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造り酒屋でまちおこし 造り酒屋をまちのウェルカムセンターに

Dec.2008 瀧山幸伸



 全国津々浦々、美しい町には必ず造り酒屋がある。造り酒屋は、建物も蔵も塀も、ほとんど全てが和風の景観と情緒を保っている。経済的に難しく廃業した醸造家も多いが、朽ちたり壊されたりするにはしのびない。この施設をまちおこしに利用しない手はない。まちおこしと街並の核として造り酒屋を大切にし、施設を活用する提言をしたい。

 酒蔵はひんやり冷たく、静かで暗く天井が高いので癒される。ギャラリー、工房、パフォーミングスペース、レストラン、バーにもってこいだ。当然ながら一般的に周囲には名水が湧き出ているので、名水巡り名水販売も期待できる。酒樽、甕(かめ)など、都会から来た人や外国人が注目するデザインに優れた備品が多い。煙突は素敵なランドマークである。
 日本酒は奥が深く、勉強や利き酒などで来訪者の滞在時間を延ばし、宿泊需要も喚起する。酒精は美肌にも良いので、飲酒を好まない御婦人にも似合いそうだ。さらに粕漬けなど加工できる産物の幅が広く、辛党甘党老若男女揃って楽しめる。それもあって新酒体験などのリピーターも多い。
こうした特徴を活かし、全国の酒蔵を巡り、非市販品を味わう友の会制度のような大人のスタンプラリーシステムが開発されると面白い。 
 酒蔵でしか飲めない酒は、量が少なく出荷できないもの、品評会用に採算度外視したもの、アルコール無添加のため長距離輸送できないできたてどぶろくなど、愛好者にはたまらない貴重なものだ。子どもには酒蓋集めが面白い。希少な銘柄の一升瓶のフタをゲームカードよろしく収集交換するものだ。 
 酒蔵を利用した有名な成功例には、小布施の枡一酒造が改造した「蔵部(くらぶ)」というレストランバーと付近一帯のウェルカムセンター化がある。あまり知られていないが、ポテンシャルがある例としては、関東近辺のほとんど全ての酒蔵があげられる。例えば街並茨城県小見玉市の旧小川町。街並の専門家にも知られておらず、ほとんど忘れ去られているが、緩やかな坂を持つ街並が美しい。その坂上に小さな造り酒屋があり、千葉県佐原の伊能忠敬を生んだ伊能家から分家した伊能家が酒蔵を守っている。建物や路地がたいそう美しく、東京に近く鉄道の便もあるのに観光で訪れる人もいない。このようなところで酒蔵をからめたまちおこしと街並再生がなされることを願っている。
かつての酒蔵は雑菌の問題などで一般者を排除していた時代もあったが、何十年何百年と麹菌が住み着いている酒蔵では実はそれは問題ではなかった。多くの造り酒屋はマーケティングには疎かったが、ここは考え方を変えてダイレクトマーケティングも活用し経営上の相乗効果を追求してはどうか。小布施の枡一酒蔵でも全国向け直販を展開している。あるいは気の利いた高級消費者志向の事業者が一手にマーケティングを行う頒布会なども考えられるだろう。
 既に廃業した酒蔵を活用する例としては桐生の有鄰館などがあるが、これは次善の策である。できることなら酒造りを復活させることとセットのウェルカムセンター化を推進させたい。後継者難、資金難で酒蔵の存続が難しくなったのだから、そのような休眠蔵には新しい人と資金を注入する必要がある。そのためには先に述べた日本酒を愛する友の会的な、愛好者によるNPOファンドを組成し、酒造りにチャレンジする若者に蔵を預けるような仕組みづくりも期待される。


その他参考例

岐阜県中津川市 はざま酒造 酒遊館
建物にはうだつが上がり、格子と白壁のコントラストが印象的。
蔵 は天保時代とのことだが、店のある館内も相応に古い。天井が高く、梁を現し、庭には池を配し、潤いを演出している。圧巻は館内の仕込み水。静かに湧き、館 内に凛とした空気を醸し出している。昔の道具を展示し、利き酒コーナーも設けているので、銘酒「恵那山」「五味饗宴」、あるいはここでしか販売していない 限定醸造酒をテイスティングしながらゆっくりと寛げる。酒蔵見学も楽しめる。

茨城県桜川市真壁 村井酒造
城下町真壁は古い蔵があちこちに残る蔵の町。酒蔵も街並に調和する。

長野県立科町 茂田井
二つの小さな酒蔵付近。映画「たそがれ清兵衛」のロケも行われた。