JAPAN GEOGRAPHIC

Monthly Web Magazine June 2021

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■■■■■ Topics by Reporters


■ 島根の名庭園 二題 瀧山幸伸

 

津和野町 旧堀氏庭園

福岡県の伊藤伝右衛門邸、大分の旧成清家日出別邸など、鉱山王が接待のために作った建物と庭というだけでうがった見方をされがちだが、それぞれ奥深い味わいを持っている。

今回も前回同様、他に見学者はいなかった。

この庭園の素晴らしさは立地環境が大いに貢献している。

背後の山のカエデなどの修景木と流れ落ちる滝の水音が主役であることだ。

石組や刈込、池の鯉などは過度な主張をせず脇役を心得ている。目と耳に心地よいことこの上ない。

夕暮れにこの座敷で一献できれば人生最高の至福の時が過ごせそうだが、鉱山王の客人ではないのでもちろんそれはかなわない。

 

増田市 医光寺庭園

この庭にも2時間滞在したがほぼ貸し切りだった。

市街地に立地し、水音もないのに居心地が良い。

雪舟が作庭した四大庭園、医光寺庭園、同じ益田の万福寺、山口県の常栄寺、福岡県の旧亀石坊、いずれも負けず劣らず雪舟的な宇宙観を呈する。宇宙観とはずいぶん誇張した表現だが。

かつて複雑系という言葉が流行ったが、その意味を理解している人は少なかった。人それぞれ勝手に解釈しているに近い。

雪舟の庭は浜の水際線や石の配置が絶妙なフラクタル造形で、複雑系を示唆する好例だと思うのだが、悲しいかな自分にはそれを証明する技術が足りない。

 

 

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