JAPAN GEOGRAPHIC

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オーディオ録音

Last Updated. Feb.29,2024  by 瀧山幸伸


■基本

Japan Geographicは理念に従ってエンタテインメント目的のBGMやナレーションではなく教育目的のリアルな臨場感を重視していますので、静止画だけではなく、動画とともに現場の音を記録することが非常に重要です。映像は乱れても耐えられますが、音質が悪いと視聴に耐えません。

■録音専用のレコーダーは重要

カメラとレコーダーとで二重に録音をしておきます。カメラ録音は音が悪く雑音を拾いやすいため、レコーダーとのシンクロ用に使います。レコーダーはカメラ録音とは比較にならない高音質です。最低でもCD以上の音質(非圧縮wav形式、 16bit、 48KHz)、できればプロと同様の24bit 96KHzまたは32bitフロートでの録音を基本とします。32bitフロートレコーダーは爆音から微弱音までを歪みなく録音できるのでおすすめです。

レコーダーが無ければ難しいシーンは以下の場合です。

1. 音の強弱が激しいシーンには32bitフロート録音機を

寺社の鐘や太鼓の音、花火の音、温泉地、雷鳴、鳥やケモノの鳴き声などのシーンには32bitフロート録音機が適しています。カメラのAGC(録音量自動モード)や固定ボリュームでの録音は失敗する確率が多いです。鳥やケモノの鳴き声のシーンでは音源と環境音を分離するために別途ガンマイクでの録音が必用になる場合が多いです。

2. 微弱な音のシーンにはノイズが少ない機材を

以下のような静寂な音のシーンでは録音ノイズが少ない(SN比が高い)マイクとレコーダーが必用です。

A.古墳や横穴墓の玄室内の音
萩の尾古墳

B.石器時代人や縄文人が家族で暮らした洞穴の音
高畠町 縄文洞窟群

C.日本各地のかくれ切支丹が密かに祈りを奉げた聖地の音
例 安満岳

D.薩摩の浄土真宗禁教徒が密かに祈った隠れ念仏洞の音
例 藤が峯の隠れ念仏洞

E.廃寺、古戦場、廃鉱山など人の気配がないシーン

F.静寂な寺社の内部や境内、古民家の書院や蔵の中

G. 静かな鍾乳洞内で水滴が滴る音
風連鍾乳洞

H.本物の秘境に生きる鳥獣類がこちらの行動をうかがっている気配の音
例:豊似湖 July 6,2022の編集済動画はZoom F3にRode Nt4を接続して録音し、かなりボリュームを上げてノーマライズしたものです、現地は静寂そのものでした。

I. 僻地での深夜の星空撮影など静寂なシーン

 

■ 風防は重要

風切り音防止のため、毛で作られた風防は必須です。息を強く吹きかけても息の音が録音されない程度の風防が必要です。録音時のローカット(低音をカットする)フィルタ機能だけでは対処できません。

■マイクはさらに重要

音質に優れ、SN比も高いプロ用マイクを推奨しますが、SN比が高いマイクであればどのようなマイクでもOKです。

 


以下、参考までに、SN比が高いECM(エレクトレットコンデンサーマイク)カプセルのPrimo EM272Jについて述べます。最近瀧山が導入しテストしたものです。結論は「素晴らしいSN比」です。

● Primo EM272Jのテストについて

上記の「レコーダーが無ければ難しいシーン」のほかに、別録音の課題だった「軽量化」と「ハンドリングの悪さ」と「歩きながら拾うノイズ」の対策として、2023年10月以降、小型でSN比が高いラベリアマイクを探していたところ、海外のドクタークラスの音マニアが「高いSN比」を絶賛していたECMマイクユニットのPrimo EM272Jを見つけました。EM272Jは自分のマイク遍歴では知りませんでした。論文クラスのまともな情報は皆海外の音研究家によるものでした。世界的に有名なマイクメーカーが「自分のところはEM272Jを使っている」と開示するはずもありませんし。

EM272Jは無指向性なので、環境音を録音するには好都合です。バイノーラル録音にも向いています。日本しかも東京郊外のメーカーだったので早速2個テスト導入しました。

2024年1月、入手してすぐ配線とプラグを付け、九州への調査旅行に連れて行きました。微弱な音のシーンでのテスト録音として、風連鍾乳洞の最奥部で、水の滴る音が微かに聞こえるほど静寂な音を録りました。Zoom M3(マイクとレコーダーがセットのオンカメラ録音用32bitレコーダー)と、EM272JをZoom F3(プロ用32bitレコーダー)に接続したものとの比較を目的にしたものです。ところが自宅に帰ってレビューしたらテスト方法に大問題が。

テスト方法の問題その1

水滴が滴る微弱音を比較してみたところ、ほぼ無音と感じていた現場ですが、400Hz以下にかなりのノイズが記録されていました。現地に居るのは自分だけで、ノイズが発生するおそれのあるスマホは持ち込んでいませんから、おそらく洞窟照明のノイズでしょう。やむをえず400Hz以下をカットして比較した音がこれです。最初がZoom M3、次がEM272Jです。両方ともピークレベルを揃えていますので、ノイズの差に驚きました、

風連鍾乳洞でのZoomM3とEM272J+ZoomF3との水滴音比較

テスト方法の問題その2

しかし、このノイズの差がマイクに由来するのかレコーダーに由来するのかがわかりません。そこで、同じレコーダーでマイクを比較することにしました。レコーダーはZoom F3を使い、入力1にZoom F2(モノラル32bitレコーダー)付属のラベリアマイクを接続し、入力2にEM272Jを接続し、同時録音したものがこれです。自宅内の静かな環境で、ピーク合わせのためスマホのリングトーンを鳴らしています。結果、マイクだけの比較でもEM272JのSN比がはるかに優れていることがわかりました。

ZoomF3でのZoomラベリアマイクとEM272Jとの比較

念のため、レコーダーをZoom H1nに変えて同じ比較をしたところ、H1nの録音ボリュームを最大にして微弱音を録音すると両方とも盛大なノイズが記録され、優位な差が見られませんでした。Zoom H1nは微弱音の録音には向かないようです。

さらに念のため、新発売のZoom H1 essentialが手元に届いたので、Zoom H1 essentialでも同じ比較を行いました。結果は、EM272Jがややノイズが低い程度でした。Zoom H1 essentialも微弱音の録音にはあまり適していません。やはり「超」静寂環境の録音にはZoom F3が適しているようです。


以下、参考までに、瀧山が現在のシステムに至るまでの動画撮影におけるマイクとレコーダーの試行錯誤の遍歴について記述します。

●Audio Technicaの小型ステレオマイク

2003年導入。HDビデオカメラのシューに取りつけて使用。当時は、これでもカメラのマイクよりかなり音が良かったです。ビデオカメラのテープ走行音から離れたからでしょう。

●Rode NT4

2008年に導入。Canon 5D mark2が発売され、1台で静止画とHD動画が撮影できるようになったので、フィールド録音に向いていて音が良いマイクとして定評があったNT4を選択しました。当時、ワンマンで持ち運べるジンバルが無い時代だったので、カメラを動画用三脚に据えて、カメラシューにNT4マイクを載せてカメラで録音していました。NT4は重いマイクですがカメラに固定しているし三脚がはるかに重かったのでハンドリングは悪くありませんでした。音はもちろん満足に値するものです。

●レコーダー Tascam DR5、Zoom H4、Zoom H6、Zoom F2

2008年頃から2015年頃まで、各レコーダーが発売されるとともに順次導入しました。別録音とNT4のオンカメラ録音とでは音質がそれほど変わらず、別録音はハンドリングが悪いため、あまり使いませんでした。Zoom H6は音質は良いのですが重すぎましたし、現場では目立ちすぎました。

●Rode Streo VideoMic Pro

2015年に導入。Rode NT4は音が良かったので長く使っていたのですが、ワンマンで持ち運べるジンバル(Ronin)を導入したため、ジンバルに載せるには重くバランスが悪いRode NT4に代わる軽量なマイクが必要になり、Rode Streo VideoMic Proを導入しました。しかしジンバルに載せるとカタカタとハンドリングノイズが発生してあまり相性が良くありませんでした。

●多数のラベリアマイクやステレオマイク

この頃、Rode Streo VideoMic Proへの不満から、ジンバルに載せたカメラに使用する目的で数多くのラベリアマイクやステレオマイクを試しましたが、Rode NT4に比較すると音質が今一つでした。またハンドリングノイズも風切り音も問題でした。ラベリアマイクは軽量でジンバルとの相性が良さそうだったのですが、無指向のためオンカメラで使用するとハンドリングノイズや呼吸音や歩行音を拾ってしまいます。特に寺社の玉砂利の音が目立ちます。一方、オンカメラのステレオマイクは風防の性能が悪かったです。

 ●Azden SMX30

2016年頃に導入。海外のプロに評判が良かったSMX30を導入しました。しかし相変わらずジンバルではカタカタ前後に揺れて音を拾うことが難点でした。酷使したせいか、雑音が入るようになりました。

●Azden SMX30V

2017年頃に導入。SMX30の改良版で、電池持ちが良いこととステレオ幅を変えられることで導入しました。SMX30Vも相変わらずジンバルではカタカタ前後に揺れて音を拾うことが難点でした。

●レコーダー Zoom H1n

小型軽量なので別録音用として使いやすかったです。

● Sennheiser MKE440

2020年頃に導入。形状がよく考えられていて、オンカメラで使用してもカタカタ揺れるハンドリングノイズは発生しなくなりました。SN比も良いです。風防の性能は今一つです。

● レコーダー Zoom F2

2021年導入。Zoom F2は32bit録音ができるのですが、モノラルなのでバイノーラルなど臨場感を収録する用途には不向きでした。やはり人の声を録音する目的の機材です。

● レコーダー Zoom F3

2022年導入。ステレオの32bitレコーダーですが、マイク入力がXLRなのでファンタム電源を要するコンデンサーマイク専用です。Rode NT4やベリンガーC2をリュックの後ろに固定してステレオ録音しましたが、ケーブルもマイクもステレオビームも重く、ハンドリングは良くありませんしこのスタイルは現場で目立ちます。 3.5mmジャックのECM(エレクトレットコンデンサーマイク)を接続するには別途電源が必用ですが、電源を自作するしかない状況でした。

● レコーダー Zoom M3

2003年導入。オンカメラ用の、マイクとレコーダーがセットになった32biutレコーダーです。音が激しいシーンでも歪みなく録音できるのですが、外部マイク入力がないこと、ハンドリングノイズがかなり激しいこと、風防があまり機能しないことが難点です。

 

● 完全別録音方式へ

ここまでを総括すると、オンカメラでジンバルに乗せてのフィールドレコーディングは、ハンドリングノイズと風切り音に苦労してきたといえます。では音を別録りすれば解決するかというとそうでもなく、歩きながらの別録りはリュックの両端にマイクを取り付けるか耳付近でのバイノーラル録音という方式となりますが、ジンバル上のオンカメラマイクとは異なり常時目が届きません。藪や山中など道なき道を歩くことが多いので小枝がマイクやケーブルに絡まって激しいノイズが出たり、マイクがレコーダーごと脱落するなどのアクシデントが頻発して、別録音はワイルドな環境ではあまり良い方法ではありませんでした。

この悩みを解決するため、2023年10月にDJI pocket34を導入したのを機会に、ラベリアマイクによる別録音を主体にする方式に移行しました。上記の「レコーダーが無ければ難しいシーン」に対応できるよう、強い音にも微弱音にも対応できるメインレコーダーとしてZoom F3を使い、風に強くSN比が高いラベリアマイクを接続します。ラベリアマイクはハンドリングノイズや枝がかりが無い場所(リュック、帽子など)に取りつけます。Zoom F3とラベリアマイクの接続にはRodeから電源変換付きアダプターが発売されましたのでそれを導入しました。ラベリアマイクはSN比が高いPrimoのEM272Jをテストすることとしました。サブ録音はZoom H1nを使用して同型のラベリアマイクを接続します。

2024年2月現在、上記のマイクテストの結果のとおりPrimo EM272Jマイクは非常に優秀なSN比で、満足できるものでした。サブ録音のZoom H1nはレコーダー自体のノイズが大きく、Primo EM272Jを使った微弱音の録音には適していませんが、小型でもあり通常の録音用には適しています。ただし32bitではないので録音ボリュームの管理が必要です。現地は音の変化が激しい場所がほとんどなので、これがかなり厄介です。

● レコーダー Zoom H1 essential

2024年2月導入。Zoomから新発売された32bitレコーダーで、Zoom H1nの後継機です。発売日に2台入手してテストしました。ノイズが少なければ、Zoom F3を使わなくてもZoom H1 essential 2台体制で行けるかなとの希望でしたが、Primo EM272Jマイクを接続して微細音をテスト録音してみると、上記のとおりZoom H1 essentialはあまり低ノイズではなく、Primo EM272Jの性能をフルに引き出せませんでした。

結果、今後はZoom F3がメイン、Zoom H1 essential 2台がサブとなります。レコーダーは多いほど録音ミスが少なくなりますので3台プラスPrimo EM272Jでの別録音(撮影中の常時録音)とガンマイクでの随時録音体制となりました。これが2024年2月末の現状です。

 

 

 

 

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