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JAPAN GEOGRAPHICMonthly Web Magazine Feb. 2017
■ 小豆島の冬 瀧山幸伸
2017年1月の後半、4日かけて島を調査した。小豆島は、東側の小豆島町と西側の土庄町に分かれ、日本19位の大きさだ。
観光的に小豆島といえば、オリーブ、寒霞渓、醤油、そうめん、二十四の瞳、エンジェルロード、等々で、実際の観光広報も訪問客もこれらを目的地としている。オリーブ園にある道の駅で観光協会によるかなり長時間のアンケートヒアリングを受けたが、内容はこれら既存観光地に関するもので、新規の目的地や観光客を開拓する発想は見受けられなかった。特に文化的な対象が薄いように思われた。
文化財はまさしく地域の宝物。リピート率が低い団体若者志向から脱却し、埋もれた文化財を再評価すれば大きなポテンシャルが生まれるだろうに、「冬はオフシーズン」との思い込みから、島全体が全くの閑古鳥状態だった。
そうは言っても、オリーブも醤油もそうめんも映画も文化に関するものであるし、さらには美しい中山の棚田、農村歌舞伎の舞台、まるでギリシャ野外劇場そっくりの池田の桟敷、島内だけの八十八か所遍路、歴史的建造物など、多くの文化財を擁している。その数は2016年12月に訪問した屋久島よりも圧倒的に多い。例えば映画にもなった小説「八日目の蝉」で中山の棚田や伝統行事、歴史的な街並などの文化的景観が取り上げられたことは喜ばしい。
冬の小豆島はオリーブのイメージに違いかなり寒くいが、寒くても問題ない観光客とリピーターを増やす必要がありそうだ。寒さゆえに愛くるしい「サル団子」も見られる。ここのサルは性格がおとなしく人懐っこく、県天然記念物に指定されている。午後三時以降に見られる確率が高いとの情報を得て訪問したが、現地には私たち夫婦と、徳島からやってきた中年ご婦人カメラマンの三人だけだった。雪が降りしきる中での夕日の輝きがこの世の物とも思えぬ美しさだった。安易な団体客向きではないが、感動の大きさは計り知れない。
大坂城石垣石切丁場跡の遺跡は、世界的な建造物の大阪城石垣のルーツであり世界レベルで特筆に値するが、現地は整備が遅れ廃墟に近い。大阪城のある大阪市と連携を強化する道もあろうし、歴史ファンを魅了する道はありそうだ。
歴史ファンということでは、小西行長支配時代のキリスト教遺産も完全に忘れられている。高山右近が潜伏していた屋敷跡は探し出すのも大変だったし、説明版もない。まだ文化財にも指定されていないようだ。アニメファンばかりでなく、高山右近の軌跡や殉教キリシタンの遺跡巡礼など、新しい訪問客の発掘もありえよう。
小豆島特有の「シシ垣」(イノシシ除けの構築物)は、総延長120Kmに及ぶといわれ、ミニチュアの万里の長城のようだが、観光的には完全に埋もれている。
まだまだ多くの文化財があり、どれも非常に魅力的である。要するに、小豆島には多くの宝が眠っており、美術関連で賑わう隣の直島や豊島とは異なる道が開けているように思えた。直島や豊島とは異なり、スポンサーも大型投資も不要だ。