JAPAN GEOGRAPHIC

Monthly Web Magazine Dec. 2017

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■  今、そこにある危機 酒井英樹

古い町並みを歩いていると緑色の銅板が目立たぬように壁に貼り付けてあるのを見かけるようになった。この銅板は文化庁が発行するもので取付けられた建造物が「登録文化財」であることを示すものです。

平成8年(1996)に開始した登録文化財制度は急激な社会変化に伴い失われていく貴重な近代の建造物の保護にあたって重要文化財指定制度のみでは不十分であり、より緩やかな規制のもとで、幅広く保護の網をかけることの必要性から生まれた重要文化財を補完する制度です。建築後50年以上経った近代建造物が対象です。

平成8年から現時点(平成29年12月1日)までの20年あまりに登録された貴重な建造物は11948棟に上ります。そして現時点での登録文化財建造物の総数は11502棟になります。その差446棟が登録文化財を抹消された建造物です。

大阪城天守閣(大阪市 1997年登録) 

 

フランソア喫茶室(京都市 2003年登録)

明治村帝国ホテル中央玄関(愛知県犬山市 2004年登録)

革島医院(京都市 2005年登録)

抹消された建造物のうち半数以上の238棟が国重要文化財や地方自治体の文化財の指定を受けたことで、登録文化財を解除されたもので、現存しています。

金家住宅洋館(秋田県北秋田市 1999年登録、2008年国指定重要文化財指定のため抹消)

香雪美術館洋館(神戸市 1998年登録、2011年国指定重要文化財指定のため抹消)

築地本願寺本堂(東京都中央区 2011年登録、2014年国指定重要文化財指定のため抹消)

賓日館(三重県伊勢市 1997年登録、2004年町指定文化財指定のため抹消、現国指定重要文化財)

残り207棟は残念ながら存在していません。

この内27棟が火災による焼失による抹消です。20年間に登録文化財(総数約1万棟)の焼失数27棟という数字は、東日本大震災による焼失の7棟を除いても、同じ期間の国指定重要文化財(総数約5千棟)3棟に比べて3倍ほど多い。

だが、ここで危機として問題としているのは、最後に残った181棟です。原因は建物の解体です。登録文化財は重要文化財に比べ緩やかな規制であり、現状変更に国の許可が必要な重要文化財に比べ、通知さえすれば現状変更(解体)が可能になっています。

そのため、解体されて抹消された数は重文が0であるのに181棟に上っています。しかもここ数年の解体が多く、2015年からの3年間で半数以上の100棟(2017年は24棟)に上ります。

解体の理由はいくつかありますが、多くは維持修繕管理費用がないためとのこと。老朽化した建造物の修繕に多大な費用を要することが原因で取り壊されている。中には旧加納町役場庁舎のように自治体所有の建造物も含まれている。

旧加納町役場庁舎(岐阜市2005年登録、2016年解体)

平楽寺書店(京都市1998年登録、2017年解体)

1928年頃建築の鉄筋コンクリート造り3階建て 外観はトスカナ式の柱が特徴的であった。

マンション建設が進む平楽寺書店跡地(2017年11月撮影)

地下鉄烏丸御池駅すぐ近くの京都市内の中心地にあった平楽寺書店の跡地はバブル期を彷彿させるマンション建設ラッシュの波に飲みこまみれ、僅か1か月余りで解体され瞬く間にマンション建設現場へと変わってしまい、風景を一変させてしまっている。

少しでも多くの貴重な建造物が後世に生き残ることを祈りながらも、1つでも多くの映像記録を残せるようにしたいものだと改めて感じた・・。

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