Monthly Web Magazine Dec. 2020
■ 危機遺産を救うシステム 瀧山幸伸
文化財保護法の枠組みのもとで伝統的建造物群保存地区に指定された白川郷と五箇山は、ユネスコ世界遺産に指定されたことで知名度が上がり、多くの訪問客を迎えて地元経済にも貢献している。
重要伝統的建造物群保存地区は、 今年岡山では矢掛と津山城西が指定される予定なので再調査に出かけた。指定されれば保存修復などに多大な補助金が得られ、街並崩壊の危機から救われて知名度が上がるとともに経済の活性化も期待できるだろう。だが、同じ岡山にある歴史的文化的な足守の街並はこの枠組みに入っていないので歴史好きか街並好きなど目が肥えた人を除き訪問客は少ない。
既に文化財保護法のもと保護されている文化財であっても予算の問題があり放置されている例はたくさん見られる。ましてや全国に散在する潜在的文化財は存亡の危機に直面している。将来その価値が認められるきっかけは、発掘されたり、天変地異や百年千年の超長期を経て希少性が増したり、人々の価値観が変化したり、学術研究が進歩した売位などだが、それまで生き延びられるかが大問題だ。
ユネスコ世界遺産には危機遺産の指定という制度がある。日本の潜在的文化財は基本的には行政に救われなければ消滅してしまう。一部の専門家が保存を呼び掛けたりはするものの、行政の網から漏れた潜在的文化財を広く国民あるいは世界の共有価値として保護する枠組み、すなわち日本だけではなく世界レベルでのフィールドミュージアム構想の実現は甚だ遠い。潜在的文化財の調査発掘、リスト化と資料保存(アーカイブス化)、保存計画の立案と実施、必要なファンドの設立と維持拡大など、やるべきことは非常に多いのだが、一部の好事家に救われて残された美術品や三渓園などを除き、経済的価値を見出しにくい、あるいは文化的価値が共有されづらい潜在的文化財、例えば歴史的建造物、文化財埋蔵地、史跡などはほとんど救わないという構造的な課題がある。
だがこれを 嘆いていても事態は動かない。我々のウェブページは毎月世界中から多くの閲覧があり、バーチャルミュージアムとしては一定の評価を得てきているので、幅広く文化財などを調査してきた我々自らが率先してそのような枠組みを作る声がけをするべきではないかと思っている。賛同いただける方はぜひボランティアやファンド組成などできる範囲での活動に協力をお願いしたい。
■ 今年の紅葉狩り 大野木康夫
このところ、毎年、紅葉の写真を撮りに行っていますが、今年の京都近辺の紅葉は、色づきがよかったと思います。
11月20日の風雨で、いつもより早く紅葉の盛りを迎えていたところは一気に散ってしまいましたが、遅くに色づいたものは、12月の中旬まで楽しむことができており、全体としては長く楽しむことができました。
11/8 鍬山神社
丹波霧の撮影に行ったついでに寄りましたが、早くも盛りを迎えていました。
11/12 清滝、神護寺、西明寺
いずれも色付きが良く、特に神護寺は真っ赤に色づいた木々が目立ちました。
11/14 三室戸寺
人も少なく、穴場ともいえるところですが、紅葉にも力を入れておられ、見事な色づきでした。
11/15 奈良公園
紅葉を撮っているのか、鹿を撮っているのか、建物を撮っているのかわからなくなりますが、いろいろな樹種がそろっていて、長く楽しめるようです。
11/17 梅小路公園 朱雀の庭ライトアップ
人が少なく、遅い時間であれば三脚も使えるので、まあまあ満足できましたが、盛り過ぎでした。
11/21 善峯寺、楊谷寺
善峯寺は3連休は朝6時半から早朝拝観をされていました。
マジックアワーの紅葉を楽しむことができましたが、露出が難しく、画質が悪くなってしまいました。
楊谷寺の上書院の眺めは、期待どおりの見事なものでした。
11/22 毘沙門堂
さすがに連休で人が多く、長居できませんでした。
11/24 高台寺、南禅院、南禅寺、曼殊院、八瀬もみじの小径、瑠璃光院
高台寺ではツアーの早朝拝観が行われていましたが、9時の拝観開始を待っているとき、2~30歳くらいのアマチュアカメラマンがツアー会社の添乗員さんに向かって、「無人の庭園を撮りたいのに早朝拝観の時間がかぶっているのは迷惑だ。」と悪態をついた挙句、「また来年にする」と言い捨てて帰ってしまい、並んでいる拝観者の顰蹙を買っていました。
東山は西側の山麓になるので、本来は写真は昼以降でないときれいに撮れないことも調べず、あげく、境内はほぼ無人の状態でしたので、何をしに来たのかと思ってしまいます。
こういう人が増えると、撮影に関して寺側が態度を硬化することにもなりかねないと思いました。
南禅院は例年どおり、色づきと一緒に散り始めていましたが、修学旅行生が感動していました。ここも常に日陰なので、撮影が難しいところです。
南禅寺は外国人観光客がいないので、例年よりも随分すいていました。
曼殊院は早くから色づいた庭園の紅葉が長持ちしているようでした。
八瀬のもみじの小径はマジックアワーで思ったよりもきれいでした。
瑠璃光院は完全予約制で、少ない人数でじっくり楽しむことができました。
机のリフレクションの撮影では、カメラを机に置いてもいいのですが、本当はもう少し上から撮る方が、映り込み部分が増えるのかもしれません。
11/28 東福寺
今年から一般向けに行われた予約制の夜間拝観でしたが、東福寺の紅葉のピークは11/19で、20日以降は早く散っていったので、今一つとなってしまいました。
ライトアップされるのは、通天橋と本坊の間で、臥雲橋の方はされませんでした。予約者以外をコントロールできなくなるからかもしれません。
12/8 清水寺、糺の森
清水寺は12/3に舞台の工事が終了し、囲いが撤去されたので訪れましたが、全体的に色づいたままの葉がなかなか散らずに残っていて、この時期になっても見ごろと同じような紅葉を楽しむことができました。
京都で一番遅い紅葉で知られる糺の森も盛りを迎えていました。
この時期は修学旅行生が大挙して訪れていたようでした。
毎年、色づく時期や色合いが変わるので、興味が尽きません。
■ 持宝院庭園 野崎順次
私にとって倉敷市児島味野地区は晩年になってから縁ができた町である。当初、商店街はほとんどの店がシャッターを閉め、老人と犬だけが目立っていた印象があった。今ではジーンズによる町おこしが順調に発展し、児島ジーンズストリートに訪れる観光客が増えてきた。
その一角に御室派真言宗の持宝院がある。いつもお盆に来ていただいているお寺さんだが、数年以上境内に入ることはなかった。それで気が付かなかったのだが、新たに庭園が完成していた。
山門をはさんだ南北の石組庭園で、京都の著名な作庭家北山安夫さんの作品である。北山さんは建仁寺や高台寺の庭をはじめ、海外でも日本庭園を手掛けてきた。また、NHK「プロフェッショナル
仕事の流儀」に出演(第41回2007年2月15日放送」し、最近では大河ドラマ「麒麟がくる」で、明智光秀の館の庭をつくった
山門
南庭、大きめの石を埋め込んだ州浜の向こうに、豪快な三尊石組がある。
左手(北側)の石の壁に挟まれた道が三尊石組方面へ
北庭、まず白砂の掃き目と横たわる石が目を引く。
累々たる巨石群の中に観音様への道が
中核部分、巨大な船石の向こうに中心石
先代のご住職の時代から集められた数々の石が並ぶ。
前回まで原始蟇股~板蟇股の遺例を時代順に並べました。今回からは「透かし蟇股」を年代順に並べることにします。
■ 記憶のタイムカプセル~半世紀ぶりの訪問~ 酒井英樹
令和2年もあと1か月になった・・本来なら東京オリンピックも開かれ盛り上がったであろう・・この年・・。
2020年最後の最後のWEB-MAGAZINEの題材は、
母のお中で迎えただけで映像でしか知らない・・前回の東京オリンピック・・
ではなく・・大阪で生まれた自分にとって・・ちょうど50年前に開催された国家イベントの「大阪万博 EXPO'70」を選んだ。
大阪万博EXPO'70は大阪北部の千里で開かれたアジア最初の国際博覧会(万博)。
現在は、その跡地は万博記念公園として残されている・・。
WEB-MAGAZINE 2020 8月号で紹介した大阪の南のシンボルの1つ「づぼらやのフグ提灯」(現在は撤去されています)・・。
しかし、大阪全体で言えばやはり「大阪城天守」とEXPO70のシンボルともいえる「太陽の塔」の2つが追加される。
そしてちょうど今年、大阪万博EXPO'70の50周年を記念してか・・「太陽の塔」が登録文化財(建造後50年以上の建造物が対象)に登録された。
太陽の塔
大阪から西に中国自動車道を通ると必ず見える太陽の塔は、岡本太郎がデザインした高さ71mの鉄骨・鉄筋コンクリート製の巨大オブジェ・・。
未来を象徴する頂部の「黄金の顔」、現在を象徴する正面の「太陽の顔」と過去を象徴する背面の「黒い太陽」の3つの顔を持つ。
黄金の顔
ステンレス製(当初は鋼製、修復時に耐久性からステンレスに)
直径10.6m
太陽の顔
繊維強化プラスティックの下地と発泡ウレタン、コンクリート吹き付け、樹脂塗装の表面仕上げ
直径約12m
黒い太陽
黒色陶器(信楽焼)タイル貼付
直径約8m
誰もが一度は見たことがあるはず・・、しかし内部は???・・ほとんど知られていない。
それもそのはず・・大阪万博EXPO'70で公開されてから50年近く非公開であった。
内部の展示物「生命の樹」は全く手つかずのまま朽ち果てていたが、近年復元が完了し公開されたので50年ぶりに太陽の塔を訪れた。
入口に入ってしばらくすると第4の顔といわれる「地底の顔」が出迎える。
地底の顔
直径約3m
大阪万博EXPO'70終了後撤去され、オリジナルは現在も行方不明。
内部公開にあたり、当時の資料より復元
そして階段を上ると高さ41mの「生命の樹」の根元に・・。
カラフルな原色の樹の幹や枝に数多くの生物模型が取りつけられ、アメーバーなどの原生生物からハ虫類、恐竜、哺乳類・・古代から人類誕生までの生命の進化の過程をあらわしている。
生命の樹
残念ながら写真撮影は1階のみの許可
「生命の樹」を見ていて既視感はあった・・50年前・・記憶では亡き父に連れられ入った覚えがあるが・・何か違和感があった。
当時若干5歳の子供が階段を上ってみたのだろうかという疑問・・しかし今回上るにつれ・・当時の記憶がよみがえってくる・・
当時は「エスカレーター」で昇って・・太陽の手から出るようになっていたことを思い出しその景色が目の前に現れた。
エスカレーターで空洞の手から大屋根に出るようになっていた。
そういえば大阪城の地下に大阪万博EXPO'70を記念して5千年後に開けるタイムカプセルが埋設されている。
私にとって今回の太陽の塔の内部訪問は、時と共に次第に薄れていっていた50年前の記憶をよみがえらせるタイムカプセルそのものであった。
■ 鳥の博物館 川村由幸
我孫子市の運営する「鳥の博物館」に行ってきました。
日本で唯一の鳥専門の博物館です。この博物館が設立されたきっかけは山科鳥類研究所が1984年に我孫子市に移転したことで、博物館は1990年に開館しています。今も二つの施設は隣接しています。
この博物館の場所は水質悪化で悪名高い(最近は随分と改善が見られるのですが)手賀沼のほとりでまず手賀沼の鳥たちの展示から始まります。
水質悪化だけが原因ではないでしょうか、昔見ることが出来、今は手賀沼では見ることが出来なくなった鳥たちの紹介もありました。
そこから先はたくさんの鳥の剥製展示が続きます。
なんでもこの博物館は日本鳥類633種の約6割に当たる385種の標本を収蔵しているそうです。来年の1/Eまでそれら全ての収蔵品が展示される特別企画が開催されていました。
しかし、ガラス張りの展示品の撮影は厄介です。ガラスに周囲が写りこむを防げません。ガラスにカメラレンズを付けて撮影すれば写りこみは防げますが、狭い範囲しか撮影できないことになってしまいます。
言い忘れましたが、ここは70才以上は無料、もちろん私は無料です。
もちろん、剥製標本だけでなく、骨格や鳥が飛べるしくみ等の展示もあります。
絶滅した鳥や絶滅しそうな鳥の展示もありました。
日本人にはおなじみのトキ、一度絶滅し中国の力を借りて復活の過程にある鳥です。山階鳥類研究所が発見したヤンバルクイナも絶滅の危機にあるのでしょう。そうだ、ヤンバルクイナ、見逃してます。
動かない剥製は、一羽一羽の鳥をじっくりと観察できます。とてもうつくしいものです。
1月末までにもう一度訪問し、一羽一羽をもっとゆっくりじっくりと見てみたいと思っています。
■ 今年の紅葉 田中康平
コロナもあって今年はそれらしい紅葉見物には殆ど出かけなかった。強いてあげれば雄淵雌淵公園くらいだろうか。佐賀県の嘉瀬川中流に作られた公園で、植えられたイロハカエデは数は多くはないが川をバックにいい感じで紅葉が見れる一角がある。
福岡市内では紅葉のスポットになっている油山の紅葉谷にも出かけてみた。例年は11月中はもっていたように思っていたが、11.3はいい感じだったものの11.21はもうすっかりといっていいほど葉を落としていた。今年は紅葉の進みがいつもより少々早いようだ。紅葉の見頃予想はその場所の9月の平均気温から簡単に算出できる式(*)が気象庁から公けにされていて結構使える(関東地方用の式としているが九州でもそえなりに使える)。温暖化もあるが今年は9月の気温が低めで推移しているということなのだろう。
紅葉は忙しいが、冬桜はのんびり見られていい。近くの公園の10月桜が11月半ばには満開になって赤く色を変えた木をバックに美しい。色々な秋がいい。
* y=4.67*T-47.69 y:10月1日からの通算日数、紅葉見ごろ T:その場所の9月の平均気温℃
出展:https://www.jma.go.jp/jma/press/0709/27a/koyo2007.pdf
写真は 1-7:佐賀の雄淵雌淵公園(11/18) 8-10:福岡市の油山紅葉谷の風景(8,9:11/3,10:11/21)福岡市城南区の西の堤池公園の10月桜(11/26)
■ 看板考 No.94 「つとっこ」 柚原君子
所在地:長野県南木曾妻籠宿内
柿の字の右側は『市』ですが、元の字は『柹』。右側の字は「し」と呼ばれるもので、『一番上』を意味します。柿は木に成る一番上ではなく、柿から渋を取っていた時代、一番上に渋がありすくい取っていたから。
余談ですが同じ意味で「し」が付けられている『姉』も女の一番上という意味になります。
妻籠宿の秋の風物詩と言われる「つとっこ」を先日の街道歩きで初めてお目にかかることができました。柿が秋の陽に照らされて、藁の間から笑っているように見えました。ほどよく干されて食べ頃になると、抜いて違う柿を入れるということもできるようです。
つとっこは柿を藁で包んで干してあります。それ以外の干し方はどの地域にも見られる皮をむいて干す方法と、枝ごと切ってきてそのまま干す方法とがあるそうですが、街道筋では皮をむいて干してあるのは見られませんでした。
藁の隙間から見える鮮やかな柿色はとてもきれいで、まさに秋を楽しむことができました。
藁に包まれた柿の種類は渋柿で百目柿。命名は昔の尺貫法で百匁から来ていて375グラムくらいの大きさだったからだそうですが、現在は結構大きく百匁を超えて500グラムくらいの大物もあるそうです。
類似のものでは、つとっ子……秩父地方特産でトチの葉で餅米などを包んだ保存食で朴葉などでも作られるものがあります。その他の地方によっては、つとこ、つつっこ、つっとこなどの言い方もあるようですが、昔は冷蔵庫などありませんから、風通しの良い場所に吊して保存したからなのでしょうね。
当該看板はお年を召した方が書かれたような、なつかしく温かい文字看板でした。
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Japan Geographic Web Magazine
Editor Yukinobu Takiyama
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