MONTHLY WEB MAGAZINE Apr.2012
■■■■■ 3月の訪問地から 瀧山幸伸
■■ さきたま古墳群
さきたま古墳群はいつ訪問しても心地よい。古代人のまほろばは概して見晴らしが良く安全な高台にあるため、今日まで災害に会わずに史跡として残っているのだが、さきたま古墳は近年の整備の甲斐あって訪問する度に美しさが増している。
教科書に登場する鉄剣が出土した稲荷山古墳に登ってみると、葬られた王の誇らしい気持ちが理解できるような気がする。
■■ 四国
3月末に四国を駆け足で巡った。高知は桜の盛りで、夜の高知城や暮れなずむ土佐国分寺の桜は見事だったが、今回の主目的は積み残した文化財、新しく指定された文化財を88個所の巡礼道が世界遺産に登録されて訪問者が多くなる前に調査しておくことだ。
箸蔵寺は金刀比羅宮の奥の院にあたる神仏習合の地で、讃岐山地をまたいだ反対側にある。金刀比羅宮以上の急峻な山の上に鎮座し、大自然に囲まれた建築物群の迫力が素晴らしい。四国霊場88か所ではないので、訪問者もそれほど多くないが、かつてはご利益を求めて江戸東京からの講参りも賑わっていた。
金刀比羅宮はいつ行っても賑やかで現世的だが、金毘羅信仰は中国でもあるそうで、中国人、韓国人、日本人の老若男女仲良くお参りしている姿がほほえましい。一方、書院庭園は静かで落ち着く。書院の応挙の虎はネコそっくりで、これまたほほえましい。
新しく重要文化的景観に指定された中土佐町の久礼は四万十川流域の文化を代表する港町で、かつては林業資材(炭など)で賑わった。もちろんカツオは本場。街のあちこちの庭先で魚をさばいている光景が懐かしい。特に大正町商店街はにぎやかだ。小さな商店街だが、魚屋でみつくろった新鮮なヒラメ、太刀魚、地カキなどを向かいの食堂でご飯とみそ汁をオーダーしていただくことができる。カツオは全く臭みが無く、表現できないほど美味。それだけのために訪問する価値がある。
同じく中土佐町の山間部、大野見地区は、清流四万十川がぐるりと弧を描くように回り込んでおり、四万十川上流域として重要文化的景観に指定されている。沈下橋や石組の頭取口(堰)、棚田、段畑など、この地域独特の農業景観が美しい。
清流といえば、四万十川をさしおいて日本一となった北隣の仁淀川が注目されている。佐川町はその中流に位置する物資集散の伝統的な街並で、しっとりと落ち着いた街並だ。牧野富太郎の出身地、ナウマンゆかりの地質学の地としても名高い。竹村家は酒蔵「司牡丹」の醸造家で、最近重要文化財に指定された。10代目当主と奥様は素晴らしいホスピタリティの方だった。また、乗台寺、青源寺は高知市の竹林寺とともに高知三名庭と呼ばれ、寺の方も大変親切で、山水式庭園の幽玄な雰囲気を味わうことができる。
佐川の町をあげてまちおこしに取り組んでおり、役場の人はもちろん街ゆく人は皆親切でおおらかだ。私は以前から造り酒屋でまちおこしを行うことを提言しているが、この街は成功するように思える。
その仁淀川の上流に位置する仁淀川町は桜と段畑の集落で有名だ。桜には少し早かったが、ツボミがヒョウタンに似ているひょうたん桜は県の天然記念物に指定されており、山の上の桜越しに見下ろす谷底の集落は3D映画のように見える、まさに天空の村と呼ぶにふさわしい。これらの集落が重要文化的景観に指定されないのが不思議なくらい日本有数の美しさだ。
愛媛県側の岩屋寺は仁淀川の源流地帯に聳える岩峰に宿る霊場だ。全くお勧めしないが、命の危険を感じながら奥の院の岩屋を登り狭い頂から石鎚山を遥拝すると、新たな命を授かったような新鮮な気持ちになる。足を踏み外せば命を捧げることになるが。
高松の特別名勝栗林公園は桜には早すぎたが、湧き出る清水が暖かく、アヤメが咲いていた。
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