期はノラネコが多かった。捨てられたネコだろうが、人に怯えるしぐさが悲しい。

筑波実験植物園には多くの温室があるので、冬の寒い時期でも汗が出るほどの居心地の良さだ。

ここではボランティアの方々がガイドを行っており、詳しく解説してくださるので勉強になる。植物研究家の訪問も多い。

ノラネコは見ないが、ネコカフェならぬネコ温室があればネコもヒトも楽しいだろうに。科学博物館ならば教育目的でやれなくはないだろうが。

日光分園旧田母沢御用邸の一部が含まれる由緒ある植物園だ。

高山植物や寒冷地植物が豊富に揃い、日光散策には絶好の場所だ。

こちらにもノラネコはいないが、憾満ガ淵の対岸に見えるおばけ地蔵も愛嬌があり、いつ訪問しても楽しく過ごせる。

5月の訪問ではフジとクリンソウが美しかった。夏はレンゲショウマなどが美しい。

もちろん、それぞれの花の天然の本場には及ばない。

フジは全国の天然記念物のほうが迫力があるし、クリンソウも中禅寺湖の千手が浜や長野の入笠山大鹿大池などには及ばないが、気楽なノラネコ気分が味わえるのが植物園の良いところだ。

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