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Monthly Web Magazine June 2016

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■■■■■ 祭礼時の特殊神饌について 中山辰夫

5月は各地で祭りが行われました。5月18日に日光東照宮で行われた江戸時代から続く「百物揃(ひゃくものぞろい)千人武者行列」には、約1200名の市民らが参加し参道を練り歩いたと、大規模振りが報道されました。反面、おらが村の祭りといえる小規模で素朴な祭りも各地で行われました。

ところで、祭礼において神に供えられる食膳は神饌といわれ、これには調理を施さずに生の状態で調整される「生饌」と、火等を使用して調理を施し調整される「熟饌」の二種類あります。

本来神饌は各神社が鎮座する地の生産・収穫される素材をベースに調進されるため、その土地独特のものでした。しかし1875(明治8)年「神社祭式」の制定でその土地独特の外では見られない神饌は原則的に廃止されたようです。

だが連綿として続けてきた特別に由緒のある神饌は「特殊神饌」という形で存続がはかられ、現在でも多くの神社で特殊神饌が調整されています。

栗東市にも、祭礼の世話役である「当番」「頭屋」等と呼ばれる人々によって秘儀として守り伝えられてきた特殊神饌が五件あります。

出庭神社→鏡餅(小豆まぶし)・三輪神社→ドジョウとナマズのナレズシ・菌神社→ジャコのナレズシ・小槻大社→ミゴクとキンカン・日吉神社→濁酒

特殊神饌の中で、出庭神社と三輪神社、菌神社はその調整方法や伝承形態がほぼ整えられています。

祭りの開催日が重なるためすべて見ることは出来ません。一部紹介に引用を含みます(栗東歴史博物館発行資料)

出庭神社 開祖:1092(寛治6)年 祭礼:5月1日

神饌—小豆をまぶした鏡餅・・・別名「鏡搗き祭り」とも呼ばれる。村娘も活躍し、素朴な祭り風景が見られた

    

三輪神社 744(天平14)年 良弁が草創 祭礼:5月3日

神饌—ドジョウの鮓(なれずし)・・・・引用

    

ある時この神社に白い蛇が現れて村に疫病が広まったことから、これを鎮めるべく人身御供の代わりにどじょうのすしを供えることになったといわれる。

神饌にはナマズとドジョウの鮓の他に、「ミゴク」と呼ばれる御飯、豆腐、小芋とタラの串刺し、カブラ、大根の賽の目切り、大豆、タックリ等

この祭礼では、神饌の鮓が大皿に盛り付けられ、見物客を含む祭礼の一般参加者に振舞われ、食を共にします。

来年は祭りに参加して内容をつかむつもりです。

菌神社(くさびらじんじゃ) 637(欽明9)年 勧請の伝承をもつ古社 例大祭:5月5日 菌とは「きのこ」のこと。 「きのこ」を祀る珍しい神社。

 

神饌—ジャコのナレズシ

    

神輿がお旅所へ渡御している間に、氏子の人々の手で添え物が皿に並べられ、直会の準備が行われる。直会では見物客にも振る舞われる。

この地域も新興住宅が多く、その子たちも祭りに参加している。湯立行事に見惚れ、ビックリで終わる。

小槻大社 古代豪族小槻山君の祖神を祀る式内社 例大祭:5月5日 本殿は国重要文化財 

神饌—ミゴクとキンカン・・・・引用

    

例祭は、県選択無形民俗文化財に指定の「花笠踊り」と呼ばれる華やかな祭礼芸能が出ることで有名ですが、祭礼の際に神前に供えられる神饌が独特です。

野上神社—濁酒(どぶろく)祭 日吉神社の境内社 祭礼は6月1日に近い日曜日(今年は5月21日)

神饌—醸されたドブロク

     

神事終了後は直会に移り神酒が振舞われる。地元の人は勿論、見学者も一体となって祝う。今年は東京から女性3名が加わり、例年になく映えたとのこと。

祭りは、その後に控えている最大の共同作業「田植え」をスムーズに行うため、村人間のコミユニケーションを親密にする媒介の働きをし、祭礼終了後に神社下流の村々に対して行われる用水の通水をしらせる役割も持っていたとされます。

神饌に使われる材料は、村人の生活の生命線だった用水の恵みを象徴し,調製し供饌する当番はその年の豊作を祈願する役を担っていたようです。

連綿と続けられている行事を支えているのは次世代への着実な伝承があるからで、住民間の深いつながりと熱意が感じられました。

湖国滋賀県は、琵琶湖の魚や貝を採集する水産業を発達させ、そして独特の食品を生み出しました。その最たるものが「フナズシ」で代表されるナレズシです。

フナズシは御飯を発酵させてつくるフナの熟鮓で、千年以上の歴史を持つ保存食、古くは「延喜式」の中に「鮒鮨」の名称が見られます。日本の鮓の原点・原型といわれる所以です。栗東以外の滋賀県内の地域でも行事の際に例外なくナレズシ供されます。

下新川神社(守山市) 国選択無形民俗文化財 すし切りまつり

 

外来魚に迫害され、琵琶湖固有の淡水魚が減少傾向にあります。フナズシの「ニゴロブナ」も同様で、入手が難しくなっています。

昨年より、県では琵琶湖の特徴的な魚介類である、ビワマス、ニゴロブナ、ホンモロコ、イサザ、ゴリ、コアユ、スジエビ、ハスの計8種を使った新しい食のブランド「琵琶湖八珍」を立ち上げ、湖国料理文化と湖の未来を守ろうとする動きが始まりました。今後に期待したいです。

蛇足ですが、伊勢神宮の神饌を記します。

「神饌は、辛櫃(からひつ)の中に有る折櫃(おりひつ)に納められる。まず御箸。そして鮑、干鯛(ひだい)、塩、水、飯三盛。飯は蒸した強飯(こわいい)で、米、塩、野菜は自給自足。そのほか、伊勢海老、鯔(ぼら)、乾栄螺、乾?(ほしむつ)、乾鮫(ほしざめ)、海参(なまこ)、昆布、乾鰹、大根、柿など。海川山野のものに、清酒や十枚の餅三盛。季節によっても違いがある」 (引用:ひととき より抜粋) 

まさしく、伊勢志摩の海の幸、山の幸を召し上がって頂いているようです。

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